275.何処に飛ばされたんだ?
「……くぅ……!」
「あったた……」
「な、何が起こったんだよ?」
「くそっ、あの男め……!」
「ちょ、ちょっと……ここ何処?」
「う……な、何か見慣れない場所ね……」
「森の中……みたいだな」
ディルクによって魔法陣の光に包まれて、強制的に転移させられてしまった七人が目を覚ました場所。
そこはまるで見知らぬ森の中であった。
木々がうっそうと生い茂り、日の光がその木々の枝や葉の間の所々から差し込んでいるので間違い無いだろう。
「あの魔術師の男……転移先は知らないとかって言っていたな。少なくともこのカシュラーゼ王国内では無いらしいが、とにかくこの森を抜けて何処か人里を探そう」
「そうだな」
冒険者としての経験が長いレウスとサィードが中心となり、まずはこの謎の森を抜ける事を目指す。
アレットとエルザは騎士団の実技訓練で遠征の経験はあるものの、実際に旅に出たのは今回が初めて。
ソランジュとサイカとセバクターはそれぞれ世界を回っていた冒険者ではあるが、経験の面で言えばまだまだレウスとサィードには及ばないからだ。
幸いにも道は今の所一本道の様なので、その道なりに沿って進んでみる。
「なあアレット、あの魔法陣の文様で大体どの位置に飛ばされたか判断つかないか?」
「……ごめん、もっと余裕があればそれを見る事は出来たと思うんだけど、いきなりの事で気が動転していたからそこまで気を配れなかったわ」
「まぁ、あの状況じゃしょうがないよな。でもこうやって荷物が無事だったのは良かったぜ」
レウスの質問に申し訳無さそうに答えるアレットを横目で見つつ、サィードはハルバードを持っている右手とは逆の左の肩に担いでいる、レアナから「分けて貰った」荷物が色々入った袋を見やる。
全部で五袋分にもなった荷物になるべく被害が及ばない様に、あの乱戦状態に入る前にサィードが纏めて魔法陣の広場の隅に追いやっていたのが功を奏した事もあって、無傷の状態でここまで持って来ているのは奇跡である。
「そうよねえ。サィードがあの光に包まれた時、慌ててこの袋を全部纏めて全部抱えていなかったら今頃私達、何も持たずに放り出されていた所だったわよ」
「だな。これはお主に感謝するしかあるまい」
サイカもソランジュも、そのサィードが纏めてくれた袋の内の一つをそれぞれ肩に担いで歩きながら彼に感謝の意を述べる。
その一方で、ふと疑問に思った事があるエルザはセバクターに対して質問を投げ掛けた。
「なぁ、セバクター」
「何だ?」
「貴様があの魔術師達と一緒に行動していたんだったら、あの魔術師の素性も分からないか?」
「……さあな」
人が苦手なのか人見知りが激しいのか、エルザには目もくれずにボソッとそれだけ答えるセバクター。
しかし、エルザの疑問はそれだけで終わらない。
「そうか。なら少し質問を変えよう。あの魔術師はこんな事を言っていた。僕がどれだけこの世界に生まれてから努力して来たと思っているんだ……とな。もしかすると、あの男もレウスと同じく誰かが転生してこの現代に生まれた人間なんじゃないのか?」
レディクが言っていた「この世界」と言うワードに引っ掛かりを覚えていたエルザは、今こうして一緒に歩いているメンバーの中でカシュラーゼと最も関わりが深いであろうセバクターに質問してみる事で、その疑問が少しでも解消するのでは無いか? と踏んだ上での質問だった。
しかし、彼は尚も前を向いて歩いたまま簡潔に答える。
「知らん。俺はあの連中に雇われた振りをしていただけだったから、そこまで詳しい事情を聞いていない」
「そう、か……だったらあの赤毛の二人の詳しい話も……」
「知らんな」
前にレウスが、リーフォセリア王国騎士団のアンリから聞いていたと言うヴェラルとヨハンナの情報よりも、もっとバックグラウンドが聞き出せているのでは?
そう思ったエルザのその質問にも、セバクターはやっぱり簡潔に答えるだけで終わった。
元々口数が少ないこの男に聞いたのが間違いだったんだな……とエルザは自分の迂闊さに後悔しつつ、とりあえず今はこの森を抜け出す為に歩き続けるだけだと気持ちを切り替えて足を進めるだけである。
その気持ちを切り替えたエルザの前方で、突然レウスとアレットの声が上がった。
「なあ、あれって出口じゃないのか?」
「え……あ、本当ね! 森の出口が見えたわ!」
その二人の声を聞いて、まずはサィードが小走りになって真っ先に出口へと向かって進んで行く。
彼に続いてレウス達も駆け出し、出口から見える光景でこの世界のどの場所に飛ばされたのかを大体把握しようと続く。
だが……。
「うーん、ここは見慣れない場所ねえ……」
「そうだな。今まで回って来たどんな国の光景にも当てはまらないぞ」
「あ、でもほら……あそこに町が見えるぞ?」
「おぅ、本当だな。ならあそこに向かってみりゃー何か分かるだろ」
サイカとソランジュが困惑する横でエルザが町を見つけ、ならばとサィードが進み出そうとした時、セバクターがポツリと衝撃的な一言を呟いた。
「ここ……俺の故郷のエスヴァリークだ」
「……え?」