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225.地下都市でのチェイス

 激しい衝撃によって気絶してしまったレウスとサィードが赤毛の二人率いる武装集団に連れて行かれているその頃、宿屋で情報収集を終えてエルヴァンの街中を歩いていたソランジュとサイカの元に、ヒタヒタと一人の男が忍び寄っていた。


「ねえ、ソランジュ……」

「ああ、さっきから尾行して来るのが一人居るみたいだな。お主も気が付いていたか」

「うん。それもかなり尾行に手慣れている人間らしいわね」


 自然な流れで時折り背後を振り返りつつ、自分達を尾行して来る存在が居る事に気がついたソランジュとサイカ。

 人間のが尾行しているのは分かったが、誰が何の目的でそんな事をしているのかは全くの不明である。

 そもそも性別すらも良く分かっていないのも恐怖心を煽る理由となっているのだが、かと言っていきなりスピードを上げて振り切ろうとしたら逆に怪しまれるかも知れない。

 なのでここは何処かの路地に入り、そこで相手の視界から自分達の姿が一瞬消えた所で一気に振り切る作戦に出る。


「良いか、合図をしたら一気に走るぞ」

「分かったわ!」

「それじゃあ行くぞ……走れっ!!」


 小声だが力強いソランジュの合図と共に走り出す二人だが、その行動は既に尾行していた人物に読まれていたらしい。

 路地の間に潜んでいたり道端で立っていたりしていた、甲冑に身を包んだ数人の人間と獣人が、明らかに敵意を持って二人の方に向かって走って来たのだ。


「なっ!?」

「うそっ!?」


 ソランジュとサイカは、まさかこんな大人数に尾行されていたなんて思いもしていなかったのだが、それでもこうなってしまった以上は逃げるしか無いのである。

 タックルをかまして来ようとする敵を身軽な動きで上手く回避しつつ、土地勘の無いエルヴァンの街中のチェイスが幕を開ける。

 土地勘があれば二人バラバラに逃げた方が良いのだろうが、下手にはぐれてしまったら後々厄介な事になりそうなので、ここは二人で纏まって逃げ始める。

 なるべく固まらない様に広い道を選びつつ走り抜け、人混みをかき分けたり露店の物を投げつけたりして追っ手を何とか撒こうと必死である。

 二人は共にアクロバティックな動きを得意とするものの、ソランジュはちょこまかと動き回って敵を撹乱するタイプで、サイカは側転やバク転等の派手な動きを得意とするタイプと、二人でそれぞれアクロバットのタイプが違うのだ。

 サイカはその軽やかな動きを駆使して、民家の裏に備え付けられているハシゴに飛びついて屋上に登り、そこから民家の屋根伝いに逃げ始める。

 一方のソランジュは上手く追っ手の攻撃をかわしながら、路地を逃げ続けるだけに留まっている。


 しかし、二人のその健闘も長くは続かなかった。

 サイカは屋根伝いに逃げ続けていたものの、何とその家の並びが終わってしまったのだ!


(げげっ、これはまずい!)


 背後を振り返ってみれば、自分を追い掛けて来る多数の追っ手の姿が目に入った。

 仕方が無いので、ここは覚悟を決めつつその家の下に見えるベランダに向かって飛び降りる。

 更にベランダの手すりに手を掛け、下のベランダの手すりに向かってまっすぐ飛び降りる。

 続いて壁を使って上手く地上に着地したまでは良かったものの、そこには既に追っ手の一部が待ち構えていた。


「え……きゃあああっ!?」


 何か得体の知れない黒い物体を腹の部分に当てられたサイカは、身体中が痺れる強い衝撃を覚えてそのまま意識を手放した。


 そして広い路地を追っ手の増援に塞がれて、仕方無く細い路地に逃げ込んだソランジュに向かって、見知らぬ乗り物に乗った銀髪の男が乗り物ごと体当たりをして来たのである!


「ぶへっ!?」

「今だ、捕まえろおおおおっ!!」


 冒険者時代に馬に体当たりされた昔の記憶を思い出させるかの様な強い衝撃を受けつつ、ゴロゴロと地面を転がったソランジュを一斉に追っ手達が捕まえるべく飛び掛かる。

 その光景を見て、彼女に対してホバーボードを出会い頭にぶつける事に成功した銀髪の男は、その逆立てている銀髪をかき上げながら忌々しそうに吐き捨てる。


「ちっ……手間掛けさせんじゃねえよ。これからもっと手間の掛かる事をしなきゃならねえんだからよぉ……」


 そう、この連中を捕らえた所でまだ終わりでは無い。

 本当に手間が掛かるのはこれからなのだが、この計画が成功すればカシュラーゼが世界の覇権を握る事が出来るのもそう遠くは無い未来である。

 そして自分がソランジュに体当たりした乗り物の方を振り返り、銀髪の男はボソッと呟いた。


「まだまだこいつには活躍して貰わないといけないな……このホバーボードって奴にはよぉ……」


 楕円形状の金属製の板の前側に太い金属製のパイプを溶接して取り付け、更にそのパイプの先端にはホバーボードの向きを変える為に必要なもう一本のパイプを溶接した、魔力で宙に浮いて移動が可能な乗り物……それがこのホバーボードである。

 表のカシュラーゼでは二本の短剣を駆使して戦う自分も、裏の世界ではこの魔術技術の結晶を駆使して戦うのだと改めて認識しながら、気絶したまま連行されて行ったソランジュの後を追い掛けるべく乗って来たそのホバーボードを再び発進させた。

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