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238.あからさまな罠

 だが、中の様子を探査するに連れてアレットが訝しげな表情になる。


「……ん?」

「どうした?」

「生き物の気配が……しない……?」

「えっ?」

「そんなバカな。兵士の詰め所なら兵士の一人や二人が居るのは当たり前だろう」

「でも……本当に中からは何の気配も感じないのよ」


 アレットの表情は決してふざけている訳ではなく、むしろ真剣そのものである。

 それに続いてサィードとエルザが中の様子を耳と気配で確認した限りでも、全く同じ答えが返って来た。


「アレットの言う通りだぜ。中からは気配も物音もしやしねえ」

「私も同じだ。とにかく中に入ってみないか?」

「そうね」


 その詰め所の中に入ってみれば実態が分かるだろうと意見が一致し、サィードが先頭になってソロリとドアを開けた。

 その中で見た光景は、恐ろしい程に静まり返っている大きな休憩室だった。

 木製の椅子とテーブルが何セットも乱雑に置かれており、その中央の大きなテーブルの上には全員が見慣れたそれぞれの武器が置かれている。

 ハッキリ言ってかなり怪しい。


「……どう思う?」

「罠の匂いしかしないわよ、この状況。だって人一人居ないこんな部屋に、ああやってポツンと武器だけが、しかも目立つ様にああやって置かれている事自体がもう……ねえ?」


 アレットに聞かれたサイカが率直にそう答えれば、彼女の隣でソランジュも頷いて同意する。


「ああ。いかにも罠を仕掛けましたとバレバレの状態だな。そこで提案なんだが、何かの罠だった場合にここから出られなくなる可能性も考えられるから、まずはドアを壊そう」


 武器を取った瞬間に魔術が反応してドアが閉まってロックが掛かってしまうかも知れない。

 それを防ぐ為に、まずは自分達が今この部屋に入る為に使ったドアを全員で叩き壊し、罠の可能性を一つ潰した。

 それからこの広い部屋……人間五十人が横になって眠れそうな程の広さを持っているだけあって何処に罠が仕掛けられていてもおかしくないので、六人で手分けして気になる設備や仕掛けを探し回る。

 すると、ソランジュが目ざとく一つの魔道具を発見した。


「あ、おいこれって……」

「あれっ、これってあの時に聞いた街中を監視する為のシステムと同じ物じゃないかしら?」


 ソランジュが発見したのは、部屋の隅に飾られている植物が入った植木鉢の中に巧妙に隠されている、監視システムの一つであった。

 これで部屋の中を監視しているのだと分かったので、それもエルザが斧で叩き壊しておく。


「これで良しっと。おい、他には何か見つかったか?」

「いいや、特に何も無かったぞ」

「そうか。それでは改めて私達の武器を回収しよう」


 エルザの指示で五人全員がテーブルに近づき、そのテーブルの周りにも罠が無い事を確認した上でそれぞれの武器を手に取った……次の瞬間だった!!


 ドヒュドヒュドヒュドヒュドヒュドヒュ!!

 パープゥーパープゥーパープゥー!!

 ヒューンヒューンヒューンヒューン!!


「うわっ、ななななな何だあ!?」

「ううっ、うるさああああい!!」

「くそっ、どうやらトラップみたいだな……全員、早くここから出るぞ!!」


 どうやら武器を手に取る事で警報装置が大音量で鳴り響く様になっていたらしく、詰め所になっているこの部屋の外からバタバタと何人もの足音がこちらに向かって駆けて来るのが聞こえて来た。

 扉を壊していたのだけが不幸中の幸いだったのだが、武器を取った事でピンチが迫っているのは間違い無いので、全員がさっさと部屋の外へと出て地下牢獄からの脱出を試みる。


「おいっ、もう来ているぞ!!」

「うそっ、速すぎでしょ!!」


 この罠を発動させた瞬間に、ここに駆けつける様に兵士達が事前に打ち合わせをしていたのかは定かでは無い。

 だが、詰め所から出たその五人の元に武装した集団が向かって来ているのは事実だ。

 当然五人は牢獄の中を縦横無尽に駆け巡って、敵を倒しつつレウスを捜しに行くつもりだったのだが、予想以上の数の敵が押し寄せて来たので通路の中では対処しきれないと判断。

 一旦詰め所の中に戻り、それぞれが部屋の中に散らばって向かって来る敵を処理して行くしか無かった。

 アレットは前衛向きでは無いので、ソランジュとエルザが彼女の周りをガードしながら彼女に魔術で援護して貰う形で戦いを繰り広げる。

 恐らくこの押し寄せて来た集団は、元々この詰め所の中で待機していた兵士や魔術師達なのだろうと考えながら。



 ◇



「へえー、それなりに先を読んだ行動が出来るみたいだけど……それでもどうやら僕の方が一枚上手だったみたいだね」


 自分の仕掛けたトラップにまんまと引っ掛かった五人を監視カメラのライブ映像で確認しながら、黒髪の魔術師ディルクは腕を組んで満足そうに頷いた。

 だが、あの人数の兵士達で果たしてあの五人を止められるかどうかは疑問である。


(仮にも、このアークトゥルスの生まれ変わりである男と一緒に今まで行動していた事もあって、それなりの修羅場は乗り越えて来ているのだろうね)


 ライブ映像を見ながら五人の戦力をそう分析する彼は、後ろを振り返って一人の男に声を掛けた。

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