291.頼みたい事
登場人物紹介にエスヴァリーク帝国騎士団員ニーヴァス・ローレディルを追加。
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武闘派の人物が多いエスヴァリーク帝国では、武術道場もかなり数が多いのが特徴である。
それに伴って病院の数も多く、下手したら商店の数よりも道場と病院を合わせた数の方が多いかも知れないと言うのがセバクターの見立てである。
それもこれも、全てはこの武闘派の国民が多いからこその需要があって成り立っているのだ。
他にも武器屋や防具屋も多いし、カシュラーゼには流石に劣るものの魔術関係の物品を売っている店もかなり多い。
それからサィード曰く、自国以外の傭兵を毛嫌いしていたカシュラーゼとは違ってこのエスヴァリークは傭兵の多い国として知られているらしい。
「やっぱり戦うのが仕事の奴等にとっては、このエスヴァリークが聖地と言っても過言じゃねえんだよ。世界各地に騎士団の駐屯地があるからそこの駐屯地経由でエスヴァリークの仕事が受けられるし、国内でも至る所で傭兵を募集しているし、自分の腕一本で戦って食って行きたいって奴等はどんどんエスヴァリークの息が掛かっている場所に住みたがるからよ」
そう説明するサィードに対し、アレットから質問が飛ぶ。
「じゃあ、サィードはエスヴァリークに住もうとは思わなかったの?」
「んー、俺も出来ればそうしたいと思っていたんだが……俺はどうも国が滅亡したって事で一か所に留まり続けるのがトラウマになっちまってるからよぉ。だから定期的に住む場所を変えているんだ。ギルドを通せば傭兵の仕事なんて幾らでもあるし、それ以外にも港で荷揚げの仕事をやったりとか、力関係の仕事だったら何でもあるから食うには困らねえのよ」
「あー、そうなんだ……」
かつて自分が生まれ育った、このエスヴァリークの隣にあったヴァーンイレス王国の出身である彼が体験した恐ろしさは、それはそれは計り知れないものだっただろう。
そして今、その敵を討つ為に彼は自分達と一緒に旅をしているのだと言う事実も忘れてはならないのだ。
なのでその旅を少しでも早く終わらせる為に、一行は観光がてらドラゴンの事も聞いて回ってみる。
すると、そのドラゴンの生物兵器に関する事実が次々と判明した。
「大きさは普通のドラゴンと余り変わらないけど、動きが妙に速いのか……」
「って事は、物理攻撃を当てるとすると私やサイカみたいにスピードが売りの人間が重要になるだろうな」
サイカとソランジュがドラゴンに対する対策を立てるものの、アレットとエルザは防御面での対策を考えていた。
「でもさー、中途半端に防御をする位だったら一気に全員で掛かって倒しちゃった方が良くないかしら?」
「それは私も思う。ただ、攻撃力が高いって話もペーテルさんの話通りみたいだし、不用意に攻撃して全員で巻き添えでドラゴンの攻撃を食らってしまったら目も当てられないぞ」
「それはその時の状況次第によるんじゃないのか」
椅子に座って対策を考えているアレットとエルザの元に、焼いた野菜を細かく切って串焼きにした食べ物を持って来たセバクターが加わる。
没落してしまった貴族とは言え、セバクターにとってはここが地元なので今の状況を見過ごすのはやはり出来ないらしく、自分用に買って来た肉の串を頬張りながらもその表情は真剣である。
その三人とソランジュとサイカの二人から少し離れた場所に座っているレウスとサィードは、骨付きの大きな肉を頬張りながら自分達の目の前にあるコロシアムを見上げて話し込んでいた。
「こうして近くで見てみると、本当に大きいんだよな闘技場って」
「そーだよなー」
今、レウス達のパーティーが居るのはユディソスの中心街にある闘技場のそばの広場の一角である。
武術大会が一週間後に迫っている事もあって、至る所に武術大会の日程が書かれている紙が張り出されている。
また、武術大会に参加する為に集まって来たと思わしき屈強な人間や獣人の男女がかなり大勢、武装して街中を歩き回っているので何だか物々しい雰囲気だ。
そして、その武装した人間や獣人が城下町の中で騒ぎを起こさない様に至る所に騎士団員が立って目を光らせているのが、その物々しさに拍車を掛けている。
その行き交う人通りを見ながら肉を食べていたサィードが、唐突にレウスに頼み事を切り出した。
「俺さ、頼みたい事があるんだ」
「……何だ?」
「俺、まだ五百年前の勇者の実力を自分で体験した事無いからさ。俺と手合わせしてくれねえか?」
「はっ?」
突然何を言い出すのかと、肉を食べていた手を止めて目を白黒させながらサィードの方を向くレウス。
その向いた方向にあったサィードの顔は真剣そのものだ。
「いや、ちょっと待て。今やらなくても武術大会でやれるチャンスがあるんじゃないのか?」
「いいや、今だからこそこうやって頼んでんだよ。今じゃなきゃ駄目なんだよ」
「どうしてそこまでこだわる? 別に武術大会の時でも良いだろうに。それともそうやって頼むって事はそれなりの理由があって俺に頼んでいるんだよな?」
「勿論だ。じゃなきゃこのタイミングで頼んだりしねーよ」
だったらその理由とやらをしっかり話して貰わなければ納得しないレウスは、サィードが口を開いて話し始めるのを待った。