270.どうやって助け出したんだ?
登場人物紹介にソルイール帝国皇帝バスティアン・ニクラス・メルネスを追加。
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レアナがサィードの提案に乗った?
まさかの展開にこの二人以外の表情が固まってしまう。
思えば自分も一緒に連れて行ってくれだのとかなり突発的な事を言い出す人間だとは実感していたが、まさかこの期に及んで火事場泥棒でもする気なのか? と女王陛下の思考が読めない一行。
しかし、サィードは彼女の考えを割と理解しているらしい。
「あれ? もしかしてお前等さぁ、レアナ女王陛下の言っている事が分からねえか?」
「ああ。全然分からん。魔道具だけをここから持ち出す予定だったのに、どうしてそんな大掛かりな話になったんだ?」
相変わらず冷静な口調のセバクターだが、その顔には僅かながら困惑の表情が浮かんでいる。
それに対してサィードがしっかりと説明し始めた。
「だってよぉ、確かにセバクターの言う様に泥棒は泥棒かも知れねえが、この城は誰の管理下にあるんだ?」
「……あ」
そうだ、自分達の一員として行動していたからすっかり忘れていたのだが、レアナはこの魔術王国カシュラーゼの女王陛下ではないか! とセバクターは思い至る。
となれば例え今はディルクが実権を握っているとしても、立場的な意味で考えればレアナがこの国のトップであるのだ。
だからと言って、何でもかんでも強権を発動して自分の思い通りにしてしまうのはいかがなものかと思うセバクターだが、レアナは彼のその心情を見透かしたかの様に宝物庫内を指差して説明する。
「この宝物庫の中にあるものは定期的に入れ替えを行なっているのですが、長年使われていないものも沢山あるんです。ですからここで腐らせてしまうよりは皆さんで持って行って下さった方が、ずっと保管するよりは良いでしょう」
「……本当に、よろしいのですか?」
「どうぞどうぞ。実際の話、ここに色々とこうして保管するのにも管理費用が掛かりますからね。ですからその管理費用が掛かっている物を毎回余らせてしまってはそれこそ無駄になります。それにサィード様の言う通り、この先で何かと物入りになるのであればその負担を少しでも減らせますし」
「は、はぁ……」
ここまで言われても全く躊躇が無い訳では無いが、名実共にカシュラーゼのトップであるレアナからそこまで言われてしまっては一行も無下に断れなかった。
「それでは有り難く頂戴いたします、レアナ陛下」
「どうぞ。お好きな物をお持ちになって下さい」
にこやかにそう告げるレアナを横目にして、パーティーメンバーは武器、防具、食料、薬に包帯、魔道具、魔術書、アクセサリー等を選べるだけ選んで持てるだけ物入れの袋に詰め込む。
ドミンゴが使っていたビームサーベル等を選ぼうと思ったのだが、体内の魔力の消費が激しいとの話をレアナから受けたので、そう言う物はなるべく選ばずに置いておく。
代わりに魔術書や魔道具を持てるだけ持ち、魔術の文様を編み込んで軽くした武器や防具も持ち出して手早く装備する。
「良し、俺はこんなもんか。他のみんなはどうだ?」
「私は大丈夫よー!」
「私ももう良いぞ」
サイカとソランジュの返事を始め、全員の装備品と携帯品の調達が整ったので宝物庫を後にする一行。
流石に宝石類や現金等の金品にまで手は出せなかったし、実際に手を出そうとしたサィードはレアナに笑顔でスネを蹴られて阻止されたのでNGだった。
何にせよ、思わぬ場所で思わぬ人物の援護を受けてこの先の旅が楽になりそうな展開になったのは有り難かった。
そして一行はレアナの先導で魔法陣のある部屋を目指すべく再び走って進み始めたのだが、その途中でセバクターがこんな疑問をサィードに向かって口に出した。
「なぁ、一つ聞いて良いか?」
「何だよ?」
「俺があの最重要魔術研究室に居た時、外側からお前等があそこの扉を開けさせてレウスを救出したのを見たんだが、どうやってレウスを助け出したんだ?」
レウスを何とか逃がしてやろうとこっそり寝台のロックを解除していたセバクターだったが、最終的にあそこの扉を開けさせて踏み込んで来たアレット達に救出されたのは記憶に新しい。
そんなに簡単に踏み込める場所では無いし、ディルクも用心深い性格なので簡単に開けてくれないと思っていたのだが、何故ああもスピーディーに救出出来たのか不思議で仕方が無かったのだ。
それについて、作戦立案者のアレットが走りながら答える。
「ああ、あれはただ演技をしただけよ」
「演技?」
「そうそう。手下のフリをして中から扉を開けさせる作戦だったの。サィードがやられたフリをしてくれれば引っ掛かってくれるかなって思ったんだけど、まさかあんなに簡単に行くとは思わなかったわよ」
しかし、それを聞いていたエルザからセバクターに質問が返って来る。
「……それよりも私達が気になるのは、あの助け出した時にレウスが口から泡を吹いていたのが気になったんだが、貴様等はそんなに過酷な実験をしていたのか?」
あの時に見た感じでは少しレウスが痙攣していた感じだったので、もしかしたら彼が死ぬ寸前だったのでは? と思っていたのだ。
それに対して、中に居た側の人間であるセバクターはレウスが痙攣していた理由を知っているので、それについて話し始めた。