229.牢屋の秘密
怒声混じりのソランジュの問い掛けにも全く動じないどころか、フッと鼻で笑って食事を乱暴にガチャガチャと受け渡し口から差し入れる男は、腕組みをして尊大な態度で鉄格子の向こう側から二人を見据える。
「フッ、お前等の考える事なんか古いんだよ。この牢屋はな、中に入れた奴が簡単に脱走しねえ様に牢全体に封印魔術を掛けてあるんだよ」
「な……」
「それだけじゃねえ。もしこの牢屋から逃げ出そうもんならすぐに警報システムがこの牢屋中に鳴り響いて、看守連中がすぐに吹っ飛んで来る仕組みになってっからな。だから牢屋を壊してもすぐに捕まっちまうよ。残念だったな!」
しかし、ソランジュとサイカが聞きたいのはそんな話では無かった。
「そんな事よりも、私はお主が私達をどうするのかを聞いた筈だ」
「そうよ。それにまだ私達は貴方の身分すらも知らないんだけど?」
「あーそっかそっか、そーいや俺の自己紹介がまだだったっけ。良いだろう……それじゃ教えてやるよ。俺はこの魔術王国カシュラーゼの王国騎士団、第一部隊長のライマンドだ」
だからあの時、自分を捕らえる様に部下に指示を出していたのか……とソランジュは彼の身分を聞いて納得する。
それでも、納得出来ない事は他に山程ある。
「そうか、お主はそれなりの立場の人間だったのか。だが、だからと言って何の罪も無い人間をこうやって追い回して、そして投獄するなんて一体何のつもりだ?」
「何のつもり? こう言うつもりだからさ。俺は国王からの命を受けてこうしてお前達を捕まえて投獄したのさ。で……これから先はお前達にちょっとばかし協力して貰いてえんだよ」
「協力ですって? 一体私達に何をさせるつもりなのよ? そんなの答えになっていないわ!」
もっと具体的に説明してくれとサイカが頼むものの、ライマンドと名乗った男はまたしても鼻で笑って踵を返す。
「はっ、それはまた後でのお楽しみさ。まあ……お前達の想像もつかない様な事をしてるってのだけは教えといてやるよ。後はその時まで秘密だぜ」
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ! まさかこの食事に毒でも入れてるんじゃないでしょうね!?」
「んなもん入れっかよバーカ。お前等にはこの後も協力して貰わなきゃなんねえんだからよ。良いからとっとと黙って食っちまえよな」
そう言い残してヒラヒラと手を振って去って行くライマンドに対して、ソランジュもサイカも何も言えないまま牢屋の中で暗くなってしまう。
「結局、私達がこれからどうされるのかが分からないままね……」
「そうだな。そもそもレウス達はどうなっているんだ?」
「ともかく無事で居てくれればそれで良いわよ。……それとこれ、本当に毒なんて入ってないわよね……?」
そう言いながら恐る恐ると言った表情で食事に手を付けるサイカだが、毒も入っていなければ味も何とも無いのでそのまま食べる事にした。
それを見たソランジュも続けて食事に手を付け始めた頃、少し離れた区画の牢屋の中に新たな投獄者が入れられた。
「ちょっとお、乱暴にしないでよね!!」
「良いからここに入っているんだ」
「おい貴様、私達をどうするつもりなんだ!!」
やっと身体の自由が戻ったエルザと、元気を取り戻したアレットの二人はあの緑髪の男に連行されて地下牢へと入る事になった。
当然この二人も武器を取り上げられている上に、彼から牢屋の中では魔術も意味を成さないと事前に説明を受けていた。
「お前達をどうするかは今後、上の者と相談して決める」
「何よそれ!! 何の目的も無しに、私とエルザをここまで連れて来たって言うの!?」
「そうは言っていないだろう。お前達をどうするかは実はほぼ決定しているんだ。それの最終調整を上の者と相談して決めると言っているだけだ」
「決まっているだと……? さっきから上の者、上の者と言っているが……貴様、一体何者だ?」
非常に淡々とした口調でそう答える緑髪の男に対し、身分を訪ねるエルザ。
それに対して牢屋の鍵を閉めながら、男は尚も変わらず淡々とした口調で名を名乗った。
「私は魔術王国カシュラーゼの魔術師の一人、ドミンゴ・ルビエラ。お前と同じ魔術師だよ……アレット」
「気安く呼ばないでよ!」
「ふん、気の強い女は嫌いでは無いがな。まあ良い……後で食事を持って来るからそれまで大人しくしているんだな」
そう言い残して去って行ったドミンゴと言う魔術師の足音を聞きつつ、アレットとエルザはお互いに頭を抱える。
「ああもう……カシュラーゼってこんな国だったの!?」
「でも薄々分かっていただろう。この国はプライドも高いし、あんな生物兵器を開発する様な国だからな。ドラゴンの生物兵器によって世界中に被害が及ぼうとも、決して自分の非を認めないだろうし逆に難癖をつけて世界征服に乗り出すかも知れない。事実……あのドミンゴと言う名前の魔術師はここに私達を連れて来る時にそんな事を言っていたからな」
「じゃあもしかして私達をここに連れて来たのは、このカシュラーゼの手によって世界が崩壊する様子を目の前で見せつける為なのかしら!?」
「いや、それだったらわざわざここに連れて来なくても良いだろう。何かそれなりの理由があってここに連行して来た筈なんだ。それが何なのかは分からないがな……」