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239.動き出す傭兵達

「おいそこの……ええっと……何だっけ、中年の人」

「私ですか?」

「そうそう、君だよ君。君は本来、あのパーティーに入る予定だった傭兵なんだろう?」

「そうですが……」


 名前ですら呼ばれないのを不服に思いながらも、ベテラン傭兵のコラードはディルクの次の言葉を待つ。

 その彼に対して、ディルクは溜め息を吐きながら命令した。


「はあ……全く、君が僕の命令通りに上手くあのパーティーに潜り込んでもっと情報収集をしていてくれれば、こんなトラップを作らずに済んだんだよ。僕だって本来の研究があるんだから、なるべく無駄な労力は使いたくないんでね。その密偵として潜入失敗した埋め合わせとして、あの五人の始末をお願いするよ。今度失敗したら契約打ち切りだからね!」

「はっ、かしこまりました。このコラード、全身全霊で任務に当たります」

「期待してないけどね。こっちだってそれなりに金は弾む約束してるんだから。ほら分かったらさっさと行く!!」


 シッシッとまるで虫を払うかの様に追い立てられ、二枚舌の悪いあだ名を持っているコラードが動き出した。

 未だにレウスの身体から取り出した魔力を使った実験が進められている中で、下で暴れている連中を止めるべく自分が盾になる任務を受けた彼だったが、正直言って自信満々である。


(この前の実技試験であいつ等の実力は大体把握出来た。それに今回はあの虎獣人も居ない様だし、ここは私の方が地理にも詳しい。色々な所からの奇襲だってやろうと思えば出来るからな……)


 自分の愛用の武器であるロングバトルアックスを握りしめ、研究室を出たコラードは妙に自信満々で五人が戦っている兵士達の詰め所に向かって歩き出した。

 しかしその一方で、部屋の中で一緒に作業に当たっていたセバクターの様子には、各々が実験に当たっている中で誰も気が付いていなかった。

 セバクターは自然な動作で拘束されたままのレウスに近づくと、その拘束具を周りに居る誰にも気付かれない様に、そして音が出ない様に細心の注意を払って外す。


「……!?」

「……」


 黙ったままのセバクターは左手の人差し指を口に当てて、まず右手でレウスの右手首の拘束具を外し、次に左へ……と思った瞬間にディルクがスッと動き出したので、一旦拘束を解くのを止めて作業に戻る。

 レウスの真横で作業をしていたのが功を奏して何時でも解放作業が出来る状態にあるのだが、かと言って油断は禁物である。


(ここには見た事の無い設備が沢山ある上に、ディルクと言うあの魔術師がどれだけ目ざといのか分からないからな。ここは慎重に集中して、機会を待つんだ)


 自分にそう言い聞かせながら、そのチャンスが来るまでジッと作業に集中するセバクターの横では、レウスが戸惑いを隠し切れない状態であった。


(今まで敵だと思っていたのに、一体何がどうなっているんだ? こいつは一体何を考えているんだ? 俺の拘束を解いて一体何をさせようって言うんだ?)


 五百年前の勇者アークトゥルスでさえ、この突発的な事態には混乱を覚えるしか出来なかった。

 これは逃げろと言う事なのか?

 そうなると、セバクターにどんな心境の変化があったのかは分からないが、とりあえずこちらの味方になってくれたと見て良いのだろうか?

 だが仮にそうだったとしてもこの状況ではまだ魔術を使う事は出来そうに無いし、そもそも先程指先から魔力を半分以上吸い取られてしまっているので、余り大きな魔術を使うと魔力切れを起こしかねない。


(ここはとにかく黙ってジッとしていよう。もしかしたら俺の考え過ぎで、次の実験の為に俺の拘束具を解いただけかもしれないからな……)


 出来ればもっとポジティブに物事を考えたい所だが、この拘束されている状態ではネガティブな感情が優先になるのも仕方が無いだろうと己を正当化しつつ、レウスは右手の拘束が解けたのを周りに悟られない様にじっと黙っている事にした。

 周りではまだ実験が続いている。

 かなり大掛かりなものらしく、先程から設備をいじったり何かの薬品を準備したりして全然実験が終わりそうに無いので、ゆっくりとレウスは回想にふける事が出来る。


(考えてみれば、このセバクターの行動にはかなり謎が多いよな……)


 今まで自分がセバクターに出会った時の話を考えて、この男の行動理念を探り始める。

 まず最初に出会ったのは、思い出すのが心苦しいあの騎士学院での風呂場。

 あれが切っ掛けでセバクターと最初の手合わせをして、そしてその後に学院爆破事件が起こってセバクターが姿を消した。

 二回目はウォレス率いる犯罪者集団に誘拐された先のソルイール帝国において、何故かあの腹の立つ皇帝バスティアンの部下になっていた。

 そこでもまた手合わせをして、自分が二回目の勝利を収めて砂漠にサンドワーム討伐へ向かって別れた。

 三回目はイーディクト帝国の新しい方のウェイスの町で出会ったのだが、この時は大勢の仲間を引き連れていた。

 その仲間をリーフォセリアからやって来た王国騎士団長ギルベルトと共に撃破したのだが、セバクターには煙幕攻撃を仕掛けられて逃げられてしまった。

 そしてこのカシュラーゼの町中で、あの因縁の相手である赤毛の二人組と一緒に行動している彼に出会った……。

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