215.気になる設備
しかし、今の話をしていてふとシャロットが思い出した事がもう一つあった。
そして、それこそがカシュラーゼに乗り込む為の重要なカギとなる。
「……そうだ、一つ大切な事を言い忘れる所だった。あの旧いウェイスの町で捕らえた傭兵から聞き出した話なんだが、魔術防壁が展開されている場所に不思議な設備が見つかったらしい」
「不思議な設備ですか?」
「ああ。儂が聞いた話によれば、これ位の縦長の設備で、こんな四角い部分があって、その設備のすぐ横に魔術防壁が展開されていたんだ」
「何だそれ、おもっくそ怪しいじゃないっすか」
「陛下、その設備はまだあのウェイスの町にあるのですか?」
敬語にすらなっているのか怪しいサィードのセリフはこの際黙認すると決めたギルベルトが、その設備の行方について問う。
すると、シャロットは即座に顔を縦に振った。
「勿論だ。地中深くに埋められている様で動かせていないのだからな。だからこそ、これが魔術防壁と何かの関係があるのは間違い無いと思う」
「ならまずはそこまで行って現地確認をして、もしそのまま魔術防壁を消す事が出来たらカシュラーゼに入ろう」
「分かったわ」
レウスの一言でこれからの行動が決まったものの、ギルベルトは事前に全員に通達していた通りリーフォセリアに戻らなければならないので、メンバー達に着いて行く事は出来ない。
代わりの戦力と言ってはなんだが、成り行き上で今度は彼と入れ違いにサィードが着いて来る事となった。
多少目的は異なるものの、ひとまず目指す目的地は一緒なのが救いではある。
ゴーシュとファラリアの二人はギルベルトに任せるとして、自分達は自分達の出来る事をするしか無いのだ。
「じゃあ私達は家に帰るけど、貴方がカシュラーゼの事をちゃんと調べて戻って来るのを待っているからね」
「ああ。そっちも道中気を付けてな」
「ギルベルト団長も一緒に来て下さるから問題無い。むしろ私達はカシュラーゼに出向くお前達が心配だ」
「大丈夫だ。俺には父さんから習った槍の技術があるし、これだけ旅の仲間も出来たしな」
「それもそうか。それじゃ、何かあったら連絡を寄越せ。私達も何かあれば連絡を入れる」
「それじゃおめー等、カシュラーゼに負けんじゃねえぞ!!」
イーディクト帝国が用意してくれると言う転送装置で一気にリーフォセリアまで帰ると言っている三人に別れを告げ、シャロットの命によって六人はカシュラーゼへ向かうべく、まずは旧い方のウェイスの町まで転送装置を使って移動する。
だが今回はそこからが問題であり、前回は町の中にあった通話スポットから新しい方のウェイスの町に連絡を入れ、長いロープを使って何とか上がる事に成功した。
しかし今回は逆に降りて行かなければならないので、まずはそこまでの道を造らなければならないとレウス達は考えていた。
だがそれはシャロットの方でも把握していたらしく、既にあり合わせの道具と材料を使って階段を造っているらしい。
実際にその現場に辿り着いた六人が見たものは、埋め立てられている場所に大穴を開けて何とかそこからハシゴや階段を造るべく奮闘している騎士団員と魔術師達の姿だった。
旧い町ではあるが、掘り起こして建物や何やらをキチンと直せばまだまだ町として使えるらしいし、この作業が終われば今のウェイスの町といずれドッキングさせる形で開発を進めて、行く行くは一つのウェイスの町として機能させる予定なのだと言う。
「でもこれ、完成までにはかなり時間が掛かりそうね」
「そうだな。この高低差を考えると、建物の十階分はありそうだからなあ」
かなり深い位置に埋められたらしく、まずは地上と地下を自由に行き来出来る様にする為の通路なり大きな階段なりを造るのが当面の目標なのだと聞いたレウス達。
だが、自分達はその作業に参加するよりも重要な事をこれからやらなければならないので、協力は出来ないと断った上でハシゴを使って地下に降りる。
「さあて……いよいよだな」
「それじゃまずはエルザ、そのトンネルまで案内してくれ」
「分かった」
いよいよ敵の本拠地に潜入と言う事で、嫌でも気合いが入るレウス達一行。
実際にそのトンネルを目の前にして佇めば、薄暗いトンネルの中に手作りで取り付けられた魔力をエネルギーとする照明が取り付けられているのが分かる。
だがこの先には何があるか全員分からない。
あのカシュラーゼの事だから、魔術防壁以外にも何か絶対に侵入者対策を施しているに違いないだろう。
それにシャロットからの報告にもあった、気になる設備とは一体何なのか?
まずはそれを探さないといけないと思いつつ、レウスは後ろの五人を振り返った。
「皆、準備は良いな?」
「ええ、勿論よ」
「今更ここまで来たら引き返せないだろう」
「そうだな。私もサイカも黙ってお主に着いて行くだけだ」
「今までだって何とかなったじゃない。大丈夫よ」
「まあ、油断は禁物だがな」
「分かった。それじゃ行くぞ」
この世界に様々な混乱をもたらしている国に向かい、一行は地下のトンネル内部へと足を踏み入れた。