288.セバクターの実家
そのドラゴン討伐の為に武術大会に参加する事になった一行は、セバクターの屋敷に泊まらせて貰う事にした。
かつてペーテルが使用人をしていた事もあってさぞかし広いのだろうと思いきや、貴族街の外れにある小さめの屋敷であった。
「着いたぞ、ここだ」
「……何か、イメージと違うなー」
「貴族が全て大きな屋敷を持っている訳じゃあ無いからな」
本心から出たレウスのセリフにも特に表情を変えず、淡々とした口調でそう言うセバクターは屋敷の中に入った。
貴族として活動していた頃は使用人が五人は居たと言うその屋敷も、今では人っ子一人居なくなってしまっている。
それでも見るも無惨に荒れ果てたりしていないのは、元使用人であったペーテルが何時か帰って来るであろうセバクターの為に定休日の仕入れの後に、掃除等の手入れを簡単にではあるがしていてくれたかららしい。
しかし、やはり細かい所までは彼一人では手が回らないのか埃が溜まっている場所もあるので、まずはパーティーメンバー総出で掃除に勤しみ始める。
「こうやって掃除とかの手入れをしていると思い出すわ。私の家にソランジュがレウス達を連れて来た時みたいだってね」
「ああ、そうだったな」
ソルイール帝国で借家を使って生活していたサイカが、レウス達とのファーストコンタクトを果たした後の流れを思い出して遠い目になる。
この屋敷の広さは、例えて言うのであればマウデル騎士学院の学生寮の四分の一程度。もっと言えば一般的な民家の二倍程度の広さしか無く、階数も二階までしか無い。
セバクターの証言した所によれば、地方都市で活動していた頃はこの五倍は横に広い屋敷を持っていたらしいのだが、帝都ユディソスは地価も高く土地も少なかったのでそこまで広い土地と建物が買えなかったらしいのである。
故に、このレベルの屋敷でも「ちょっとは」頑張っている方として認定されるレベルであるのだが、やはり劣等感はあったのだと語ってくれた。
「その後、ジレイディール家は貴族同士の争いに巻き込まれましてね。軍備拡張を狙って領土の拡大を進めようとしていた武力派と、余りにも軍備の拡大をしたら自国と他国それぞれから反感を買うから止めておいた方が良いと進言した穏健派でね。ジレイディール家は穏健派に所属していたのですが、軍備拡張を叫ぶ貴族の方が圧倒的に大きく、争いに負けて没落してしまったんです」
夜はそう事情を話すペーテルが中心となって夕食も振舞ってくれる事になったのだが、レウスはその前に屋敷の中で見つけた設備を使ってやる事があった。
それは簡素ではあるものの通話が出来る通話スポット。
ここから遠く離れたリーフォセリアに掛けるのは魔力が多く必要なのだが、常人の十倍の魔力を体内に蓄積しているレウスにとっては何て事は無いので、セバクターとペーテルに許可を貰ってから通話を試みる。
(あの男、今はまだ仕事中かな?)
時間的にまだ仕事の終了時間には早いかなーと思いつつも掛けてみた所、通話の呼び出し音が二回鳴ってから相手が出てくれた。
『……はい、誰だ?』
「あっ、出た……俺だよ俺、レウスだよ」
通話に出てくれた相手は自分の事が分かっていない様なので、まずは名前を名乗る。
『ん、レウス? 久し振りだな。今何処に居るんだ?』
「今はエスヴァリークに居るんだ。そこの貴族の屋敷から掛けてる。そっちは仕事終わりか、ギルベルト?」
『まあ……まだ仕事はしているけどもうちょっとで終わる』
レウスが通話魔術で連絡を取ったのは、自分の両親であるゴーシュとファラリアを送り届けて貰うのを約束してイーディクト帝国で別れた、リーフォセリア王国騎士団長のギルベルトだった。
「そう? だったらまた後で掛け直そうか?」
『いや、俺の方は大丈夫だ。安否確認で連絡して来てくれたのか?』
「まあ、それもあるんだけど……ちょっと色々まずい事になってな」
『まずい事? また何かトラブルが発生したのか?』
「そうなんだ。それもカシュラーゼ絡みでのトラブルとエスヴァリーク絡みのトラブルが一気に発生したんだ。最後までとりあえず聞いてくれ。それからメモの準備も頼む」
『え、ああ……分かった。ちょっと待ってな…………良いぞ、話してくれ』
「ええと、まずカシュラーゼの方なんだけど……」
ギルベルトに連絡を入れたレウスは、彼と別れた後から今までの事をなるべく細かく話した後、武術大会に参加する流れになったのを伝えた。
「って訳で、カシュラーゼに探りを入れる事って出来ないか? こっちはこっちでドラゴンの討伐に向かわなければならないんだ」
『それは良いんだが……こっちもこっちでちょっと忙しいから、まずはその武術大会に参加する時にもう一回掛けて来て貰えないか? 武術大会は何日後なんだ?』
「ペーテルって人の話では一週間後って言ってたけど、それだけあれば十分か?」
『あー、それだけ時間あったら調べられるだけ調べてやるさ。じゃあ武術大会の前の日にまた掛けて来てくれ。今の所まだ何も予定入ってないから大丈夫そうだし』
「分かった。それと父さんと母さん送り届けてくれて助かったよ」
『気にすんな。これも俺達騎士団の仕事だからな。それじゃそっちも上手くやれよ』