264.私も着いて行きます!
登場人物紹介にイーディクト帝国皇帝ラトヴィッジ・アルマンド・シャロットを追加。
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「……はい?」
その場の空気が固まる。
今、このレアナは一体何を言い出したのか? それがレアナを除くパーティーメンバー全員の心の中のセリフだった。
しかしその空気が読めていないのかはたまた意に介さないのか、レアナは同じ事をもう一度繰り返した。
「ですから、私も貴方達の旅に一緒に同行させては頂けませんかと申したのです」
「いやいやいや……あの、レアナ様? 失礼ですがご自身の発言を理解していらっしゃいますか?」
「そ、そうですよレアナ様! エルザの言う通りです。私達に同行するのは危険です!」
エルザとサイカがそれはいけないとレアナを止めに掛かるも、カシュラーゼの現女王陛下の意思は固い。
「それは承知の上で、こうして貴方達に同行を申し出ているのです」
「おいおいちょっと待って下さいよレアナ様。貴女分かってます? 俺達はこのカシュラーゼの連中に狙われてるってだけじゃなくて、この先でどんな危機があるか分かんねーんですよ?」
「そうですよ。私達はこのカシュラーゼが作り出した生物兵器のドラゴンの討伐もしなければならないですし、それ以外にもあの赤毛の二人組も追わなければならないし、最終的にはエヴィル・ワンの復活も食い止めなければならないんですよ。なのにカシュラーゼのトップである貴女が着いて来るのは、私は賛成出来ませんね」
絶対にダメ。行かせられない。
サィードもソランジュもその思いで説得に当たるものの、思わず二人の言葉が詰まってしまうセリフがレアナから出て来た。
「ですが、ここに居ても私は危険なんですよ?」
「あっ……」
「表向きは貴方達が私を誘拐したって事になっていますし、私がこうして先導して一緒に行動しているならその説得力が更にあるでしょう。その大義名分があるからこそ、あのディルク様を中心とした王国騎士団と魔術師達の連合軍は私を追い掛けて来ます。これは確信しています」
それに、とレアナは続ける。
「ここで私が連れ戻されたら、またあの傀儡に……操り人形に逆戻りなんです。このカシュラーゼと言う王国を立て直すには、私が一旦外に出て世界を見て回り、そして経験を積んであの魔術師達から王国を取り戻す。それしか無いと考えております」
だが、それでもセバクターもアレットも認められない。
「その考えは分からないでも無いですが、俺達はやはり反対ですね」
「そうです。この先の旅の中で、私達がレアナ様を守り切れると言う保証はありません。サィードもソランジュも言っていたじゃありませんか。この先で何が起こるか分からない、どんな危険が待ち受けているか想像出来ないと。だから無茶にも程がありますよ。正直言って、カシュラーゼの女王陛下が国から脱走してそのまま何処かで死んでしまったとなるのは、問題外だと思います」
話が堂々巡りになって来たので、ここで一気にレアナがレウスを始めとする一向に畳み掛ける。
「でも、もう決めたのです。私は貴方達に着いて行って、カシュラーゼを取り戻す為の実力を付ける為に。だから何があっても着いて行くんだと」
「レアナ様……」
「私はね、別にこの女王陛下と言う自分の地位を捨てたいとまでは思っていないのですよ。父も私にこのカシュラーゼと言う王国を託してくれたんですし、私自身もカシュラーゼの女王として、国民を守ると言う義務があるのですから。しかし、今はまだまだ実力が足りません。きっと……きっと何か、あの魔術師を倒す方法がある筈です。それを見つけたいんです」
そこまで言って一旦言葉を区切ったレアナは、レウスに真正面から向き合った。
「レウス様……いえ、筆頭魔術師のディルク様から聞いた話ですと、貴方の正体は五百年前の勇者アークトゥルス様らしいですね。その貴方がこうしてこの現代に復活したのは、ただの偶然では無いのかも知れません」
「え?」
「再び、この世に五百年前の魔竜エヴィル・ワンが復活しようとしている。その復活を止める為に貴方が復活したのだとしたら、こうして貴方が旅をしているのも偶然では無く、必然なのかも知れませんよ」
「偶然では無く、必然……?」
もう戦いには疲れた。だから一般人として暮らしていたのに、気が付けば世界の命運を握る立場に居る。
この展開は五百年前のアークトゥルスだった自分そのものじゃないか。
その思いが頭の中をグルグルと駆け巡るレウスに対して、多少口調を変えたレアナはこう続ける。
「アークトゥルス様……貴方がこうしてこの現代に復活してくれたのを、後世の人々はきっと感謝する事でしょうね。貴方が居なければ、魔竜エヴィル・ワンはまた必ず復活してしまうでしょう」
「……」
「その魔竜を倒した後は、もうアークトゥルスでは無くレウス様としての人生を歩み始めるのもよろしいでしょうし、再びアークトゥルス様として活動するのも貴方の自由です」
「……レアナ様」
「とにかく、私は貴方達に同行する。この決意は変わりません。こう見えても一度言い出したら聞かない頑固な性格ですからね」
「……分かりました。まあ、そこまで決意が固いとなると仕方ありませんね……」
「ありがとうございます、レウス様」
ここまで言われてしまってはもう仕方が無い。
五百年前の勇者アークトゥルスだった自分でも、この女王陛下には敵わないな……とレウスは痛感させられてしまった。