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253.ディルクの思惑

 単純にエレベーターを止めるのをあの魔術師が忘れているだけなのか、それとも別の意図(・・・・)があってわざと止めていないだけなのか。

 どちらにしても、このままエレベーターが動いていてくれるのであれば下まで辿り着ける筈である。

 だが、問題はそこから先……何処へ逃げれば良いのか見当がつかない一行。


「レアナ様、この設備の中から出たらどちらに向かいますか?」

「そこはお任せ下さい。私しか知らない秘密の場所があります」

「秘密の場所?」

「はい。……あの男に聞かれているかも知れませんのでここでは言えませんが、このエレベーターを降りたら私に着いて来て下さい。私の先導でご案内致しますので」

「感謝致します、陛下」


 胸に手を当てて頭を垂れるエルザだが、ふとその時このエレベーターの中で起こっている違和感に気が付いた。


「あれ? そう言えば魔物がもう出なくなったな」

「え……あ、本当だな。あいつの魔力ももう切れちまったのか?」


 だったら大した事ねえじゃん、と笑うサィード。

 だが、レアナが即座にそれを否定する。


「いえ……あの魔術師がこんなに簡単に諦める筈が無いと思うんです」

「えっ?」

「あの方はかなりプライドの高い方なんです。先程、貴方達があの研究室に突入して、あっさりとレウスさんを救出してそのまま首尾良く逃げ去った。それをあの方がそのまま黙って見ている訳が無い……私にはそう思えて仕方が無いんですよ」


 強張った顔つきでそう言うレアナに対し、サィードはあの魔術師と因縁があるのでもっと詳しく聞かせて欲しいと頼み込む。

 だが、その前にエレベーターが止まったのでそこから降りてから話を続ける。


「あの魔術師がここに来てから、カシュラーゼの魔術技術が飛躍的に向上した実績があるんです。ですが周りの魔術師達から話を聞く限りでは、あの方は何時も何処か不機嫌で不満そうだったと言う話でした」

「不満そう? 不機嫌?」

「はい。四六時中ムスッとしていて不機嫌そうな表情で……それでいて魔術を研究する時は不気味な笑みを浮かべているって噂が私の所まで届いておりましたから。ですが魔術の技術は本物で、カシュラーゼが魔術の中心として更に有名になるのは早かったです」


 それまでも他の国とは一線を画していた魔術のテクノロジーで名前を売っていたのがカシュラーゼ王国だったのだが、ディルクのおかげでここまでのテクノロジーを会得する事が出来たし、世界の中で最も潤っているとされている国としてますます有名にもなった。

 しかし、ディルク自身の経歴や素性は余り明らかにされていないと言うレアナ。


「そこまでの魔術の技術を持っているなんて……あの男は一体何者なんですか?」

「それが……詳しい事は私にも分からないのですよ。本当に突然何処からか現われて、私達に色々な技術を伝授した魔術師と言う事しか経歴が分からないんです。何処で生まれ育ったのかも分からなければ、どうしてあれだけの魔術の才能や技術を持っているのかも一切不明のままなんです」

「えっ……そんな男をこの国に招き入れるなんて、危なくないですか?」


 アレットの心からの疑問に他のメンバーも同意する。


「そうだな……お前の言う通り、そんな男を招き入れたこの国の体質にはハッキリ言って疑問を覚えるよな」

「レウス、無礼だぞ!」

「いえ……良いんです。その方のおっしゃっている事は私も同じだと思っておりますから」


 レウスを叱りつけるエルザに対してレアナが申し訳なさそうにそう言い、外への脱出口に向かって案内をし始めながら会話は続く。


「父上が亡くなったのが二年前でして、そのずっと前にあの男がこの国にやって来ました。最初は私も、あの男が何か怪しいと思って父に対してこの国に招き入れてはいけないと反対をしたんですけど、あの男の持っている魔術の技術に感心してしまった父はそれを一蹴して笑い飛ばしました。そしてこの国に招かれたあの男は、先程も申し上げた通り数々の魔術技術を生み出してカシュラーゼの発展に貢献しました。そこまでは良かったのですが……」

「そこから何か変わった、と?」


 レウスの発言にレアナは悲しそうな顔で頷く。


「はい……結論から言いますと、あの男は父を殺したんです」

「えっ、先代のカシュラーゼ国王を?」

「そうです。と言ってもその事実を知っているのは、実際にその現場を見てしまった私だけなんです……」

「ど、どう言う事です? 確か先代の国王は昨年、病死したって話がありましたが……」


 サィードも少し上手くなった敬語を駆使して、更に事情説明を求める。

 そしてレアナの口から語られたのは、とんでもない事実だった。


「表向きは、ですけどね。本当は父はあの男に毒殺されてしまったんです」

「毒殺?」

「はい。父はあの男に対して絶大な信頼を置いていまして、あれが欲しい、これを作ってくれないかと魔術の技術の開発をあの男に何時も求めていました。その代り衣食住を提供するからと言う条件を出して。そんな父に対してあの男が何を思っていたのか知りませんが、あの男はある日の夕食に毒を混ぜて、それを止める暇も無く父は毒殺されてしまいました……」

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