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257.あいつは上手くやっているのかな?

 狂気的な思想を心の中に留めつつ、ギシリと音を立てて近くの椅子に座るディルク。

 その両手で自分の愛用の杖をグルグルともてあそびながら、監視カメラの映像で冷静にレウス達の戦いぶりを分析する。


(成る程ねえ、その魔力にものを言わせて押し切るパワー戦法って所か。確か五百年前のアークトゥルスの戦い方は文献で読んだ限り、もっと状況判断に優れていたって書いてあったけど……ここの寝台に寝かされていた時に魔術を使おうとしていたのはある意味では正しいか……)


 向かって来る敵を魔術で一掃し、さっさと先に移動している彼を見てディルクは変な笑みを浮かべながら左手の人差し指を斜めに唇に当てる。

 しかし、未だに分からないのはこの一行がどうしてレウスを助け出せたのかと言う事だった。


(あの時……僕が迂闊にも監視カメラの映像から視線を外していたのが原因なのもあるが、不自然なのはその前にアークトゥルスの奴が泡を吹いて痙攣していた事だ。彼には持病の類は無かったと記憶しているし、事実カシュラーゼからもそんな話はされていないからね)


 だとしたら、恐らくこの部屋で行われている実験に身体が耐え切れなかったのでは無いかと言うのが一番濃厚な説である。

 五百年前と今の時代では魔力の質も結構変化している上に、寝台に縛り付けて急に魔力を抜いたりしていたので身体が耐えられなくても不思議では無い。


「じゃあ、その魔力の消費量を減らすのを手伝ってあげないとね。これ以上身体に負担を掛けない様にしてあげるんだ。感謝してね?」


 そう言いながら、この部屋の床の空いているスペースにディルクは魔法陣を描き始める。

 今回、魔竜エヴィル・ワンの復活の為に自分がこうやって行動しているのは、自らの破壊衝動を満たしたいと言う欲求もある。

 しかし、それに賛同してくれるメンバーがこうしてついているからこそ自分はこの計画を進められているのだ。

 生き物が死ぬ所を見ないと興奮しない。他人からは変態と呼ばれる事もあるが、それはもう既に受け入れているのだから今更そうやって言われても何も感じないのがディルクである。

 中でも、人間の場合は特に興奮してしまう。

 わざと逃がしてやって、自分の手で追い詰めて恐怖に怯えるその様を見ながらなぶり殺しにするのは物凄い快感である。

 何時からこうなってしまったのか分からないが、自分の様な殺人愛好癖のある人間には今回の様に囚人達を逃がすのもまた、非常に興奮してたまらないシチュエーションなのである。


(どうせ牢屋に入れられている人間や獣人はゴミみたいなものだからね。ゴミはゴミらしく後で焼却処分するかそのまま埋めちゃうかしないと……)


 この部屋の中から通じている監視カメラや、魔力をエネルギーとする照明等の明かりには影響が及ばない様に注意を払いながら魔法陣の紋様を描き続ける彼の頭の中に、ふと一つの疑問が思い浮かぶ。


(あれ……そう言えば、あいつは上手くやっているのかな?)


 自分の計画に賛同してくれている人物の姿を思い浮かべ、ディルクは首を傾げる。

 アークトゥルスの生まれ変わり率いる一行がこちらに向かっていると聞いてから、実験の準備に追われて余り時間が取れていなかったのもあって、この結末を見届けてから連絡を入れてみようと決意する。

 そもそも、今回の実験やらエヴィル・ワンの復活やらの話はその人物からもたらされたものなのだ。


(その計画は凄い良いなって思ったからねえ……この世の中で少なくとも万単位の魔物や獣人、そして人間がバタバタと死んで行くんだ。これ以上興奮する事って無いよね)


 それも、自分の仕掛けた罠によって。

 自分の長年の夢でもあった、戦場で万単位の虐殺をする事が可能な現実がすぐそこまで迫っている今の状況を一緒に実現してくれる切っ掛けになったその人物は今、遠く離れた場所に居るのだ。

 毎日、処刑と称して囚人を虐殺するのにも飽きてしまった。一人二人チマチマ殺したってつまらない。少なくとも、一気に大量の犠牲が出なければ自分は退屈で死んでしまいそうなのだ。


(あの人が復活したエヴィル・ワンを操って世界中に戦争を仕掛け、僕がそれのサポートをする。ドラゴンの生物兵器を生み出したのだってその野望があってこそなんだ)


 別に、世界中が戦火で燃え盛る様を見て笑っていられるのであればその理由も動機も何だって良い。

 とにかく自分は誰かを殺し、何かを壊したい。

 本気でやればこの国を吹っ飛ばす事なんて簡単に出来てしまう。この世界だって簡単に手に入れられると思っている。

 だけどまさか、あの勇者アークトゥルスの生まれ変わりがこの現代に蘇って来るのは想定外だった。


(今は僕に対して手も足も出ないから逃がしても良い……けど……何時かあの男とは生死をかけた戦いをする事になるだろうな)


 そんな気がしてならない。

 自分の足元でようやく完成した魔法陣を見下ろして、ディルクはその口元に不敵な笑みを浮かべると、ロッドをかざして魔法陣に魔力を送り込み始めた。


(さぁ、本当に面白いのはここからだよ……勇者アークトゥルス)

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