286.怒りとやるせなさ
ガラハッド。
それはレウスに……いやアークトゥルスにとってはあのドラゴンのエヴィル・ワンを倒す為に一緒に旅をして来た仲間であり、そして自分を後ろから刺して殺した男でもある。
その男が、このエスヴァリーク帝国を建国した?
今にも叫び声を上げて発狂しそうになりそうな気持ちを必死になって抑えながら、崩れ掛けたポーカーフェイスで深く突っ込み始めるアークトゥルス。
「な、なあ……そのガラハッドって言う人についてもっと聞かせてくれないですか? この国の歴史に興味が出て来ましたよ」
「ええ、構いませんよ。それではどの辺りからご説明致しましょう?」
「えーと、それじゃあその……ガラハッドってのがどんな人物だったのかって所からお願いします」
興味が出て来たのは本当だが、ガラハッドについては自分が彼の身近で活動していたパーティーメンバーなので知り過ぎる程に知っている。
それでも、自分の正体がまだこのペーテルにバレていない以上は知らない振りをして通した方が色々とうるさそうだし、周りのメンバーもそんなアークトゥルスの心情を知ってか知らずか彼の質問に突っ込む事無く静観している。
そんなアークトゥルスに対して、ペーテルはガラハッドについての説明を始めた。
「このエスヴァリーク帝国を建国されたガラハッド様は、先程の説明の通り五百年前に魔竜エヴィル・ワンを滅ぼした五勇者の一人です。五勇者についてはご存じですか?」
「はい、それは知っています。えーと確かそのガラハッドから始まって、トリストラム、ライオネル、エレイン、そして後は……アークトゥルスでしたっけ?」
「そうです。良くご存じですね。その五人の勇者達が世界中から集められ、各地を旅して力をつけて魔竜エヴィル・ワンに立ち向かいました」
アークトゥルスであった自分が最初にエヴィル・ワンに遭遇したのが切っ掛けで、世界各地でそのドラゴンによる被害がもたらされている事を知った。
だからそのドラゴンを倒すべく世界各国を回り、その過程で仲間達を集めた。それがその四人の人間だった。
エンヴィルーク・アンフェレイアの歴史の書物にもそう記されているのだが、ここは黙ったままペーテルの話に耳を傾ける。
「そして仲間を集めたアークトゥルスは、見事その仲間と協力してエヴィル・ワンを打ち倒しました。ですが……そのエヴィル・ワンを倒した際に運悪くアークトゥルスが相打ちになってしまい、息を引き取ったと聞いております」
「へ、へぇ~……そうなんだ……」
怒りとやるせなさで、握った拳がギリギリと震えるのが分かる。
本当は同士討ちなんかじゃなくて、このエスヴァリーク帝国を建国したって言うガラハッドに後ろから刺されて殺されたんだよ!
そう叫びたい気持ちを寸前で抑え込みながら、そう返事をするのが精一杯のアークトゥルスに気付いたか気付かないかは定かでは無いが、ペーテルが話を続ける。
「そうです。そしてそのアークトゥルスの死を悲しんだガラハッドは、二度とエヴィル・ワンを復活させない様に武力を整えた国を建国する事に決めました。それがこのエスヴァリーク帝国だったのです」
「……分かりました。ちなみにその……アークトゥルスって人は死んだ後この世界の何処かに墓が作られたって学校の授業で習ったんですけど……」
その墓から魔力が流れ出した結果、自分がアークトゥルスの生まれ変わりであるとギルベルトに知られてしまったのも記憶に新しいレウスは、ふとそのギルベルトと手合わせした後の会話を思い出していた。
『実は……これはまだ本当にごく一部の者しか知らない事実なのだが、国王陛下が他国へ視察に向かった時に、アークトゥルスの墓を見つけたんだ』
『え、墓?』
『ああそうだ。そしてその墓の奥深くから、ほんの僅かに魔力の流れがある事が分かった。その魔力はずっとこっち側にまで流れて来ていて、そしてお前の住んでいる田舎町の方角まで流れていた。俺は極秘に調査部隊を派遣し、お前の家にその魔力の流れがある事を突き止めた』
『じゃ、じゃあ俺の家に何かがあるって事なのか?』
『いいや、そうじゃねえ。お前の家じゃなくてお前自身に向かって魔力が流れているんだよ』
『はい?』
『アークトゥルスの墓から流れ出た魔力が、お前に向かって流れているって事はこれは普通じゃねえって事は分かる。そして、お前は何かに導かれる様にこの王都カルヴィスにある騎士学院に入学した。果たしてこれは偶然と言えるかな?』
『偶然でしょ』
その偶然の流れでここまで来てしまったレウスに対して、ペーテルはその墓の場所を伝え始める。
「はい。その勇者アークトゥルスの墓は私達が出会ったトルバスの町の更に南にございます。南西の方に森があるのですが、そこが「アークトゥルスの森」と名付けられている場所なんです。その森の中にアークトゥルスの墓があり、かつての勇者アークトゥルスのお墓参りに来られる方が国内、国外問わずに多くいらっしゃいます。機会があれば一度行ってみてはいかがですか?」