245.二分の一の確率
ソランジュとサイカがコラードを追い掛けて牢獄の通路に飛び出して行ったその少し後、残されていた三人はようやく増援部隊を片付けて自分達もコラードを追い掛けるべく牢獄の通路に飛び出した。
しかし、コラードがどちらに向かったのか分からない。
その飛び出して行った瞬間を見ている暇も無く、やって来た増援部隊の連中と交戦状態になった為に完全に見失ってしまったのだ。
「どうする……? 俺達はどっちに行く?」
「ここで私達がバラバラに行動するのは得策では無いな。まだ増援部隊が何処かからやって来る可能性も否定出来ないから、二分の一の確率でどちらかを選ぶしか無いだろう」
「じゃあ……こっちに行きましょう!」
アレットが指差した、通路の左側へと向かって駆け出す一行。
しかし、そちらは運悪くコラードを追い掛けて行った二人が向かった方向とは全くの正反対だったのだ。つまりこの瞬間、二分の一の確率をこの三人は大きく外した事になる。
当然そんな事は知らないまま、コラードを追い掛けて行ったソランジュとサイカの後を追い掛けていると思いながら走る三人。
その途中で、ふと疑問に思った事をサィードが口に出した。
「そう言えばさ、この魔術王国カシュラーゼのトップって誰なんだ?」
「ええっ、貴方知らないの!? 社会の授業で習うでしょ! 主要九か国の授業でさ!」
「んー、俺は勉強の面ではそこまで真面目に聞いてなかったからよぉ。リーフォセリア王国騎士団に合格したのだって筆記試験がギリギリで、実技試験で好成績を収めて入団出来たんだしな」
悪びれも無くそう言ってのけるサィードに対して、アレットもエルザも走りながらガックリと落ち込んでしまう。
何でこんな男が自分達と同じ、マウデル騎士学院の卒業生なのか……。
そして騎士団員として活動していたと言うその事実に、二人はこの時に初めて騎士学院の学生だった事を後悔した。
こんな人間と同類に思われる位だったら、王国騎士団に入らなくても良いかも知れない……とまで思ってしまった。
だが、今はそんな事よりも先にこのカシュラーゼのトップについて説明をするのが先だと考え、魔術師であるアレットが口を開く。
「ここのカシュラーゼのトップはレアナ様よ」
「レアナ?」
「そう、レアナ・マドロン・デュガリー様。主要九か国の中では少数派の女王陛下よ。この方無くして魔術王国カシュラーゼは成り立たないって言われているお方なのよ」
「へぇ~」
「へえーって……貴方、本当に関心が無いのね」
「ああ。だって興味ねえもん俺。このカシュラーゼの魔術技術は凄いけど、その国の内部事情までは俺に関わって来ねえ限り、別にどうだって良いしさあ」
「ああ、そう……」
またもやガックリしてしまうアレットの横で、エルザが続きの解説をする。
「まあ、とりあえず貴様は最後まで聞け。貴様が自分で言った通り、今の貴様にはカシュラーゼが大きく関わっているのだからな。……で、だ。このカシュラーゼが南にあるヴァーンイレス王国と領土問題で揉めていたのは知っているよな?」
「そりゃー知ってるさ。俺の国が滅ぼされたんだからな」
「だったらますます貴様が関わっているじゃないか。良いか、きちんと聞いていろよ」
「わーったよ。だから早く続きを教えてくれ」
「じゃあ続きだ。そのカシュラーゼと協力していた数か国が手を組む様に指示を出したのは、レアナ様では無いと言うのは知っているか?」
「えっ? そいつは知らねえな」
黒髪の魔術師が自分の住んでいた場所を滅ぼしていたと言うのは知っているが、カシュラーゼのトップがそれに関わっていないのはサィードにとっては初耳である。
「何だ、知らないのか? 自分の国を滅ぼした相手の事……つまりこのカシュラーゼの事を、貴様は今まで調べていなかったのか?」
「ああ。あんまり調べてない」
「……」
俺に関わって来ない限り、国の内部事情までは別にどうだって良いとまで言い切っていたのに、何でこうもこの男は行動が適当なのだろうか。
そんな呆れるエルザの心の内を見透かしたのか、サィードが走るスピードを落として普通の歩くスピードになって弁解する。
「そりゃーちょっとは調べたさ。けどよぉ、その時の俺はあの時の黒髪の魔術師を倒す為の強さが欲しくてついつい後回しになっちまってなぁ……」
「で、何処まで調べたんだ?」
「このカシュラーゼって所が、魔術の技術が凄いって位かな」
「あのな、それは調べたとは言わないんだ。後は傭兵仲間から聞いた、他国の傭兵を嫌がる程にプライドの高い国だって話もそうだろう?」
「あーそうそう、それそれ」
「それそれって……」
前に自分で自分の事をちゃらんぽらんって言っていたが、この場合はちゃらんぽらんと言うよりもただ単に彼の中の優先順位の問題だろう、としか思えないエルザとアレット。
この男には本当に、自分の滅ぼされた祖国を救いたい気持ちがあるのだろうか?
この先の態度次第によっては説明するのを止めてしまおうかとも思いつつ、エルザはヴァーンイレス侵攻の指揮を執っていた人物について再び話し始めた。