287.参加する理由
登場人物紹介にエスヴァリーク帝国皇帝ジェラルド・メルヴォナスを追加。
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アークトゥルスの墓、つまり自分がどうなったのかを知るチャンスがいよいよやって来たのだろうと考えるレウス。
しかしそれ以前にやらなければならない事が山程残っているので、南西の方にあるその墓に向かうのは必然的に後回しになるだろう。
(自分の墓に向かうのなんて、この世界の誰も経験した事が無いだろうがな……)
勿論、自分だって自分の墓参りをするのは初めてである。
それでもその墓に行けば何かが分かるかも知れないと踏んだレウスは、カシュラーゼでレアナを助け出した後に墓参りに来ようと誓うのであった。
「そうですね、機会があれば是非行ってみたいと思います」
「是非是非。それでは建国の歴史のお話に戻りましょうか」
そのアークトゥルスの墓を作ったガラハッドは、何時またエヴィル・ワンの様な破壊の化身が現われても良い様に、完全実力主義の軍事力で他国を圧倒出来る位の騎士団を中心とする国を作ろうと決めた。
それがこのエスヴァリーク帝国であり、ガラハッドがその国の初代皇帝として君臨すると共に、国内外の腕利きを選考する武術大会の開催も決まったのである。
だからこそ、歴代の武術大会から選出されたのは腕利きの連中ばかりであり、現在の騎士団でも昔の武術大会の上位入賞者が上の地位に居るのが多数である。
「私も、もしセバクター坊っちゃんがエスヴァリーク帝国騎士団に入団していたらかなりの地位にまで行っていたと思うのです」
「良いから早く話の続きをしてくれ」
「……失礼致しました。それで今回、ドラゴン討伐に当たって武術大会で上位に来た者を選び出すのもドラゴンに対抗出来るだけの戦力が必要になったからなのです」
とにもかくにも、まずはこの帝都ユディソスで開かれると言う武術大会に参加してドラゴンの討伐権利を獲得しなければならない。
しかし、それについて疑問を持ったのがエルザである。
「なぁ……先程からずっと疑問に思っていたんですが、別にわざわざドラゴンの討伐権利を獲得して討伐に向かう為に武術大会に参加なんてしなくても、そのままドラゴンの居る場所に向かって討伐してしまえば良いんじゃないですか?」
「そうそう。俺もさっきそれ思ってそれを聞いたら、話が何時の間にか建国の歴史になっちゃってたろ」
最初のサィードの話が少しずつ脱線し、武術大会の参加者決めからレウス驚愕の建国の歴史の話になって行ったので、ここでようやく話が元に戻った。
このエスヴァリーク帝国独自のシステムがあって、ドラゴン討伐には武術大会の上位入賞が必須条件らしいのだが、そんなものに頼らなくてもまっすぐドラゴンの元に向かって討伐してしまえばそれで終わりだろう。
そう考えるサィードとエルザに対して、ペーテルは首を横に振った。
「そうお考えになるのも無理はありません。しかし今、北の地域は騎士団によって封鎖されているんです」
「封鎖?」
「はい、それには二つの理由があります。まず一つ目ですが、ドラゴンによってもたらされた北の地域の被害は割と大きく、魔術が効かないと言う事もあって騎士団を中心として傭兵や各町村の自警団も加わり、復興作業に勤しんでおられます。なので騎士団の人員不足が懸念されており、今はなかなかドラゴン討伐に割ける人員が居ないのです」
「まぁ……それなら仕方無えか。で、二つ目の理由ってのは?」
「そちらは通行証の話ですね」
「通行証……?」
通行証と言えば、例えばリーフォセリアであれば貴族害等の重要な区域に入る為に必要な物である。
もしかしてそれって……と予想を広げるレウス達に対して、ペーテルはカップに入った紅茶をすすってから答える。
「はい。北の地域の被害は大きく、封鎖して集中的に復興に当たっておられます。ですがそうした大規模な被害があるからこそ、なかなか犯罪も起こりやすいもの。そうした犯罪を抑止する意味で封鎖をしているのです。ですからその地域に入る為には、騎士団の関係者か武術大会で上位入賞した者にしか与えられない通行証が必要なんです」
「うわ、そんなシステムかよ……」
確かにドラゴンの被害が大きいとなれば、その被害から広がる二次災害や三次災害を防ぐ為にも人の出入りを少しでも制限するのは得策だろう。
しかし、それが何時までも続くのは国内の経済としてもよろしくは無い。
これは一刻も早くそのドラゴンを討伐しなければならないし、ドラゴンを討伐したらそのドラゴンによって被害をもたらされた国はカシュラーゼに対して報復措置に出るだろう。
「結局、ドラゴンを討伐する為にはまず武術大会に出なきゃならないって事か」
「そうだなー。ったく、実力を証明する方法なんてそれこそシャロット皇帝みたいに、魔物をどれだけ討伐したかとかの実績ででも判断出来ると思うんだけどなぁ」
回りくどくて時間も掛かるこんなやり方で本当に良いのだろうか? と首を傾げるエルザとサィードだが、それでもシステムはシステムなのでどうしようも無い。
ただしそこはペーテル曰く、メインの年四回の武術大会のみならず他にも帝国の各地方で武術大会を開催し、それによってドラゴン討伐の為に必要な人材を集める事もほぼ決まっているらしい。