284.帝都ユディソスにて衝撃の事実発覚
無事に帝都ユディソスへ入った一行は、先に入っていたセバクターとペーテルに合流してペーテルのバーへと案内して貰う。
「ささ、どうぞこちらへ。ここが私の経営している店です」
「へえーっ、なかなか素敵な所じゃないですか」
赤を基調としながらも、なかなか落ち着いた雰囲気の漂う店内空間。
店主のペーテル曰く、この店は元々別の店だったものを居抜きで購入した格安物件らしく、セバクターの家の使用人時代に貯めた金を使ってリフォームしたらしい。
イメージは「城の中にある騎士団員達の酒場」で、壁には小さめのバトルアックスや槍等の武器が飾ってあるのも特徴だ。
基本的に夕方から店を開けるので今の時間は営業をやっていない上に、今日は定休日なのでその定休日を仕入れに使っているのだと言う。
だが、それに対してエルザが疑問を浮かべる。
「しかし定休日に仕入れをするのは分かるとしても、自分達と出会ってから何日も経っているならその理屈は通らなくないですか?」
それについて、今回は自分の方から酒を向こうまで取りに行かなければならない事情があったのだとペーテルは説明する。
「ええ、そうなのですが……本当は私の店に毎月こうしてトルバスの町から酒を運んで来てくれるのです。が、今回は運悪く酒の業者の方が体調を崩されまして、ユディソスまで来る余裕が無いとの話でしたので私がトルバスの町まで出向く事になりました」
「あ、なるほど」
「それでは皆さん、厚かましいとは思いますが酒の搬入を手伝って頂けませんか?」
「ああはいはい、分かりました」
酒を積んだのであれば降ろさなければならないので、馬車の荷台に積んでいた自分達の荷物を下ろしてから酒の入っている箱をどんどんメンバー全員で降ろして行く。
とは言っても量がそこまで無いので、すぐに終わってしまった。
「助かりました。お礼に今日はお食事をご馳走致します。ついでにこのエスヴァリーク帝国の武術大会の概要についても何名か知らない方がいらっしゃる様ですから、私の方からご説明致します」
「あ、じゃあ俺も料理作るのを手伝いますよ」
「私も手伝います」
レウスとアレットが手を挙げて手伝いを申し出たが、ペーテルは慌てて二人を引き留める。
「あ、いえそこまでして頂く訳には……」
「良いんです良いんです、これでも俺はリーフォセリアでは食堂の従業員として働いていましたから」
「私も料理の腕には自信があるんです」
「そうですか、すみません……ここまでして頂けるなんて」
申し訳無さそうな声と表情になりながらも、せっかく手伝って頂けるのであれば……と素直にその手伝いを受け入れたペーテルとレウスとアレットによって、さほど時間も掛からずに料理が完成した。
休業中ともあって店内は何時もより薄暗くなっているが、それでもまだまだ真昼間なので時間には余裕がある。
「さて……我がエスヴァリークの武術大会ですが、毎年四回開催されております。その歴史は既に二千回を超え、五百年以上の中で進化を繰り返して来ました」
「ご、五百年ですか!?」
「おいおい、歴史がある大会ってーのは聞いてたけどよぉ、それって幾ら何でも昔からやり過ぎなんじゃねえのかぁ?」
想像していた以上の歴史があると知って驚くエルザと、半ば呆れた様な口調でそうぼやくサィードだが、ペーテルは苦笑いを浮かべて続ける。
「そうですね。五百年ともなれば流石に驚かれるのも無理はございません。今ではエスヴァリークを代表する催し物と言っても過言では無く、エスヴァリーク国内のみならず世界中から挑戦者が訪れます。そして上位入賞者には帝国騎士団への入団資格が与えられ、毎年優秀な騎士団員を輩出して来ました。歴代の騎士団長の中には、その武術大会から入団した者も少なくないのですよ」
「へぇーっ、それじゃさぞかし士気も高いのでしょうね」
「左様でございます」
だが、エルザが感心している一方でレウスは心に引っ掛かりを覚えていた。
五百年の歴史があると言えば、丁度自分がエヴィル・ワンを討伐した時代と当てはまる長さだ。
それについてどうしても聞いておきたいレウスは、やや焦った様にペーテルに切り出した。
「あの、ちょっと聞きたいんですけど……五百年前って言えば、確かこの世界に災厄をもたらしたドラゴンが討伐されたのと同じ位じゃないですか?」
「そうですよ。その討伐から五年後に勇者のお一人がこのエスヴァリーク帝国を建国されたのです。そして武術大会も建国と同時に始まりました」
「え、ゆ……勇者って?」
まさか……と変な胸騒ぎがするレウスに対し、隣に座っていたセバクターがそんな彼に気が付いて補足情報を切り出す。
「まだ話して無かったか? なら教えておく。この国はガラハッドと言う、ドラゴン討伐の五勇者の一人が建国したんだ」
「が……ガラハッド!?」
「そうです。そのガラハッド様がこのエスヴァリークを建国して下さったからこそ、現在まで続くこのエスヴァリーク帝国があって武術大会があるのです」
余りにも衝撃的な事実。
それは、レウスにとって絶対に認めたく無い記憶を呼び起こさせるものだった。