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20.推測からの怒り

 ゴーシュと別れて一人王都カルヴィスの騎士学院に残ったレウスは、その日は騎士学院の中にある来客用の部屋に泊まらせて貰う事になった。


「なーんでこんな事になっちまったんだろうなあ……」


 ソファーに横になって呟いた独り言が虚しく部屋の中に消えて行く。

 五百年前も、そして今でも争いは無くならない。これは現実なのである。

 あのドラゴンを討伐したとは言え、そのドラゴンに代わる勢力なんて幾ら現れても不思議では無いが……静かに暮らしていたいと思っていたのにこんな事になった自分の運命を呪うレウス。

 だが、そこでふとある事に気が付いてソファーから身体を起こす。


(……そう言えば、俺って結局あのドラゴンを討伐した後ってどうなったんだ?)


 確かギルベルトが言っていた話だと、この学院の何処かにあると言うドラゴンの身体の欠片を含めてそれぞれの国に持ち帰った、あの時の仲間達が国を興したのだと説明された。


 地元の学校では世界史と言う形で色々な国の事を学んだが、この世界には実権を握っている九ヶ国以外にも大小様々な国がある上に、授業自体もあくまでさわり程度のものだったので、誰がどの国を興したかまでは習っていない。

 それに、自分がそう言う事に興味が無くなっていた事もあって今までずっと知らないままここまで来たのだ。


 そう言う事を一旦考え出すと止まらなくなってしまったレウスは、あの討伐時に自分が身体に受けた衝撃によって意識を失った所から推測を始める。


(まさかとは思うが……俺って仲間の誰かに殺されたんじゃねえのかな?)


 自分を含めたあの時の仲間達が討伐したドラゴンが、地面に倒れて行くのを自分はハッキリと見た。

 その後に後ろから強い衝撃を受けたとなれば、あの時ドラゴン討伐部隊の先頭に立っていた自分を殺すチャンスなんて幾らでもあった。

 そして五人の英雄……自分を含めたドラゴン討伐部隊は全部で六人だったので、人数的にもつじつまが合う。


 そう考え始めると、レウスは何だか異様にワナワナと身体が震える。

 勿論寒さではなく、怒りで震えが止まらないのだ。


(何だろうな、物凄くムカついて来た!)


 仮の話だが、自分に何か恨みがあったか自分以外でドラゴン討伐の手柄を山分けしたいと思った上でのその行動であれば、もうこの世に居ないかつての仲間達に激しい怒りを覚える。

 だがそれ以上に、その全ての原因を作ったあのドラゴンに対しての怒りが、こうして五百年以上の時を経てやって来た事も分かった。

 これ以上自分を苦しめる様であれば、そのドラゴンに纏わる全てをこの世界から消し去ってやれば良い。


 そんな危険思考が芽生えたレウスの居る部屋のドアが、コンコンとノックされたのはその時だった。


「ん……誰だ?」

「あのー……アレットだけど入っても良いかしら?」

「ん、ああ、どうぞ」


 学生寮に居る筈のアレットが一体何の用なのだろうかと思いつつ、怒りで震えていた身体を鎮めながらドアを開ける。

 だが、ドアの向こうから現れたのはアレットだけでは無くエルザも一緒だった。


「学院長から聞いたけど、貴方……この学院に入学する事になったんですって?」

「もう聞いたのかよ。早いな」


 これでますます逃げられなくなった……と更に心の中でため息を吐くレウスに対し、エルザが少し誇らしげに口を開く。


「そう言う話は伝わるのが早いんだよ。特に貴様が編入と言う形でアレットと同じ学年で学ぶとなれば、学院トップの私がこれで大手を振って貴様にまた手合わせを申し込めるからな!」

「いや、別に申し込まれた所で俺はやらないぞ?」

「貴様に拒否権は無いんだよ。これは先輩命令だからな!! この学院に入学した以上、勝ち負け以前に私が先輩だからな。だから私が貴様と戦いたいと言う時は、貴様は何があっても私と戦うんだぞ!」

「無茶苦茶だな……そうか、あんたが先輩か」

「そうだぞ」

「まあその辺りはわきまえますよ。そうですね、エルザさんの方が先輩ですもんね。……ここではね」

「ん?」

「え?」


 最後の一言が意味深だったのでエルザもアレットもキョトンとするが、レウスはそれ以上語る事は無い。

 エルザよりも、もっと言えば父のゴーシュや学院長のエドガーよりも、それに騎士団長のギルベルトよりも自分の方が戦場に立っている時間が長かったんだ! と声を大にして言える。

 ……言えるが、言った所で信じてくれる訳が無いのも分かっている。

 そんな悶々とした思いのレウスの目の前で、彼がせっかく忘れかけていた事をエルザは思い出させてくれた。


「それに貴様には私達の裸を覗かれたんだ!!」

「……ってちょっと待て! それはセバクターとの決闘でもう俺が正しいって事になっただろう!?」

「ふん、あんな決闘如きで疑惑が晴れたと思っているのか? おめでたい男だ。貴様がまたあんな変な事をしない様に、私達は監視役としてそばに居ろとエドガー叔父さんから頼まれているのでな。この学院の中で女生徒に手を出す様な事があれば……」


 一呼吸置いて、エルザ愛用のバトルアックスがレウスの前に突き出される。


「その時は、私がお前の首を刎ね飛ばす事になるからな。覚悟しておけ!」

「……する訳無いだろう」


 こんなのが自分の周りをウロウロしていたんじゃあ、お先真っ暗だ。

 レウスは今日、何度目になるか分からないため息を無意識に吐くのだった。


 一章 完

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― 新着の感想 ―
もうエルザ消えろまじで予想通りの中でも1番クソな反応しやがって やっぱ想像通りやったな
[一言] 争いには関わりたくないと言いながらこの結果 本当に嫌ならそれだけの力があるなら拒否出来たよね?
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