24.クラスメイトの作戦
戦術の授業が終わった後は、十分間の休憩を挟んで武器術の授業を訓練場で行なう。
場所は二年生専用の訓練場であり、レウスとセバクターが手合わせを行なった訓練場とはまた別の場所だ。
この学院にはそれぞれの学年専用に用意されている訓練場が存在している他、セバクターと手合わせを行なった学院全体での訓練が行なえる場所もある。
学年専用と言うだけあって、自分が最初に足を踏み入れた訓練場よりも狭いのだが、それでも色々と戦う為のトレーニングをする場所としては十分過ぎる広さで数百人は入れそうな場所である。
その訓練場まで移動して来たレウスは、まず一目その内部を見て前世の記憶が唐突に頭の中にフラッシュバックして来た。
(この訓練場……前世で見た事があるが、ドラゴンの情報を集める為に入った国の都で参加した、円形の闘技場みたいだな?)
どうやらここは訓練場と言うより、まるで闘技場の様だと昔を懐かしむレウス。
実際の所、五百年前から転生したレウスは地元の田舎町から拠点を移す事無く今まで生活していたのが災い(?)して、こんな訓練場がこの学院の中にある事も知らなかった。
前に父のゴーシュと一緒に何回かこの学院にやって来た時だって、学生が授業で使う区画にはセキュリティやプライバシーの観点から立ち入らせて貰えなかった。
荷物を搬入するのも学院の出入り口までで十分だ、としか言われていなかったのもあって、そこまでしか学院の敷地内を見ていた記憶しか無いので、学院生として編入した今が初めてお目に掛かる光景である。
なので、ここはクラスで唯一仲の良いアレットに自分の疑問を尋ねてみる。
「アレット、ここって闘技場みたいだな?」
「ええ、そうね。実戦形式の訓練では先生が相手になる事もあるし、訓練用に飼育されている魔物が相手になる事もあるから、こうして闘技場タイプの訓練場を造ったんだって。見れば分かると思うけど、訓練を行う生徒と先生以外はそこにある階段から観客席となっている上の方に移動して、自分の順番が来たら階段を下りて下の広い場所で戦うって事になるわね」
「ますます闘技場での戦いみたいだな……」
これではまるで、騎士団員として戦うよりも冒険者が自分の実力を試す為に闘技場の武闘大会に参加する様な感じだ。
しかし、見方を変えてみれば「限られた広さの空間の中で自分の実力をフルに発揮して敵に立ち向かう」事も出来る。
例えば魔物と戦う時は勿論、それから人間や獣人相手に戦う時だって全てがセバクターとバトルした訓練場の様な平坦でだだっ広い場所でやりあう訳では無いので、恐らく色々なシチュエーションをイメージした訓練をするのでは無いか? とレウスは考えていた。
そして、その予想は見事に的中する。
何故なら今のレウスは、何故か五人のクラスメイトを相手に五対一の状況で戦わざるを得なくなっているからだ。
(うっわ、この展開は凄いデジャヴだな!!)
場所も人数も違うとは言え、一方的に仕掛けられているこのシチュエーションは最初にアレット達と出会って森から抜けた後の、あのエルザとの突発的なバトルと一緒だ。
武器術の授業担当の教官が言うには、多人数相手での戦闘をイメージした授業を行なうとの事だった。
そして何故か、この学院に編入して来たばかりのレウスを指名する。
しかもその相手はクラスメイトの人間と狼獣人。男女関係無く全部で五人相手である。
五人は相手がレウスだと分かると、わざとらしく円陣を組んで何やらヒソヒソと会話を開始する。
その一方でレウスは、あの赤毛の二人組を発見した時と同じく盗み聞きはいけないと分かっていても、気になったので魔力で聴力をアップさせて円陣の中の会話を聞き取り始めた。
『あいつ、セバクターさんに勝った奴だぞ? 俺達で勝てるかな?』
『そんなのやってみないと分からないだろ。それにセバクターさんは一人だったけど、今回は僕達五人相手だぞ?』
『なーるほど、だったら私達で一気に掛かって行けば楽勝ね!』
『いーや分からんぞ。油断は禁物だ』
『じゃあこうしましょ。前衛が得意な三人であいつの気を引いて、その間に残りの二人が死角から攻撃するの!』
どうやらクラスメイト達が自分に対して実行する作戦は決まったらしい。
その円陣の会話を聞いていたレウスは、あの赤毛の男と戦った時の事を思い出していた。
(あの時の俺は、男の方を相手するのに夢中で死角から迫っていた女の方に気が付かなかった……。普段魔物ばかり相手にしていて、こうして本格的に人間を相手にするのは本当に前世以来だからな。だが、あの赤毛の二人組と戦った時の失敗があるからこそ、今回の俺は五人相手でもきっと上手く行く筈だ!)
妙な自信に満ち溢れた表情になるレウスは、授業に不要な自分の槍を医務室の校医に預けて来てしまったので今回もまた訓練用に刃を潰した槍でのバトルになる。
そう言えば預けた自分の槍はどうしたんだろう? と思いつつ、何故か自分一人対相手のクラスメイト五人の模擬戦がスタートした。




