294.お節介
「だけど……ヴァロリアー地方の盗賊団を討伐しても話はそれで終わりじゃないらしいんですよ。どうも、その盗賊団はもっと大きな盗賊団の傘下に入っているグループらしい……とエスヴァリーク帝国騎士団の方から聞いたんです」
「って事は、まだまだ上の奴等が居るって事なのか?」
エルザの質問にティーナは頷く。
「はい。その盗賊団のリーダーから聞き出した情報ですと、もっと上の存在の手掛かりは今回行なわれる武術大会の中にあるそうなのです。ですから私もドリスも参加する事にしたんですよ」
「えっ、ドラゴン討伐の為に参加するんじゃないのか?」
「それも考えたんですけど、その盗賊団を徹底的に討伐しないと何だか気が済まなくて。肩透かしを食らったみたいで嫌だとは思いません?」
「まあ、気持ちは分からないでも無いが……危険じゃないか? 女二人だけって言うのも……」
余計な事を言っているかなーと思いつつ、そんなに大きな盗賊団を相手にするのにたった女二人でと言うのは、エルザにはどうも心配でならなかった。
しかし、その一言がヒルトン姉妹の心に火をつけてしまった様である。
「それってどう言う意味よ? 私と姉様の実力を信用してないって言うの?」
「いや、そうは言っていないだろう。ただその盗賊団のレベルがどれ位なのか分かっていないのに、討伐云々ってのはちょっと無暗に突っ込み過ぎなんじゃないかと思ってな」
「はー、何処の誰だか知らないけど……私達の腕を疑っているって事ね? 良いわよ、それじゃ武術大会の決勝トーナメントに勝ち上がって来なさいよ。私も姉様も勝ち上がる自信があるからね。そこで直接対決しましょうよ!!」
「おいおい、何でそうなるんだ? まあ落ち着けって……」
ややこしい事になってしまったと変な汗が流れながら、エルザは懸命にドリスの暴走を止めようとする。
だが、その二人の会話に姉のティーナも割り込んで来た。
「落ち着けませんね。私達の実力を信用していない様な物言いでしたわ。こうなれば力尽くででも私達の実力を認めて貰わねばなりません。私と武術大会で勝負しましょう」
「いーえ姉様、私がやるわよ! 私にやらせて欲しいのよ! こんな何処の馬の骨とも分からない様な女相手に、私が負ける訳無いでしょう!?」
「そう……まあ、その決勝トーナメントで運良く当たれば良いですけどね。それでは私達はこれで。決勝トーナメントでお会い出来るのを楽しみにしていますわ」
「あ、おい、ちょっ……」
パーティーメンバー全員の目の前でエルザに宣戦布告をしたヒルトン姉妹は、そのままクルリと踵を返してスタスタと去って行った。
そして残されたレウス達一行の視線が、一斉にエルザに集まる。
「おい……どーすんだよエルザ、あんな事言っちまってよぉ~」
「そうだぞ、取り返しがつかなくなっただろう。これでもしトーナメントで負けてしまったらそれだけでドラゴンの生物兵器討伐のチャンスが潰れてしまうんだぞ?」
「頼むから怒らせる様な事を言わないで欲しいわね」
サィード、ソランジュ、サイカに一斉に責められたエルザだが、彼女は反省する所か開き直った。
「だ……大丈夫だ。私が勝てば何も問題無いだろう?」
「そう言う問題じゃないと思うがな」
「そうよ。心配なのは分かるけどあれはお節介だったわよ」
そんなエルザを冷ややかな目で責めるセバクターとアレットに続き、締めの一言をレウスが言ってからサィードに質問する。
「とにかく怒らせる様な事言うな! で……サィード、あの姉妹の実力は盗賊団を討伐する位だからなかなかのものだと思うが、ギルド所属の冒険者なんだろう?」
「ああ。お前の言う通りギルド所属の冒険者でもあるし、傭兵としても活動している。実際に戦った事は無いから個人の実力は分からないんだが、あの二人のコンビネーションを破った者は数少ないって話だぞ」
「コンビネーション?」
「そうそう。あの二人は個人で戦うよりも、二人でコンビネーションの技を繰り出して相手を追い詰めるんだ。それで有名になってるんだよ」
個人個人でもそれなりに実力があるらしいとさっきの二人の態度で何となく察したものの、それ以上の実力を発揮するコンビネーションはどう言うものなのかを見てみたい気持ちはサィードの中にもあるらしい。
しかし、その前にサィードはやるべき事がある。
「さってと、あの姉妹のおかげで時間食っちまったけど俺達の目的は忘れてねえよなあ?」
「ああ、手合わせだろう?」
「そうだ。もうちょっとだけ城下町を見回ってからやるとしようぜ。どっか良い場所しらねえか、セバクター?」
「そうだな……街の外れに空き地があるから、そこなら良いんじゃないのか?」
「よっしゃ、なら決まりだな。でもまだまだこの城下町は見回れる所があるみたいだから、引き続き観光案内を頼むぜ」
レウスよりもサィードが中心となって話が進んで行く。
話が段々複雑になって来たと思いながらも、レウスはそのサィードとセバクターの後に続いて再び歩き出した。
前と同じく、その一行の様子を遠目に監視している人物の存在には気付かぬままに……。