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23.初めての授業

 カラーン、カラーンと授業の始まりを告げる鐘の音が、騎士学院の敷地内に響き渡る。

 その鐘の音は勿論、今のレウスが居る教室の中にも響き渡り、彼は教室中の生徒達からの視線を浴びていた。

 この学院に編入して来たと言うだけあって、その注目度は食堂の時から身に染みて分かっているレウスにとっては、これから自分が何をすべきかも分かっていた。

 そう、自己紹介である。


「はい、みんな静かに。今日からこのクラスの一員となるレウス・アーヴィン君だ。仲良くしてやってくれ。それではアーヴィン君、自己紹介を」

「あ……はい。レウス・アーヴィンです。これからここでお世話になりますので、どうぞよろしく……」


 担任の男性教師に促されたレウスがそう自己紹介すると、生徒達の間に食堂の時と同じざわめきが広がった。


「ええー、うちのクラスに来るって話は本当だったのかよ……」

「しかもさ、侵入者といざこざを起こしたって話でしょ? 大丈夫なのかしら?」

「私の隣には来て欲しくないわね……」

(全部聞こえてるぞ、こっちには!)


 ヒソヒソ話しているつもりなのだろうが、教室の広さが40人分の席しか無いので割と聞こえてしまうのがレウスにとっては憎たらしい。

 しかもそのヒソヒソ話の内容を聞く限り、自分に対して友好的な生徒はかなり少ないらしいのでそこがまた憎たらしいやら情けないやらで、更にお先真っ暗だ。

 しかし、その生徒達に対して声を張り上げた者が一名。


「ちょっと、みんな失礼よ!」

「ど、どうしたアレット?」


 教室の右斜め後ろでガタッと勢い良く音を立てながら立ち上がったのは、事前に一緒のクラスになると言われていたアレット・レナールだった。


「この人はねえ、その侵入者に対して真っ向から立ち向かってくれたのよ! どう言う風に情報が伝わったのか分からないけど、この人は学院の恩人なんだから悪口言わないで欲しいわね!」

「……」

「……」


 その教室中に響き渡った声により、今までヒソヒソ話をしていた生徒達からの声が一斉に止んだ。

 一方のレウスはアレットが自分をかばってくれたのが嬉しかったのだが、どうリアクションをすれば良いのかが分からずただ呆然と立ち尽くすのみである。

 シーンと静まり返った教室内を見渡し、ゴホンと一つ咳払いをしてから担任の男性教師は口を開いた。


「……えー、それじゃレウス君はあそこの空いている席で授業を受けてくれ」

「わ、分かりました。それから……最初は何の授業ですか?」

「ん? ああ、今から始めるのは戦術の授業だよ。教科書はあるよね?」

「はい、この袋の中に一式が入っています」

「なら良い。だったら席に座って戦術の教科書の二十六ページを開いてくれ」

「分かりました」


 スタスタと自分の歩く音だけが響き渡り、指定された席に辿り着くまでの時間が凄く長く感じられたのは多分気のせいでは無いだろう。

 初めて袖を通した学院の制服の硬さに違和感を覚えつつ、そして他のクラスメイト達からチラチラと向けられる自分への視線に耐えつつ、やっとの事で席に座ったレウスは教科書を取り出した。


「それじゃ授業を始めよう。この前君達に教えた陣形の復習からだ。レウス君は頑張ってついて来てくれよ」

「はい」


 こうして、初めての授業がスタートした。

 と言ってもレウスは、今の十七年間生きている人生でも前世の人生においても戦術の授業なんて受けた事が無い。

 全てはあのドラゴンを討伐する為の旅に出て、その旅の途中の実戦で学んで来た現場叩き上げの経験のみである。

 しかも前世では騎士団と言う団体行動が要となる集団に所属した事も無く、限られた人員でドラゴンの討伐に向かったので授業の内容について行けるかどうかすらも怪しい。


(うー、胃が痛い……)


 望んだ訳でも無い学院生活、自分に対して警戒心剥き出しのクラスメイト、そして慣れない授業のコンボでレウスの精神状態は悪化の一途を辿ろうとしている。

 それでも二十六ページから始まる授業は待ってくれない。

 黒板に書かれていくチョークの白い線と、教科書に書いてある文字と教師の言葉を見聞きして、袋の中に一緒に入れられていたノートと羽根ペンで板書をしていった。



 ◇



「あー、頭が疲れた……」

「だらしないわねえ、外に風でも当たりに行ったら?」

「いや……大丈夫」


 五十分の授業が終了し、ノートに文字を羅列していたレウスは授業終了の鐘の音を聞きようやく解放されたと息を吐きながら机に突っ伏した。

 戦術の勉強なんて本格的にやった事が無いレウスにとっては、まるで未開の地の言語を延々と聞かされている様なものだったからだ。

 それでも、全ての事柄が分からなかった訳では無い。

 前世で幾つか実践していた、敵の死角から上手く回り込む戦法や敵に対して陽動を仕掛けるタイミングの話を聞いた時は、一種の懐かしさを覚えたものである。

 でも、編入した身分とあってこのままでは授業にはとてもついて行けなさそうだと感じた彼は、寮に戻ったら復習を始めようと心に誓うのであった。

 この後の武器術の授業で、自分がとんでもない事態に陥る事になるのも予想出来ないままに……。

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