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251.エスケープ

 ドンドンドンッと研究室のドアが荒々しくノックされ、かざしていた手を下ろしたディルクを始めとする研究室内の一同がそちらの方に意識を向ける。

 そのドアの向こう側から聞こえて来たのは、この研究室の中にいる一部の人間以外は誰も知らない男の声だった。


「ドミンゴ様、ディルク様、ライマンド様、大変ですっ!!」

「ん~、どうしたんだい?」

「あの女が……地下牢に入れていた女達が脱獄してこちらに向かって来ています! 至急応援を……ぐあああっ!!」

「っ!?」


 そのドアの向こうの只ならぬ様子に駆け出したライマンドが、ディルクを横に突き飛ばしてドアの横についている赤いボタンを押した。

 それと同時にシューッと空気が抜ける様な音がして、ドアが横にスライドして開かれる。

 だが、それこそがこの研究室の中に居る全員の度肝を抜く結果になった。


「とうっ!!」

「ぐほあっ!?」


 ライマンドの目に映ったのは、黒い何かの物体。

 その物体が物凄いスピードで自分の顔面に直撃し、彼は鼻血を吹き出しながら後ろにぶっ飛んだ。

 それが、自分の知らない人物が繰り出したドロップキックの足の裏だったのを知るのは、後にその事実をドミンゴから聞かされてからになる。

 その足の持ち主は上手く受け身を取って着地し、続いて二つの人影が研究室の中に飛び込んで来る。


「らああああっ!!」

「ふんっ!!」

「ぐあっ!?」

「ぐえっ!」


 ライマンドに気を取られていたヴェラルが側頭部を固い物でぶん殴られて横に吹っ飛び、実験器具を数種類巻き込んで破壊しながら倒れる。

 その横では腹に前蹴りを食らったヨハンナが後ろに蹴り飛ばされ、実験が途中まで進んでいた場所に直撃してそれまでの成果を全て台無しにしてしまった。


「なっ、何だ貴様等……ぐはっ!?」

「良し、逃げるぞ!!」


 ドミンゴがビームサーベルを構えて動き出そうとしたその瞬間、何者かが回し蹴りで彼を不意打ち。

 更に金的も蹴り上げられた結果、その場にうずくまって悶絶。

 そこに今度は頭目掛けて蹴りが入れられ、地面に倒れて呻き声を上げるドミンゴ。


「なっ、何だ君達は……うっ!?」

「さんざんやってくれた様だが、ここからはこちらの番だ!!」


 最後に残ったディルクが魔術を繰り出すよりも速く、何時の間にか寝台から起き上がっていたレウスに実験器具のガラスの容器を頭にぶつけられる。

 しかもそれだけに留まらず、長い黒髪を掴まれて力任せに振り回された上に、自分の腹に膝蹴りを連続で入れられるディルク。

 追い打ちで頭を掴まれて実験器具の乗っているテーブルに何度も頭をぶつけられた挙句、最後に回し蹴りで意識が飛ぶ寸前の衝撃を受けた。


「ごはっ……」

「逃げるわよ!!」


 何がどうなっているのか状況が呑み込めないまま、シューンと閉まって再び静けさを取り戻した研究室内には多数の人間の呻き声だけが残されていた。

 その研究室内で行なわれていた実験の成果を全て台無しにした一行は、ここから後は脱出するだけだと意気込んでまずはエレベーターまで辿り着いていた。


「よっしゃ、やったぜ大成功だ!!」

「本当ね! ここまで上手く行くなんて出来過ぎだと思うけど、でも成功しちゃったらこっちのものよね!!」


 予想外に上手く行ったこの作戦に歓喜しているサィードとアレットだが、その一方で自分達に一緒に着いて来た男達の姿に不信感を覚えている。


「それは良いのだがな、何故私達がこの男と一緒に脱出しなければならんのだ?」

「仕方無いでしょ、レウスがこの男だけは攻撃するなって言ったんだから」

「何故だ、レウス?」


 自分の斜め後ろを走っている金髪頭の若い男にそう疑問を投げ掛けるエルザだが、疑問を投げ掛けられた本人は口から吐き出していた泡で汚れている口の周りをコートの袖で拭いながら素直に答える。


「この男が、俺を助けてくれたと思ったからだ」

「レウスを?」

「ああ、そうだ。あの研究室の中で俺は寝台に寝かされて、両手と両足を拘束されて実験の道具に使用されていたんだ。だが、その中でこの男だけが俺の手と足の拘束を外しに掛かっていたんだ」

「だから一緒に連れて行くって言うのか? 怪し過ぎるだろう?」


 エレベーターが到着するのを待っている間、エルザはそのレウスに向けていた視線を彼の横に居るもう一人の男に向ける。

 かなり久々に出会う気がするこの男だが、自分達にとっては忘れる事が絶対に出来ない、同じマウデル騎士学院の生徒だった男。そしてサィードの後輩でもある、セバクター・ソディー・ジレイディールが一緒に着いて来ている現状を認めたくは無い。

 マウデル騎士学院の爆破事件の容疑者として追いかけられていたのがかなり遠い昔の様に思えるのだが、それよりもその先輩のサィードにとっては自分をこの地下にある牢屋に投獄した張本人でもあるのだから、彼にとっては騎士学院のこの後輩を敵認定せざるを得ないのだ。

 そしてこの状況でも相変わらず無口で、自分からは何も語ろうとしないセバクターだったが、レウスに促されてその理由を語り始める。

 丁度エレベーターがやって来たのでそれに乗り込んで、そのエレベーターから降りてレアナに脱出ルートを先導して貰う前に、この事情だけはどうしても説明して欲しかったからだ。

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