258.地下迷宮
「ふぅ……ま、まずはここまで来れば大丈夫ね!」
「そうだな、ここでしばらく身を潜めていよう」
はぁはぁと息を切らしながら、ソランジュとサイカは地下牢獄の一角にある牢屋の中のベッドの下に身を潜めていた。
あの謎の男の声が響き渡ったかと思えば、ガチャガチャと牢屋と言う牢屋の鍵が開けられ中に居た囚人達が牢屋から出て来たのだった。
今まで何度も修羅場を潜って来たこの二人からしても、まさかこの土地勘がゼロの場所で牢屋全部の囚人を相手にして戦わなければならないシチュエーションなんて今まで無かったのである。
初めの内は数も少なく、囚人達も特に強くも無かったので向かって来る囚人達を返り討ちにして牢獄内を歩き回っていたのだが、次第に徒党を組んで向かって来る囚人達が増えて来たので退散せざるを得なかったのだ。
「二人しか居ないと言う事もあって、私達だけじゃあどうにもならないな……」
「そうね。あのコラードって二枚舌? の人も結局見失っちゃったし、一気に形勢逆転されちゃったって感じ……」
「しかもだ、さっき聞こえたあの男の声って絶対レウス達の話じゃないのか?」
「さっきの……ああ、敵襲~って言ってたあれの事?」
「そうだ。あれでここだけじゃなく、上の方もまずいって話なんじゃないのか?」
「だと、思う……」
先程囚人達と戦っていた時に突然地下牢獄に響き渡った、レアナ女王陛下を誘拐した連中が逃げていると言うあの声。
それがもし本当なら、この国の女王陛下を人質に取ってレウスが逃げている話じゃないのかと二人は意見を一致させていた。
しかし、今はそれよりもこの地獄の地下牢獄からどうやって脱出するかだけを考えなければならない。
「とにかく脱出ルートを探そう」
「えっ、でも……あのコラードって傭兵はどうするのよ?」
「馬鹿! こんな時はまず自分の身の安全を確保しなければならないだろう! あの男を逃がしてしまったのは確かに悔しいがな、それよりも私達が死んでしまったら元も子も無いだろうが!」
「う……そ、そうね」
コラードをまだ追い続けようとするサイカをソランジュが叱りつけ、この地下牢獄からどうやって脱出するかだけを考える様に仕向ける。
しかし、外にはまだ囚人がウヨウヨしている上にこの地下牢獄の土地勘もまるで無いので脱出口も当然分かっていない。
せめてあの連行されて来る時にちゃんと道を覚えてさえいれば……と思っても、あの緊急事態だったのでそれも無理な話である。
「しかし、誰が何をどうやったかは知らないけど……この地下牢獄のカギを全て外せるだけの力を持っている存在がここには居る様ね」
「ああ。それも権力と実力を兼ね備えた、かなりタチの悪い人物がな……」
牢屋の外をウヨウヨしている囚人達の気配が消えたのを察知した二人は、ベッドの下から這い出て鉄格子に張り付き、牢屋の内側から外の様子を確認する。
「……どうだ?」
「大丈夫、今なら誰も居ないわ」
「良し、行くぞ。さっきはこっちから来たから、今度はこっちに向かうぞ」
「うん!」
何処に敵が潜んでいるか分からない上に、曲がり角で出会い頭に敵とエンカウントしてしまう可能性も十分に考えられる。
事実、今まで何度か出会い頭に敵に遭遇してその度に交戦した事もあった。
この地下牢獄がどれだけ広いのか分からないが、まだまだ出るのには時間が掛かるだろう。
「アレット達、大丈夫かしら……」
「分からないな。あの時コラードを追い掛けて私達はこうして飛び出して来た。だが……さっきの声を聞いているとあの一行にも危険が迫っているだろうな」
「そうね。だったらまず上に向かう階段を探しましょうよ! そうすれば何処かで合流出来るかも!」
しかし、サイカのその提案をソランジュは却下する。
「いや……この地下牢獄をくまなく探し回るのが先だ」
「え? いやちょっと待ってよ。だってさっきの声を貴女も聞いていたでしょソランジュ!? 上の方でこの国の女王のレアナ様を誘拐した容疑で逃げている者が居るって! だったら上に行くべきだと思うわ!」
「でも、上に続く階段が見つからないだろう。それだったらまず先に階段を見つける為に歩き回ってからでも遅くは無いって言っているんだ!」
「何でそんな怒ってるのよ?」
「怒っていない。私は、私が思う最善の方法を提案しているだけだ!」
「そんな事言ったら、私だって自分が思う最善の方法を提案しているのよ!?」
「何だと!?」
「何よ!?」
些細な意見の食い違いから言い争いに発展してしまった二人を、囚人達が発見するのはそう難しくは無かった。
大声で言い争う彼女達の声を聞きつけた囚人達の足音が、バタバタと自分達の方に向かって来るのを聞いた二人はそれぞれ言い争うのを止めて武器を構える。
「ああもう、貴女が変な事を言うから見つかっちゃったじゃないソランジュ!」
「私のせいにするな! 元はと言えばお主が良くない提案をするからだろう! とにかくこの話の続きは向かって来る連中を倒してからだ!」
「ええ、そーね!!」
お互いに納得出来ないままソランジュとサイカは武器を構え、曲がり角の先から聞こえて来る足音の大きさで相手との距離を測りながら慎重に様子を窺い始めた。