247.女王陛下レアナ
研究所の中で出会った人間や獣人達は、すれ違っても挨拶もしないドライな者ばかりだった。
しかし、三人にとってはかなり意外である。
てっきり攻撃して来るのかと思いきや、三人の事を敵だと見なしていない者ばかりらしく三人の方から危害を加えない限りは問題無しだと分かったのだ。
エレベーターへの道のりも、無口で不愛想はあるがすれ違った研究者の人間にとりあえず教えて貰えたので、そこに辿り着いた三人はエレベーターに乗って更に上を目指す。
最重要研究室は、どうやらこの裏の世界の研究所の中にあるエレベーターを使って上に進んだ場所にあるらしい。
「やっぱり最重要研究室って名前だけあって、下の研究所の中には一緒に造れない部屋だったらしいな」
「でも何となく分かるわよ。だってさ、最重要の研究を行なうんだったらそれこそ王族とかの人も見に来る機会があるかも知れないから、なるべくアクセスしやすい場所に造るのは当然の事だと思うわ」
「でも、魔術研究所から設備やら道具やらを持って来るんだったら、貴様の推測は外れだと言う事になるぞ、アレット」
「良いじゃないのよ推測なんだから。そもそもこのカシュラーゼの人間じゃなかったら分からない事だって沢山あると思うしさ。それよりも今は、この先の最重要研究室に何があるのか分からないから用心しましょうよ」
エレベーターはぐんぐん上へと上がって行く。
実験器具等を上に持って行く関係か、それとも魔術師達が一度に多く乗れる様にしている設計なのかまでは分からないものの、エレベーターはちょっとした小部屋並みの広さがある。
実際、この三人が同時にそれぞれの武器を振り回してもお互いに当たらないであろう。
そんなエレベーターに乗って辿り着いた先が、レウスが捕らわれていると思わしき最重要研究室があるフロアだった。
エレベーターから降りた先の通路はまず直線の通路があり、奥の突き当たりには二手に分かれている通路が伸びている。
「うわあ、何だか物々しい雰囲気ねえ……」
「本当だな。しかも何だか色々と怪しい大きな容器が多数並んでいるし、これって……」
「おい、ちょっと待て。これって人間じゃねえのか!?」
「えっ……きゃあああっ!?」
エルザに続いてサィードが発したセリフを聞き、アレットが大きな容器の中を良く見てみると、それが何なのかがようやく理解出来て悲鳴を上げる。
「こ、これって……人……!」
「だったもの、だな……そう言えば貴様、確か下の方で人間のエネルギーがどうのこうのって書かれている張り紙を見かけたって言っていなかったか?」
「ああ。確かに見かけたぜ。だけどその時は人間の身体から何かエネルギーを吸い取っているんじゃねえかって推測しか出来なかったんだ。その実験に使われるのがこの人間の入っている入れもんだとしたら……」
「そうですね。私はこの実験を止める事が出来ませんでした……」
「っ!?」
突然何処からか自分達の知らない声が聞こえて来た事に驚いて、一同は周囲を見渡しつつ身構える。
その声の主は突き当たりの分かれ道の右側から現われた。
栗色よりも明るい、淡くて長い金髪を背中の真ん中辺りまで垂らしている大人びた雰囲気の女である。
黒を基調とした豪華な衣装を身に纏い、腰にはレイピアを装備してゆったりとした足取りで歩いて来るものの、その表情は何処か固くそして暗い。
夜明け頃の空を思わせる様な暗い青色の瞳を、若干垂れ気味のまぶたの中に収めているその顔つきは気品を感じさせるものであるが、果たしてこの女は誰なのであろうか?
その疑問を一様に心の中に浮かべる三人の中で、最初にこの女の正体にピンと来たのはアレットだった。
「あの……もしかして、貴方はこのカシュラーゼの女王陛下のレアナ様……ですか?」
「申し訳ございません、申し遅れましたね。私は貴方のおっしゃる通り、このカシュラーゼの女王を務めているレアナ・マドロン・デュガリーです」
「なっ……あ、あんたがこのカシュラーゼのトップだとお!?」
「お、おいサィード! 無礼だぞ!」
驚きに声を上げるサィードを肘でつつきながら注意するエルザだが、女王陛下のレアナは別に気にしていないらしい。
「はい、私がレアナです。貴方達の事は既に臣下の者達から連絡がありまして、私の耳にも届いております。遠く遥々リーフォセリアからおいで下さったとの事ですが……事は一刻を争います」
「ど、どう言う事ですか?」
いきなり不穏な事を言い出したレアナに対し、戸惑いを含んだ声で質問するアレット。
するとレアナは信じられない事を言い出したのだ。
「貴方達の仲間……レウス様が、もうすぐで処刑されてしまいます」
「レウスが!?」
「はい。ですが、私の権限ではそれを止める事が出来ません。しかし貴方達がこうしてここまで自力で辿り着いて下さったので、もしかしたらその処刑を止める事が出来るかも知れないんです。詳しくはレウス様がいらっしゃる場所へ案内しながらお話しします。どうぞこちらへ」
そう言って自分達に背を向け、突き当たりに向かって歩き出したレアナに戸惑いながらも三人は彼女に案内して貰えるなら……と同じく歩き出した。