283.入国審査
帝都ユディソスに辿り着いた一行だったが、まずは入国審査を受けなければならない。
基本的に他国との国境は余程の事が無い限りはフリーパス状態で入国出来るのだが、先程サイカがアレットに話していた通り各地の拠点に入るには、帝国民で無い者は入国審査が必要なのだ。
これは例え、他国の貴族であろうが王族であろうが例外は認められない。
セキュリティの都合上、異分子が入り込んで問題を起こされたら厄介なのは目に見えているからだ。
「それじゃ俺とペーテルは先に中に入っているから、お前達は入国審査を受けてから来てくれ」
「分かった」
念の為、レアナから分けて貰った荷物は全て酒が入っている馬車の荷台に乗せ、セバクターとペーテルが先にユディソスの街の中に入って行く。
その後、返事をしたエルザを始めとする残りのメンバーは入国審査を受けるべく騎士団が目を光らせている列に並んだ。
「まさか入国審査があるなんて思ってもみなかったわ……」
「そんな心配する事無いぞアレット。やましい事が無いならお主も私と一緒に堂々としていれば良いんだからな」
「う、うん……」
「ああ、私達の番だ。行こう」
ソランジュに励まされてからエルザに先導され、まずはそのエルザが先に入国審査を受ける。
名前、出身、年齢、何処から来たのか、目的は何か。一通りの入国審査に必要な話を聞き出された上に持ち物検査の身体検査もされる。
女の場合は女の検査官がきちんと用意されており、その検査官がアレット、エルザ、ソランジュ、サイカの身体検査を担当していた。
そして問題はこの男である。
「俺は前に来た事あるから良いけどよぉ……アークトゥルスの生まれ変わりのお前はどうしても引っ掛かりそうな気がするんだよなぁ……」
「俺もそう思う。だがここまで来てしまったからにはもう腹を括るしか無いだろう」
「そうだな。じゃあ俺が先だから、まずは俺から行って来る」
先に順番が回って来たサィードの背中を見送ったレウスは、自分のこの強大な魔力をどう隠せば良いのかと考えていた。
常人の十倍もの魔力があると言う事は、それだけで怪しまれる原因になる。
今までずっと地元の田舎町で暮らしていて、周りの人々もそれを当たり前だと受け入れてくれたし、その現状に満足して外の世界で自分がどう見られるかなんて考えてもいなかった。
しかし、自分が望んだ訳では無いにせよこうして他国まで遥々やって来て、初めて自分の魔力の多さが異常なのだと気付かされた。
(誘拐されたし、ソルイールではあのクソ野郎に散々振り回されたし、イーディクトでは最初からあの皇帝に俺がアークトゥルスの生まれ変わりだってバレていたし……カシュラーゼでは魔力の多さに目を付けられて実験の道具にされていたからな)
だからこの入国審査でも絶対に何かを咎められる可能性が高いので、どうにかして怪しまれないかを考えるレウス。
魔力を意図的に抑えられる様な魔術があれば良いのだが、あいにくそんな都合の良い魔術は持ち合わせていないし、そもそも魔術の中に存在すらしていない。
先程自分がサィードに言った通り、もうこれは腹を括るしか無いと決めて入国審査官の元へと向かう。
「良し、次。……まずは名前を言え。フルネームだぞ」
「レウス・アーヴィンだ」
名前を答えた瞬間、入国審査官の表情が僅かに曇った気がした。
「年齢は?」
「十七歳」
年齢を答えた瞬間、入国審査官の視線が妙に値踏みする様なものになった気がした。
「出身は?」
「リーフォセリアだ」
出身を答えた瞬間、入国審査官の口元がややヒクついた気がした。
「何処から来た?」
「同じくリーフォセリアのカルヴィスから」
来た場所を答えた瞬間、入国審査官の顔が何かを確信した様なものに変わった気がした。
「ユディソスに来た目的は?」
「観光だよ」
目的を答えた瞬間、入国審査官の緊張が解けた気がした。
「そうか、分かった。それでは最後に持ち物検査と身体検査を行なう。向こうへ行け」
(……あれ、これで終わりなのか?)
それでも特に何かを咎められる事も無く、レウスは持ち物検査と身体検査をさせられる。
愛用の槍と金の入っている袋を預け、両腕を地面と水平になる様にまっすぐに横に向けて伸ばして怪しい物が無いかボディチェックを受ける。
「良し、異常無し。門を潜って中に入れ」
「ああ、どうも……」
槍と金を返して貰い、何とかこれで入国審査が終わったと安堵するレウス。
しかし、彼の心の中はまだモヤモヤが残っていた。
(さっきの入国審査官の顔……明らかに俺を見て動揺していた様な気がするな)
それも名前を答えた瞬間から、微妙に表情が曇った様な……もしかしたら考え過ぎなのかも知れないが、それでも気になるものは気になって仕方が無い。
だが、この入国審査を突破してしまえばユディソス内を歩き回って情報収集に勤しむ事が可能になると言う事で、レウスは先にこの審査を終えて待っている仲間達の元へと向かった。
その彼の後ろで、先程の入国審査官とボディチェックを担当した騎士団員がレウスを見てヒソヒソと何かを話し合っているのには気付かないまま……。