261.立ち塞がる大きな壁
しかしそんな一行の目の前には再び囚人達や魔術師達、それから兵士達が立ち塞がる。
ディルクの流した誘拐犯と言う情報を信じているらしく、レアナと一緒に居る一行は有無を言わさず鉢合わせしたらすぐに戦闘に入るのだ。
その度にパーティーメンバー全員が総力を結集して敵を粉砕して行くのだが、どうやらこの地下牢獄の中でも魔術を使えない状態になっているらしく、負傷には一番気を付けなければならない。
しかし、相手も攻撃魔術や回復魔術を使えないのはやはり不幸中の幸いではある。
「レアナ様、確か秘密の道があるって話ですよね?」
「はい、この地下牢獄の更に奥にあるんです。そこから地上に出て、もう一度地下に潜るルートなんです。その先に王族以外は誰も知らない脱出経路が用意してあります」
「分かりました。それではすぐに行きましょう!」
レウスの確認に答えたレアナは先導を続けるが、そんな一行を逃がしてなるものかとカシュラーゼ王国の追っ手達が迫る。
その第一段階が、ディルクに仕込み刃を突き付けられていたあの男であった。
レアナに先導されて地下牢獄を駆けて行く一行の目の前に現われたのが、多数の部下を引き連れて悠々と仁王立ちをして通路を塞いでいる大きな壁。
「……貴様は……!?」
「あっ、貴方は!?」
「なかなかやってくれるでは無いか。しかし、お前達の進撃もここまでだ」
そう言いながら右手に握っているトライデントを一行に向けるドミンゴの様子を見て、サィードがアレットとエルザに問い掛ける。
「誰、あいつ?」
「あの緑髪の男こそ、私達をこの城まで連れて来た張本人よ。名前も身分も知らないけどね!」
「そうだ。アレットと同じく私も忘れやしない。……レアナ様、あの男は誰なのです?」
「あの方はこのカシュラーゼの中でもかなりの地位に居る魔術師、ドミンゴ様です。筆頭魔術師のディルク様に続く方と言われる位の実力の持ち主です。しかも魔術のみならず武術の腕も一流ですよ」
そのレアナによる自分の解説を聞いたドミンゴは、わざとらしく左手を胸に当てて忠誠の演技をしてみせる。
「これはこれは、レアナ様にそこまで私の事を覚えて頂いているとは光栄でございますね」
「何をおっしゃいます、ドミンゴ様。貴方は既にこのカシュラーゼに仕えてかなり長いでは無いですか。それにそれだけの実力があるのなら、嫌でも私の耳に情報が入って来ます」
「それもそうですね。ですがレアナ様、その者達は完全なる部外者であり、誘拐犯でもあります。さ、私達と一緒にお部屋に戻りましょう」
しかし、左手を差し出すドミンゴに対してレアナは首を横に振った。
「嫌です」
「何ですって?」
「嫌だと言ったんです。私は行きません」
「わがままを言われては困りますな、レアナ様。私達は筆頭魔術師のディルク様から貴方を誘拐犯の手から救い出して、お部屋まで連れ帰る様にと命を受けてここに居るのですよ。それなのに戻るのが嫌だと言われるのは困ります。さ、お部屋に戻りますよ」
あくまでも紳士的な態度を崩さないドミンゴだが、その目は全く笑っていない。
そしてドミンゴに対するレアナの態度も答えも全く変わらない。
「嫌です。死んでも行きたくありません。私は戻るつもりはありません!!」
「そうですか。それでは仕方がありませんね。レアナ陛下にこんな事をするのは少々心が痛みますが、こうなれば力尽くででも私達は貴女をお部屋に連れ戻しますよ」
「何を言いますか。都合の良い時だけ私の事を陛下、陛下と呼ぶのはもう止めにして欲しいと何度も申し伝えている筈です。それなのに貴方達は一向にそれを止めようともしないばかりか、昔から魔術師を中心にして国の実権を握っていたでは無いですか!」
「その話はまた後でゆっくりと、貴女のお部屋でしましょう」
そう言いながら踏み出してレウス達の方に向かって来るドミンゴ達に対し、そのレウス達がレアナを庇う形で自分達の列の後方へと下がらせた。
「レアナ様、お下がり下さい。ここは俺達が何とかします」
「は、はい!」
「そうか……あくまで私達の邪魔をすると言うのであれば仕方が無い。お前達、この不届き者達を片付けてレアナ様を取り戻すのだ!」
ドミンゴが左手を振るうと、それを合図にして配下の魔術師達や騎士団員達が一斉に向かって来た。
この狭い牢獄内の通路は戦えるスペースが限られているので、必然的に混戦状態になってしまうのだがそれは仕方が無い。
それでも今までの経験と知識を活かして、狭いながらも確実に敵を潰して行くレウス達。
その様子を見ていたドミンゴは、トライデントをグルグルと回して頷く。
(あの女二人はやっぱりまだまだ荒削りだが、何人かは使えそうなのが居るらしい。やはりライマンドの言っていた事は間違っていなかった様だな)
アレットとエルザの二人を捕まえて城に戻った時に情報交換をしていた事もあって、ライマンドから話のあった軽快な動きを見せる女二人、それからこちら側についていた筈のセバクターと言う傭兵、更には銀髪の男に一行のリーダーらしき金髪の男はなかなかの実力だと考える。
だったら自分もここは出るしかあるまいと悟ったドミンゴの元に、混戦状態を抜け出して二人の人間が肉迫して来たのはその時だった。