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250.救出その2

 その地下牢獄に響き渡っている声は、上の階のサィード達にも届いていた。

 そして、明らかにこの声があの筆頭魔術師であるディルクのものだと気付いたのは、彼の声を聞いた事のあるエルザとレアナの二人だけである。


「なあ、この声はもしかすると……!」

「ええ、筆頭魔術師のディルク様ですね。急ぎましょう。あの方にこれ以上好き勝手させる訳にはいきません!」

「そうですね、ソランジュとサイカが危ないわ!!」

「で、その凄い研究室ってのは一体どっちなんだ? 女王陛下なら場所を知っているんだろう?」


 サィードが尋ねると、レアナが「こちらです!」と小走りで駆け出したので三人もその後ろを着いて行く。

 無機質な鉄の壁の区画を数回ジグザグに曲がり、進むに連れて物々しい雰囲気になって来た通路を駆け抜けて奥に進んで行くと、突き当たりに真っ黒なドアが現われた。

 そのドアの上には木製の札で『最重要魔術研究室』の文字があるので間違い無くここなのだが、何だか様子がおかしいのはそのドアに近づいて中から呻き声の様な音が聞こえて来た事から始まった。


「ねえ……何か様子が変じゃない?」

「そうだな……レアナ様、中でどんな実験が行われているとかって言うのは教えて貰えないんですよね?」

「はい、残念ながら。ですがこの中の様子はちょっと変ですね。ええと、貴女……お名前は?」

「あ、アレットです!」

「ではアレット様、貴女はその恰好を見る限り魔術師の様ですが、探査魔術は使用出来ますか?」

「はい、使えます!」


 レアナにいきなり自分の名前と魔術の使用可否を尋ねられたアレットだったものの、反射的に答える。

 その回答に対して満足した様子で頷いたレアナは、黒いドアを指差して言った。


「この中の様子を探って頂けませんか? 何が起こっているのかを確かめて欲しいのです」

「は、はい!」


 アレットはドアに向かって自分の杖をかざし、目をつぶって集中しつつ呪文を唱えて中の様子を探り始める。

 すると、段々彼女の表情が険しくなって行くのが他の三人にも分かった。


「……どうしたんだ?」

「何も見えない……」

「え?」

「何も見えないのよ。どうやらこのドアには強力な魔術のプロテクトが掛けられていて、それが探査魔術を妨害しているみたい」

「嘘だろ……それじゃ中の様子は俺達の耳と気配で探るしか無いってのか?」

「残念だけどそれしか無いみたいね。中から聞こえて来るのは誰の声なのかも分からないし、そもそも声じゃなくて何かの物音かも知れないから、とにかく調べてみましょう」


 アレットのセリフに従って、レアナの身の安全を最優先にする為にサィードとエルザの二人で中の様子を探ってみる。

 すると中から声が聞こえて来るので、その声をもっと良く聞き取るべく意識を集中する二人。


「おい、どうしたんだ!」

「わ、分かりません! ですがこの男が突然苦しみ出しまして!」

「まあ、みんな落ち着いて。この男が演技をしているだけかも知れないから色々とやってあげれば分かるかもよ?」


 約一名、余りにも冷静にそして楽しそうに周囲に指示を出す声を聞いたエルザの表情が強張る。


「どうやら……この中にあの黒髪の魔術師が居るって言うのは本当らしいな」

「あの野郎が!?」

「ああ。レアナ様、ここの鍵は!?」

「い、いえ……私はここに入る事すら許されておりませんので、鍵は持っていません」

「くっ……どうすれば良いんだ!? 何か……何か手は無いか!?」


 どうにかして内側からこのドアを開けさせなければならないのだが、どうしたものか。

 あたふたしながらもそれを考える四人の中で、真っ先に方法を思いついたのがアレットだった。


「そ、そうだわ……確かあの魔術師が居たって言う転送陣の向こう側に行っていないのは、私とサィードだけよね?」

「ああ、そうだが」

「だったらここを開けさせる方法を思いついたわ! レアナ様も協力して下さい!」

「わ、私が……ですか?」

「時間が無いんです、急いで!」


 ドアの前で立ち話し過ぎていると中に居る研究員達にバレてしまう可能性があるので、アレットの提案したその作戦で行く事にする一行。

 一方でドアを挟んだ向こう側では、レウスが口から白い泡を吐き出しながら寝台の上でビクンビクンと痙攣していた。

 その様子を見て慌てて右半身の拘束を外す振りをするセバクターと、残っている左半身の拘束を実際に外すライマンドとヨハンナ。

 しかし、それを見ても筆頭魔術師のディルクの様子は冷静だった。


「とりあえずそこにある薬品を取って。それから熱いお湯も準備して」

「は、はい!」


 緑髪の魔術師ドミンゴと赤毛の男ヴェラルがバタバタと準備をするのを横目に、ディルクは腕組みをしたまま冷めた目で痙攣するレウスを見つめる。

 白目を剥いて意識が吹っ飛びそうな様子なのだが、ディルクはこれが彼の演技なのでは? とうすうす感づいている。

 しかし、まだ彼には利用価値があるので目の前で死なれたら困るディルクは、手の中に回復魔術用の魔力を溜めて寝台のレウスの上にその手をかざそうとした……その時だった。

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