214.潜入作戦
潜入作戦は早くも行き詰まってしまった様だ。
地上からの正面突破はカシュラーゼのセキュリティの関係上かなり難しいと考えているので、偶然見つけたあのトンネルを通って地下からの潜入を試みていた一行。
しかし、そのトンネルの先にも魔術防壁を展開されているとなると何処からどうやって潜入すれば良いのかが分からない。
「隣国だからこそ分かるのだが、カシュラーゼは自国の領土に踏み入られるのを何よりも嫌うのでな。儂もそのヴァーンイレス王国の侵攻作戦の時に色々と物資を提供していたのだが、その時にこんな報告を受けたんだ。カシュラーゼの連中とは国境付近でしかやり取りをさせて貰えず、自国への立ち入りは例え同盟国だったとしても許されていないと」
その当時の事を振り返って遠い目をするシャロットに対し、エルザは少し考えこんでからこう切り出した。
「確か、あの時ウェイスの町で捕まえた傭兵達が居ましたよね。その傭兵達から何か話は聞いていないのですか?」
「話……その魔術防壁の事か?」
「ええ。だってその傭兵達がそのトンネルを通ってやって来たんですよね? だったらその連中に話を聞いてみるのが一番手っ取り早いんじゃないですか?」
しかし、シャロットは首を横に振った。
「いいや、それがな……確かにカシュラーゼからやって来たと言うのは聞いたんだ。奴等があのウェイスの町を調べていた記録も廃墟となっていた建物の至る所から発見されている。しかし、魔術防壁の話については頑なに口を割らないらしい。と言うか、その辺りは機密事項だからあの連中も知らないらしいんだ」
「じゃあどうやってその傭兵集団はカシュラーゼに帰っているんですか?」
「確か、帰る時は地下から携帯用の通信道具を使ってカシュラーゼに連絡を入れて魔術防壁を解除して貰ってから帰っていたらしい。だからカシュラーゼに連絡を入れないと何とかしてくれないだろうな」
「そこまで徹底しているって、よっぽど用心深いんですね」
そうなるとどうしたものか……とエルザは頭を悩ませる。
その一方で、アレットが話を聞いていて疑問に思った事を口に出した。
「でも、さっきの傭兵の話とかを聞いているとちょっと変ですよね」
「何がだ?」
「だってほら、あの赤毛の二人組はカシュラーゼで待っているって言っていたんですよ。確かあの二人だって傭兵をやっていた筈ですからね。でもカシュラーゼは情報を盗み出されたって事で傭兵を毛嫌いしているんだったら、あの二人は何でカシュラーゼで待っているって言っていたんですかね?」
「そこまでは分からないな。儂は実際にその赤毛の二人と出会った訳では無いから。ただ考えられるのはさっきの話でも出て来た様に、カシュラーゼの自国の傭兵だからこそ世界中で行動してからカシュラーゼに戻る事が出来たんじゃないのか?」
「そうなんですかね……?」
何だか余り納得の行っていない様子のアレットに、レウスから声が掛かる。
「俺はシャロット陛下の予想で間違い無いと思っている」
「そう?」
「そうそう。辻褄は合っている訳だからな。だが俺が引っ掛かっているのはそこじゃないんだ。ほら……ここに来て色々あったからすっかり忘れていたけれど、セバクターの奴があれだけの仲間を集めて何かをしようとしているって事が気掛かりなんだ」
「あ……ああ、セバクターねぇ……」
古代穴の地下で発見されたウェイスの町、カシュラーゼに繋がっているトンネルとそこから出入りしている傭兵達、それに転送陣の先で出会った黒髪の魔術師とサィードの因縁、更には突然現れた傭兵コラードの必死に自分達の仲間になろうとしているその行動の不可解さ等、セバクターの事を何度も忘れてしまう様な大きな出会いが何度もあったからこそ、こうして引っ掛かりをようやく吐き出したレウス。
「確かあの男は、お主とギルベルト団長が新しい方のウェイスの町で出会ったんだったな?」
「そうだ。俺とギルベルトが夜の町で、あのセバクターが大勢の部下と共に何か色々と材料とか道具とかを集めていたのを目撃してそこに踏み込んだんだが、すんでの所で逃げられてしまった。陛下、それについての情報って何か入って来ていませんか?」
「情報……ああ、それなら幾らか入って来ているよ。あのウェイスの町ではその逃げてしまった連中についての足取りについては、残念ながら行方を掴めていない。しかしあの広場に残されていた道具とか材料とかについては、南の方にあるエスヴァリーク帝国から色々と調達されていたらしい」
「エスヴァリークから……?」
エスヴァリークと言えば、カシュラーゼの更に南側にあるかなり大きな軍事国家である。
そこからあれだけの道具や材料を集めて何かをしようとしていたとは、セバクターとエスヴァリーク帝国の間には何らかの関係があるのではないか?
少なくともそう思わざるを得ない報告内容だが、今はどうやってカシュラーゼに乗り込むかが問題なのでひとまずこの話は置いておく事にした。
幾らセキュリティが強固だと言っても、探せばきっと何処かに抜け道はある筈だと信じて。