269.プレゼント
そのめんどくせー魔法陣がある場所に向かって突き進む一行だったが、レアナが突然走るスピードを緩めた。
最終的には普通にスタスタと歩くスピードまで落ちてしまい、後に続く一行は首を傾げる。
「レアナ様、いかが致しました?」
「あの……この近くに少しだけ寄り道をさせて頂けませんか?」
「寄り道ですか?」
いきなり不思議な事を言い出すレアナにレウスがそう聞き返すと、カシュラーゼの女王は首を縦に振ってその寄り道とやらの目的を説明し始める。
「はい。これから先、皆さんの役に立つであろう品物を保管している場所があるんです。ですからそこでプレゼントを皆さんにお配りして、それから魔法陣のある部屋へと向かおうかと」
「プレゼントってどんなプレゼントなんですか?」
今の状況が状況なので、そのプレゼントの内容によってはレウス達はプレゼントを諦めて魔法陣のある部屋へと向かった方が安全である。
その質問をするアレットに向けて、レアナはこの魔術に精通している王国ならではのプレゼントをこのメンバー全員にそれぞれ一つずつ差し上げる、と言い出した。
「これから立ち寄ろうと思っている場所には、王国の中でも最高の技術を集めて作り上げた魔道具が置いてあるんです」
「魔道具?」
「ええ。……もしかして魔道具をご存知ではありませんか?」
「いえ、魔道具はこの世界に住む者としては常識ですから勿論知っていますけど、これだけの人数にいっぺんにあげられる程に魔道具が置いてある場所があるんですか?」
「はい」
レアナは即答する。
もしそれが本当なら貰える物は貰っておきたい所だが、問題は今の自分達が居るこの場所から近い所にその場所があるのかどうかである。
「あの、そこってここから近いんですか?」
「はい。そこを右に曲がって、突き当たった所を左に曲がってその少し先を右に曲がった所です」
「……分かりました。それならすぐに行きましょう。余り時間もありませんからね」
「ありがとうございます。ささ、どうぞこちらへ」
エルザの質問に道を示したレアナの答えに、そこまで近いのであれば……とレウスが承諾して一行はさっさとその魔道具が置いてあると言う場所に向かう。
しかし、その途中で一行が気が付いた事があった。
「なぁ、何だか兵士達も魔術師達も全然居ないと思わねえか?」
「……確かに」
「なー、やっぱ居ねーよなー」
サィードとセバクターの傭兵コンビが、地下牢獄の通路の様子や気配を総合的に判断してお互いに認め合う。
最初は単純に先程倒した連中だけで終わりなのかと思ったのだが、一旦地上に出る前はかなりの回数で敵に出くわしていたので不思議で不気味な感覚だ。
その話し声はそれなりに大きく、先頭のレアナにも聞こえていたらしいので彼女が返答してくれた。
だが、その返答の声は少し重い。
「……変ですね。ここまで気配が無いのは逆に不気味です」
「えっ、それって……」
「何かが待ち伏せしているって事じゃないんですか?」
「いえ、そこまでは分かりませんが……とにかく早くそれを回収して、魔法陣のある場所まで行きましょう」
以前、イーディクト帝国の「旧」ウェイスの町から地下のトンネルに入って進んでいた時の事がフラッシュバックして声を上げるソランジュとサイカに対し、レアナは曖昧な返事である。
それがまた不安を増大させるのだが、もうその部屋は目の前と言う地点までこうして進んで来てしまった以上もう後戻り出来ない。
そのレアナの先導で一行は目的の部屋の前に辿り着いたのだが、先程の気配の無さを思い返してまずはこの部屋の中の気配を窺う。
「……どう?」
「中からは人の気配も魔物の気配もしないが……入ってみないと分からないな。探査魔術が使えればもっと分かるんだが、今の状況じゃ仕方が無いもんな」
「そう、ねぇ……」
ディルクの策略によって敵味方問わず魔術を使えなくさせられてしまっているので自分の目と耳と気配だけで中の様子を察知するしか無い。
それで安全だと判断した一行は、全員が武器を構えながらゆっくりとドアを開けて中へと入る。
そこは……。
「ここは……宝物庫ですか?」
「はい、そうです。ここには非常時の備蓄もあるのですが、こちらの方にこの王国の魔術師の中でも高位の魔術師の方達が使用する魔道具があります」
「ほう……」
ドアの先は宝物庫だったのだ。
その名前通りに、宝物庫の中には保存の出来そうな食料から高級そうな金品、そして武器や魔道具もあった。
それを見た瞬間、レアナを押しのけてサィードがこんな提案をし始める。
「……レアナ女王陛下、魔道具も良いんですけど、他にも色々持って行きませんか?」
「え?」
「だってほら、この先で俺達がどうなるか分かんないじゃないですか。ですからこの中にある物をなるべく多めに持って行きましょうよ。特に食料とか薬の類とか」
「いや、それは泥棒じゃないのか」
冷静な表情と声で突っ込みを入れるセバクターだが、サィードの表情は本気だった。
そして、それを聞いたレアナの表情もパッと明るくなった。
「そうか、その手がありましたね!」
「……え?」