262.あの時の借りはここで返すわ!
自分に向かって来るその二人の姿を視界に捉えたドミンゴは、その巨体に似合わない素早いバックステップで距離を取りながら鼻で笑う。
「お前達も懲りないな。また私に打ち負かされに来たのか?」
「うるさいっ!!」
「あの時の借りはここで返すわ!」
自分が倒したアレットとエルザとまた戦う事になるなんて、懲りないなら今度は本当に殺してしまう位の勢いで負かすだけだと意気込むドミンゴ。
一方のアレットとエルザは、ここでこの男を倒さなければ何時まで経っても逃げ切る事なんて不可能だと考えていた。
しかし、やはりと言うかこの男はかなりの実力者であると実感させられてしまう。
この地下牢獄の狭い通路の中でも、そのトライデントのリーチを活かして突き攻撃を中心にして戦う辺り、自分の武器の特性と使い所を良く分かっているらしい。
「うわっ、くっ!」
「うっ!」
「ふん、避けるだけでは私には勝てないぞ?」
「まだまだあ!」
トライデントの攻撃を上手く両手のバトルアックスで受け流しながら何とか接近するチャンスを窺うエルザだが、相手は魔術が使えなくても十二分に戦える魔術師なので全然隙が見当たらない。
その一方で、同じ魔術師でありながら近接戦闘は全くと言って良い程に不得意なアレットは、自分の実力不足に歯噛みするしか無かった。
(私……力不足過ぎる! ソルイール帝国でやった時みたいに戦えれば良いんだけど……)
エルザと共に力を合わせて、格上の相手に勝利したソルイール帝国での光景が脳裏にフラッシュバックするアレットは、あの時と同じ様に自分も戦力として加わる事が出来るチャンスを窺う。
しかし今回は戦えるスペースが限られている為、少しでもあのドミンゴと言う魔術師に近付こうものならトライデントでグッサリと刺されてしまうのがオチだろう。
それを考えると迂闊に踏み出せないのだが、相手に近付くチャンスが唐突にやって来たのはその時だった。
「ふんっ!!」
「うおわっ!?」
「エルザっ!」
エルザがドミンゴのトライデントの攻撃によって吹っ飛ばされ、バトルアックスも取り落としてしまったので今度はアレットがそのバトルアックスを拾い上げ、叫び声を上げながらドミンゴに向かう。
しかし、自他共に認める近接戦闘術が不得意なアレットはすぐにドミンゴにやられてしまい、腹を蹴り飛ばされて地面にうつ伏せに倒れ伏してしまった。
だが、それが彼女達の転機になる。
倒れ伏したアレットに気を取られているドミンゴの後ろに何時の間にか回り込んでいたエルザが、彼の背中に飛び乗って両腕で首を締め上げ始めた。
「ぐのうっ!?」
「ぐぐ……このおおお!!」
渾身の力で締め上げられる自分の首と、苦しくなる息のプレッシャーにドミンゴはトライデントを取り落とし、両腕を後ろに回してエルザを引き剥がそうとしたり背中を両側の鉄格子にぶつけたりして彼女を振り落とそうとする。
それでもエルザの締め上げは弱まる所を知らず、足元がフラフラになっているドミンゴはそのまま後ろにバックしながら近くの扉が開いている牢屋の中に入り込み、一気に倒れ込んで自分の巨体でエルザを押し潰した。
「ぐほえっ!!」
「くっ……はあっ!」
落ちていたバトルアックスを拾い上げたアレットが、その二人の後に続いて牢屋の中に入り込んで来てドミンゴにバトルアックスを振るうものの、軽くいなされてしまう。
バトルアックスは飛ばされ、前蹴りで再び吹っ飛ばされて地に倒れ伏すが、痛みに慣れたのか先程よりもダメージは少ないのですぐに立ち上がる。
一方のエルザも立ち直ってドミンゴに両手でパンチを食らわせ、彼のお返しのパンチを避けて背後に回り込み、前蹴りを食らわせる。
そこに正面から思いっ切りアレットがドロップキックを彼の腹に食らわせるものの、元々の体重が軽いので余り効果が無い。
「そこまで死にたいならまずはお前からだ!」
「ぐ、ぐううっ……!!」
ドミンゴの大きな両手で地面に抑え込まれて、力強く首を締め上げられるアレット。
その後ろからまたしてもエルザがドミンゴの背中に飛びついて、今度は脳天目掛けて何回も肘を落とすが、アレットから手を離したドミンゴによって後ろに投げられてしまう。
「ぐあっ!!」
「邪魔をするな! お前も後で殺してやるから待っていろ!」
そう言われても待つ訳にはいかない。待っていたらアレットが殺されてしまう。
なのですぐに立ち上がるエルザが見つけた物は、囚人達の食事を配膳する為の金属製のトレー。
それを咄嗟に両手で掴んで、雄叫びを上げながら横殴りでドミンゴの頭を目掛けてぶつける。
「うがああああっ!!」
「ごはっ!?」
続けてもう一発殴ろうとするがそれは許されず、振り上げたトレイごと腕を掴まれてそのまま抱え上げられたエルザは囚人が眠る為のベッドに叩き付けられる。
その勢いでベッドが中央から折れて壊れたものの、そこでアレットに注意が行かなかったのはドミンゴの完全なミスである。
「ふんっ!」
「ぐはっ!?」
側頭部に伝わる鈍い衝撃。
それが、彼女が取り落としたロッドによる殴打の衝撃だと分からないままドミンゴは気絶してしまい、二人の連係プレイによるバトルはここで幕を下ろしてドミンゴの敗北となった。