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22.食堂の噂話

 健康診断と身体測定が終了し、レウスは制服に着替えて学生達が集まっている食堂へ向かった。

 男女共学で王都カルヴィスに存在している騎士学院だけあって、王国中から未来の騎士団員を目指すべく沢山の人間が集まって来る。

 今日からレウスもこの中の一員であるが、事情が事情なだけに余り目立ちたくは無いと考えていた。


(だけど、この学院の敷地内で笛を吹きまくって生徒達を起こしてしまったからなあ……しかも犯人と戦ったのも俺だったし。願わくば、俺の事なんて知らない人ばかりであります様に……!!)


 人付き合いが嫌いな訳では無いが、今回ばかりは一人でゆっくりと食事をさせて欲しい。

 そう思いながらガヤガヤと生徒達の声で賑わう食堂へと足を踏み入れたレウスだったが、彼の姿が目に入った生徒から徐々に騒めきが無くなって行く。

 そして騒めきの代わりにレウスに向けられるのは、明らかな好奇の視線とヒソヒソ声だった。


「おい……アイツだろ、この学院の中で大騒ぎしてたのって」

「そうそう。笛で俺達起こされたし、勘弁して欲しかったぜ」

「噂によれば、学院内に侵入した不審者を追い掛けていたらしいわよ」

「あー、そう言えばそうねえ。でも結局取り逃しちゃったらしいのよねー」


 自分をバカにした様なトーンの声も聞こえて来る中で、レウスは気にしない様に心掛けながら自分の分の朝食を受け取って、食堂の余り目立たない場所に座る。

 それで少しは自分に向けられる視線が減ったものの、まだ噂好きな生徒達の声がレウスに聞こえて来る。


「でもさあ、何であの人ここの制服着てるのかしら?」

「お前知らないのかよ。あいつ、ここに編入したんだってよ」

「そーそー、それって確か騎士団長が絡んでるって話だろ?」

「うん。何でも、ギローヴァスを一人で討伐したんだって。凄く嘘っぽいけどね。でも騎士団長のギルベルト様がそう聞いてるから、それが実績として認められた上での編入じゃないかって話よ」

「えーっ、ギローヴァスをかい?」

「ああ。だったら俺達の目の前でセバクターさんが負けちまったってのも納得出来なくねえけど……何かいけ好かない野郎だぜ。勝っても大して喜びもしてなかったしな」


 ヒソヒソ声をなるべく聞かない様に心掛けていても、そうやって聞こえて来る声を聞いていると凄いスピードで話が広まっている事に違和感を覚えるレウス。


(やけに話が広がっている……しかもこんなに早く話が広まるなんて、絶対に誰かが言いふらしたに違いない!!)


 完全に自分の思い通りに行かない展開でイライラしながら、フォークを使ってサラダを口に運ぶレウスの前に、ドンッともう一つトレイが置かれたのはその時だった。

 いきなりの事で少し驚きつつも、そのトレイを持って来た人物が誰なのか確認する……までも無かった。

 何故ならその人物は、自分を含めてマウデル騎士学院の制服である黒いコートでは無く、赤いコートを着込んでいるからだ。

 この学院の中で制服を着なくても許されている生徒は一人しか居ない。


「よう、おはよう」

「おはよう……ございます、エルザ先輩」

「何だ、不機嫌そうだな?」


 トレイを置いたエルザはレウスの真向かいにどっかりと座り、ニヤニヤと嫌らしい目つきでレウスを見つめる。

 それに対して、レウスはエルザに指摘された通りの不機嫌な態度を隠す事無く口を開いた。


「そりゃまあ、こんなに短時間で色々と話が広がっているんですから機嫌が悪くならない方がおかしいかと思いますけどね?」

「そうかそうか。まあ、お前はかなり大暴れしたから色々と私もお前についてみんなから聞かれてな。だから知っている限りの情報を教えてやったんだが、そんなに広まってたのか?」

「あんただったのか……絶対確信犯だろう?」

「さて、何の事やら?」


 相変わらずニヤニヤ笑いを止めようとしないこのエルザは、かなり性格が悪い女だとレウスは改めて認識する。

 本当にこの女と同じ学年じゃなくて良かった、と安堵する彼に対してエルザが確認の意味で問う。


「そう言えば、さっきエドガー叔父さんから聞いたんだが、どうやらアレットと同じクラスらしいなあ?」

「……」

「ふっ、聞く耳持たぬか。まあ良い……だがこれだけは覚えておけ。もしアレットに手を出そうものなら……」

「首を刎ね飛ばすって言うんだろう。分かってるよ。ったく……アレットとあんたは仲が良いのか悪いのか分からんな」

「学院トップの生徒として、他の生徒の模範にならなければならないだろう?」

「それが俺に出会ってすぐに斧を振り回して来た奴の言うセリフかよ……二枚舌も程々にしておけよ、本当に」

「ふん、その口から泣きべそが出るのももうじきだ。今日の所は入学初日だから見逃してやるが、卒業まで何回も行なう私との手合わせを楽しみにしておくんだな!」


 傲慢な上に自分勝手な女と来たらもう救いようが無いので、これ以上こんな奴に関わって気分を悪くする前にさっさと指定された教室に向かうべく、残りの朝食を胃の中に収めてレウスは食堂を後にした。

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