248.操り人形
登場人物紹介にディルク・デューラーを追加。
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「私はこの国の名前ばかりの女王なんです。国の実権を握っているのは私では無く、魔術師達なんです」
「つまり……傀儡って事ですか?」
アレットが気まずそうにそう問えば、レアナは寂しそうな顔つきで頷いた。
「難しい言葉をご存知なのですね、そうです。私は傀儡……国の操り人形扱いなんです。実権はあの黒髪の魔術師ディルクが握っています。突然何処かから現われ、その類稀なる魔術の才能であっと言う間にこの国の実権を握ってしまったあの男が……」
「え……えっ? ちょっと待って下さい。黒髪の魔術師って……」
「あら、ご存じ無いのですか? カシュラーゼを裏から操って、長年領土問題で揉めていたヴァーンイレス王国に乗り込ませたのはあの魔術師ですよ」
「……その話、もっともっと詳しく聞かせて貰えませんかねえ?」
黒髪の魔術師がディルクと言う名前なのを聞いたサィードが、アレットとエルザを押しのけて後ろから前に歩み出る。
そんな彼に少し戸惑い気味になりながらも、レアナは歩くスピードを落として話を続ける。
「その当時、私はまだ小さかったんです。実際に指示を出したのは私の父と言う事になっておりますが、それは表向きの話です。父は……あの魔術師に言葉巧みに操られてしまい、ヴァーンイレス王国を滅ぼす様に動き出しました」
「ちょっと待って下さいよ。じゃあ、俺のヴァーンイレス王国を滅ぼしたのはやっぱりあの魔術師だったって事ですか?」
「俺の……?」
サィードがポロッとこぼしたその一言に、レアナがハッとした顔つきになった。
「そうでしたか、貴方は……」
「本来であれば、俺はこの場で貴方を殺したい程に憎んでいますよ。いや……国ごと滅ぼしてやりたい気持ちで一杯ですよ」
「まあまあ、ちょっと落ち着いて!」
両手を使ってサィードを抑え込むアレットだが、サィードの発言は収まりそうに無い。
不敬罪もそうだが、これ以上行くと逆にサィードが処刑されてしまうのも考えられるので何とかなだめているのだが、それにも限界があるのだ。
「でも、その操られていたってのが本当ならちょっと話は変わって来るんですよ。何がどうなっているのか俺も訳が分からなくなってきてますからねえ。だからもっと詳しく話を聞かせて下さいって言ってんですよ」
「確かにその気持ちはそうでしょう。今の発言で、貴方がヴァーンイレス王国の方だと言うのは察しました。本当に申し訳無かったです」
(何、この取り返しのつかない空気……)
段々そんな空気になっているのを感じたエルザが気まずそうな表情になる一方で、レアナは更に続ける。
「ただし、少し弁解させて下さい。あの魔術師が突然現れて父をそそのかし、そしてヴァーンイレス王国を滅ぼすために同盟国を巻き込んで攻め入ったのは事実です。長年領土問題で揉めておりましたから。ですが、あの魔術師はどうやらそれ以上の目的があるらしく、今は次々と功績を挙げて国の英雄として君臨しています」
「他の目的ってもしかして……五百年前にこの世界を滅ぼそうとした、魔竜エヴィル・ワンの復活ですか?」
思い付く目的と言えばそれしか無い上に、レウスを始めとする自分達……いや、レウス自身がこの国に来る様に仕向けたのはあの赤毛の二人の筈では無かったのか。
その二人とあの黒髪の魔術師が組んでいるとしたら納得が行くのだが、レアナは首を傾げる。
「そこまでは分かりません。王族でも魔術の研究場所には立ち入らせて貰えない事があるので」
「何で? それって変じゃねーですか? だって貴方は女王陛下なんですよね? だったら女王陛下の権力を使って魔術の研究を見せて貰える様に頼めるんじゃねーですか?」
「確かに普通の場合であればそうかも知れません。ですが私は操り人形であり、お飾りの女王。実権はあの筆頭魔術師が握っていると先程もお伝えした筈です。そうやって実権を握られている以上、私は口を出せない様になっているんです」
レアナの回答に対し、サィードは心の中で何だよそりゃー……と呟くしか無かった。
その彼の横からエルザが話に入って来る。
「それでしたら、レアナ様の御父上から話をされてはいかがです? 確か年齢を理由に王位を退いたと言うのは私も耳にしておりますが、前国王であれば流石にあの魔術師であっても……」
「父は殺されましたの……」
「え?」
別の方法を提案していたエルザのセリフの途中で、衝撃的な事実を話し出したレアナ。
その口調からはふざけて言っているのでは無いのが良く分かるが、そんな話は少なくともリーフォセリアには伝わっていない筈である。
なのでアレットが、レアナには辛いと分かっていても聞かざるを得ないとその事実について質問をする。
「前国王が殺された? ちょっと待って下さい、それって国外に伝わっている話ともしかして違っていたりします?」
「ええ。表向きには父は病床に伏していると言う事になっておりますが、実際にはもう亡くなっているんです。あの黒髪の筆頭魔術師に殺されて……」
「どうしてあの魔術師はそんな事を?」
「分かりません。ですから、それを私は知りたいんです。……恐らくこの先で彼は実験を行なっているのでしょうから」