25.「元」勇者の実力
そもそも前世のレウスは、例え五人掛かりで向かって来ようが何て事は無かった。
ただし今の人生、その転生したと言う事実を隠して生きて来た彼はそれを含めて余り目立たない様にしたかったのに、ギローヴァスの件やセバクターの件で徐々に名前が知れて来ている。
しかも赤毛の二人組には、自分の油断から無様にも負けてしまっているのだ。
進んで自分から戦う事は望んでいないレウスだが、これ以上負ける様な事は自分が許せないと言う気持ちも少なからずある。
自分は仮にも、五百年前に世界に災厄をもたらしたドラゴンを討伐した「勇者」の内の一人なのだから。
(こうなったら……『少しだけ』前世の実力を出させて貰うとしようか)
武術教官の合図と共に、クラスメイトの五人はそれぞれ作戦通りに行動開始。
三人がレウスの気を引き、残った二人で死角から攻撃をするとなれば、レウスは迷い無く最初に狙うターゲットを決めていた。
「えっ……!?」
(死角からの攻撃を無くす様にするんだ!!)
レウスが向かったのは、死角から攻撃をする役目を担っていた筈の魔術師の女生徒の方。
前衛の三人には目もくれないまま、最初からまさか自分の方に向かって来られると思っていなかったその女性とは、向かって来たレウスにビックリしてしまい魔術の詠唱が遅れてしまう。
そんな女生徒に対して、レウスはまず牽制の意味で右手に持った槍を一直線に投擲する。
「ぬん!」
「きゃあっ!?」
真っすぐに飛んで来た槍をすんでの所で横に飛んでかわした女生徒だが、運動は苦手なのかまともに受け身を取れないまま地面に仰向けに突っ伏した。
その突っ伏した女生徒に駆け寄ったレウスは、彼女の身体を半ば力任せに強引に引っ張り起こし、膝蹴りを三発入れてから自らの背中を壁にくっつける形で更に攻撃を加える。
(これで死角からの攻撃はしにくくなった。壁を背にして戦えば、それだけで後ろからの攻撃手段はかなり少なくなるからな!!)
勿論、後ろ以外の死角から狙われるリスクも大きくなるし敵に追い詰められやすいと言う欠点もある。
それでも、こうした多人数相手の戦いでは死角を出来るだけ無くす事が大切だ。
むやみやたらに相手の中に突っ込んで行ってしまえば、それだけ囲まれて袋叩きにされてしまう危険性が大きくなるので、まずは一人ずつ潰して行く事をレウスは選んだ。
しかも壁を背にして戦うスタイルを取った事で、女生徒がレウスの盾になってくれているので他の四人も迂闊に手が出せない状況である。
「くそっ、あいつ卑怯過ぎねえか!?」
「まさか向こうを先に潰されに行くとは……!」
「魔術を放てばあの子に当たっちゃう可能性があるしねえ……参ったね……」
「しょうがない、俺があいつを何とか引っ張り出す!!」
四人の中の内、一番血の気が多い狼獣人の男子生徒がレウスと女生徒に向かって自慢のロングバトルアックスを構えて走り寄って行く。
それを援護する為に、痩せ身の魔術師の男子生徒が狼獣人の男子生徒に防壁魔術を掛ける。
防壁魔術は一定の時間、魔術攻撃も物理攻撃もダメージを軽減してくれる優れものである。
もっともっと上のレベルの魔術師になると、かなり長い時間ダメージを完全に無効化してくれるので、戦場を駆け巡る者にとっては欠かせない魔術の一つだ。
その狼獣人の男子生徒が駆け寄って来た事に気が付いたレウスは、自分がパンチの連打を入れていた女生徒を狼獣人の方に突き飛ばす。
それと同時に自分は反対方向に向けて駆け出し、地面に落ちている自分の槍を拾いつつ狙うはもう一人の魔術師の痩せ身の男である。
多数の敵が相手で死角から狙われる可能性があるなら、早めに何人も潰しておかないとこちらのスタミナが切れてしまう。
勇者とて、体力は無尽蔵では無いのだ。
「くっ、アイスランス!!」
槍使いのレウスに対抗してか、氷の槍を作り出して空中から発射する彼だが、レウスはスライディングでその槍を回避しつつ魔術師の男に足払いを掛ける。
更に、足を払われて倒れた魔術師の男の両足を掴んでグルグルとぶん回し、残っている二人目掛けてぶん投げた。
「うお!?」
「あっ、危ない!!」
味方が自分達に向かって飛んで来たので、攻撃よりも先に飛んで来たその味方の救助を優先してしまったのが二人にとって大きな判断ミスとなった。
二人掛かりで魔術師の男を受け止めたまでは良かったが、そこに特大の魔力のエネルギーボールが迫る。
男をぶん投げたレウスはすぐにエネルギーボールを生成し、追撃で投げ付けられる様に準備していたのだ。
ドン、とまるで殴りられたかと間違える程の衝撃があり、受け止めた魔術師の男ごと残る二人も倒れた。
「……のやろおおおおっ!」
そこに残っていた狼獣人の男子生徒が走り寄って来たが、レウスは恐ろしい程に冷静である。
槍を再び拾い上げ、振り被られるロングバトルアックスよりも更に長い槍のリーチを活かして正確に男子生徒の手元を狙う。
ガッ、と鈍い音がした次の瞬間にはバトルアックスが男子生徒の手元から離れ、宙を舞う。
そして彼の目前には、鈍い光を放つ槍の先端が突き付けられていた。
「俺の勝ちだ」




