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256.腹立たしい事

 しかし、それは自分達にも影響がある。

 この世界は魔術によって成り立っていると言っても過言では無く、魔術は人間や獣人、ひいては動物や魔物の生活にも身近な存在で当たり前にあるものなのだ。

 その魔術を封じた戦いをしなければならないと言う事は、例えば怪我をしても回復魔術で回復出来ないし、攻撃魔術は勿論防御魔術だって使えない。

 この生身の身体一つで勝負しなければならない状況になってしまうからだ。


「彼の寝ていたその寝台には魔力を使えない様にする文様を作っておいたから良いけど……今、こうやってこのカメラ越しに見ている映像では彼がバンバン魔術を使っているのが見えるだろう?」

「はい。この男は向かって来る相手に対してかなり余裕ですね……」

「そうだろう? リーフォセリアから仕入れた情報によれば、このアークトゥルスは自分では魔術を余り使えないと言っていた。しかし実際はこうやって超ド級の魔術を使いこなして、立ち塞がる敵を倒して進んでいる。彼の後ろについている人間達はサポートに回っているだけだ」


 ディルクが指を差している監視カメラの映像の中で、レウスが自慢の槍と魔術と少しの体術を使って魔術研究所の中で襲い掛かって来る研究員や魔術師達を、かなりの余裕をもって次々に倒して行く。

 それをモニターの中に見ていて、ディルクにしてはかなり腹立たしかった。

 だったらその、五百年前の勇者の生まれ変わりだと言うその男の戦力を少しだけでも奪い取らなければ、幾らこちらも手練れ揃いだと言っても限度があるし到底敵わないとまで思えてしまう。


「と言う訳で、今から文様を作り出すよ。この裏の城全体を覆う様に作り出すから、地上の表の方のカシュラーゼには何も影響が無いと先に言っておく。けど、この裏の世界の方の城の中にいる人員は魔術が使えなくなってしまうから覚悟してね。それは僕も例外じゃないからね」

「かしこまりました。それでは我々はあの一行がここから逃げ出す前に仕留めましょう」


 頭を下げて了解の意を示すドミンゴに続き、横に立っているライマンドが領海の返事をしてから一つ質問する。


「そうだな。それと俺達と一緒に居た、あのセバクターって傭兵も向こう側に回っちまったみてーですけど、あいつも殺しちゃいますか?」

「ああ、そうしてくれ。……いや……やっぱり生かして連れて帰って来てくれ」

「どっちなんですか?」

「生かして連れ戻せ。あの男は僕達に対して協力姿勢を貫いていたみたいだが、元を辿ればあのアークトゥルスの生まれ変わりだって言う男と同じく、マウデル騎士学院と関わりのある男らしいからな。だから連れ戻した上で、僕が直々にあの男からどっちの味方なのかちゃんと聞き出したいんだよね」


 セバクターを生かして連れ戻す様に指示を出したディルクだが、今度はヨハンナから質問が飛ぶ。


「あの……貴方はここの中に残るんですか?」

「そりゃそうだよ。僕がここに残ってみんなに指示を出さなくてどうするのさ。ここはコントロールルームの一つでもあるからね。オートロックを解除したり逆に閉鎖したり、監視カメラの映像を一度に見て状況を把握したり出来る場所でもあるんだから。分かったらさっさと行ってよ。こうしている間にもあの一行はどんどん出口に向かって進んでいるんだからさあ!」

「は、はい!」

「それでは失礼致します、ディルク様」


 ヴェラルもヨハンナもそれぞれ「表」の世界で生きて来た二人にとっては良く分からない単語が幾つか出て来たのだが、とりあえずディルクがここに残って司令官としての役目を果たすと言う事だけは分かった。

 彼が司令官になると言うのは何処か不安もあったのだが、そもそも今回の傭兵としての任務はこのカシュラーゼ王国から受けている話なので、任務として請け負った以上は彼に従うしか無いのである。

 この国の実権を握っているのが例え女王陛下のレアナでは無かったとしても、依頼主がカシュラーゼ王国である限り彼の命令は絶対だ。


(全く……話をなかなか理解してくれない馬鹿な連中ばかりで困ったもんだよね)


 口にこそ出さないものの、心の中ではカシュラーゼの……いや、この自分の魔術への飽くなき探求心からなるその知識と技術を目当てにすり寄って来る人間や獣人を見下しているディルクは、実はこんな国がどうなろうと知った事では無かったのだ。

 子供の頃から魔術に対して天性の才能があると自覚している自分の知識や技術を、何でそう簡単に渡さなければならないのか、それが彼にとっては不満で不快でたまらなかった。

 あのレアナの父親である先代のカシュラーゼ国王だって同じだった。

 自分の魔術の知識と技術を見せびらかしたかっただけのつもりが、衣食住を提供するからと言う理由でホイホイ言う事を聞き始めたのが間違いだった、と今更になってディルクは自分がこの国にやって来たのを後悔していた。


(まあここまで色々やってあげたんだし、あの連中にはああ言ったけどレアナってのは逃がしちゃっても構わないし、セバクターってのも逃がしちゃって構わないかな。僕はこの世界が戦火に包まれる様子を見てみたいんだ。少なくとも、人や動物や魔物が死ぬ所を見ないと興奮しないからね!)

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