222.カシュラーゼの表の顔
今のメンバーは丁度六人居るので、ここは二人ずつに分かれた方が良いだろうと判断したレウスはメンバーの振り分けを行う。
「じゃあ面識の深い者同士で行くとしよう。アレットとエルザは西に向かう。俺とサィードは北に向かって、ソランジュとサイカは東を捜してくれ」
「分かったわ」
「それじゃ一時間程でまたこの建物の前に集まって、何か気になる物を見つけたりしたら全て報告する様に」
パーティーのリーダーらしくスパッとメンバーの振り分けをしたレウスだったが、その中でうーんと考え込んでいるサィードの姿があった。
レウスはそんな彼が気になったので声を掛けてみる。
「どうした、サィード?」
「いや……あのな、俺はこの国に来るのは初めてなんだが、ここって本当にカシュラーゼなのか?」
「えっ?」
「おかしいんだよ。俺が事前に聞いていたカシュラーゼの街並みとはまるで別物なんだ。少なくともあんな大きな建物があったり、こんなにしっかりと舗装された地面があったりなんて聞いた事がねえんだよ」
「それ……誰からの話?」
「ああ、傭兵仲間からの情報さ」
サィードが言うには、傭兵仲間が見たカシュラーゼの町や村の風景は他の国々と大して変わらないらしく、こんなに未知のテクノロジーが発達している国では無い筈だと述べる。
それを横で聞いていたアレットも、うんうんと納得した表情になった。
「確かにそう言われてみるとそうね。私も魔術師の知り合いに聞いた事があるけど、魔術関係の書物とか今まで聞いた事もない魔術が当たり前に使われていたりとか、魔術の学校だってそれこそかなり大きなものがあるとかって国らしいわよ。でもこんなに魔術の技術が発達しているなんて信じられないわ」
王都のエルヴァンを始めとする街並みの情報や、アレットの知り合いの魔術師やサィードの傭兵仲間の情報とはまるで異なっているこの風景からすると、もしかしたら先程の転送陣はカシュラーゼには繋がっていなかったのかも知れない。
しかし、そこに異論を唱えるのはサイカだ。
「ちょっと待ってよ。私とギルベルト騎士団長が古い方のウェイスの町で傭兵集団と戦った後に聞き出した情報だと、カシュラーゼに雇われた傭兵達があのトンネルを通ってウェイスの町まで来たって話だったわよ」
「それもそうか……その貴様の情報が正しいとなると、やはりここはカシュラーゼの様だな」
「とにかく調べてみりゃー分かんじゃねえの? 何時までもここで俺達があーだこーだ言ってたって埒が明かねえだろーし」
「確かに貴様の言い分も一理あるな。それじゃあ手分けして情報収集をしてみよう」
サィードとエルザのそのセリフを切っ掛けにして、三方向に分かれて探索を開始し始める六人。
まずソランジュとサイカが向かった東方向では、カシュラーゼ特有の様々な最先端システムを当たり前の様に使っている人々に出会う事が出来た。
立て看板には確かに「魔術王国カシュラーゼの宿屋この先。サービス中」と描かれているので、やはりここはカシュラーゼで間違い無いらしい。
元々ソルイール帝国の宿屋で働いていたサイカにとっては、同業者としてカシュラーゼの宿屋がどんな場所なのかが気になるので、そこに向かってみる。
しかし、その向かった宿屋の客や店員に気になる単語を使って自分達を表現されたのだ。
「へーえ、もしかしてあんた達は上から来たのかい?」
「上?」
「そうそう、上だよ。上の世界からお客さんが来るなんてこりゃまた珍しいなあ。どう、一杯やって行かない?」
宿屋の店主や客にそう誘われたものの、それよりもソランジュとサイカは「上」や「上の世界」と言う単語が気になって仕方が無かった。
「いや、今は止めておきます。それよりもあのー、上の世界って何なんですか?」
「あー、それはねえ……この王都エルヴァンは地下にあるのよ。でも上の世界にも王都のエルヴァンってあって、そこが表のカシュラーゼって事なんだな。本当のカシュラーゼはこっちなんだよ」
「え……ちょっと何言ってるか分からないのだが……」
表だの裏だのと訳の分からない話が出て来た事で混乱するソランジュとサイカ。
しかし、その単語を噛み砕いて分析すると何を言っているのかがちょっとずつ分かって来た。
「もしかすると、地上にもカシュラーゼの王都エルヴァンがあると今聞いたのだが、それってもしかして表向きのカシュラーゼの姿だと言いたいんですか?」
「そうよ。このカシュラーゼの住民ならみんな知っていて当然よ。表向きのカシュラーゼから来たんなら何かのツテがあるみたいだけど、裏の世界の事は口外してはいけない決まりになっているのよ」
「えっ、そりゃまた何で?」
「このカシュラーゼって国は色々と他国に対してやばい事をしているからな。ドラゴンの開発をしたりとかさ。そんな研究が世界に向けて流れたりしたらとんでもない事になるし、この国に攻め込まれたって文句は言えねえ。だから裏の世界の住民達は行動を厳しく監視されているんだよ」