212.更なる噂
「ちょっと、言い過ぎよサィード」
「いや、君の言っている事は事実だから何も反論出来んよ。だがその魔術師を追い掛けているならば、君がカシュラーゼに入れる様にこっちも協力は惜しまないつもりだ」
「いーや、そんな協力なんか要りません。まだカシュラーゼと繋がっているのは知っていますからね」
「おいサィード、良い加減にしろ」
サイカとエルザにたしなめられて一応それ以上言うのは止めたもの、未だに不機嫌そうな表情は隠さないサィード。
その不敬罪待った無しの彼に代わってレウスが謝る。
「申し訳ございません、陛下」
「いいや、謝る必要は無い。さっきも言ったが彼の言っている事は全て事実だ。むしろ謝らなければならないのは儂等の方なんだよ。レウス君。カシュラーゼの一方的な侵略戦争に加担して、彼の家族や友人を犠牲にしたのは事実だからな」
だからせめてものお詫びとして、カシュラーゼが何かを企んでいるのを阻止したいと言うその気持ちは汲み取りたいし協力したい。
その事をシャロットが伝えると、サィードは妙な事を言い出した。
「じゃあ、俺達が昨日の夜に呼び出されて実技試験をやったあのコラードって傭兵の背後関係を徹底的に洗って下さい」
「コラードを?」
「え……それって関係無くない?」
「いいや。それが関係あるんだよアレット。あいつ関係ではちょくちょく気になる話が耳に入って来るんだよ」
「気になる話って?」
何故突然サィードがコラードの話をし出したのか疑問に思う他のメンバーだが、今までここまで旅を続けて来た中でコラードに対する更なる噂を聞いたらしい。
「あいつは「二枚舌のコラード」ってあだ名がついている位に厄介な野郎でな。ちょくちょく気になる話が耳に入って来ているってなぁそれ関係なんだよ。色々苦労して来たせいか自分の利益にならねえ奴はすぐに切り捨てるタイプだとか、その気になれば平気で人を裏切って戦力のでかい方につくとか、とにかく有利な方につくのが上手いタイプなんだ」
そこまで言ったコラードは、シャロットを除くメンバー達に対してこんな事を聞いてみた。
「あいつから呼び出しを受けて、今回こうやって実技試験をやった訳だけどよ。俺があいつへの実技試験に対して言った言葉を覚えているか?」
「言った言葉?」
「ああ。始める前にこうした方が良いって俺、言った筈だぜ?」
「ええ~……何だっけ?」
そもそも実技試験の打ち合わせで頭が一杯一杯だった自分達は、もしかしたらそのサィードの言葉を聞き流してしまっていたかも知れない、と考えるアレット。
だが、その中でゴーシュがそれを思い出して答える。
「あっ、確か君……あの傭兵を殺すつもりでやれって言ってなかったか?」
「そうそう、それだよそれ。惜しかったなぁ~、もうちょいであの男を殺せたんだけどな」
「ねえちょっと、それって変じゃない? 何で実技試験なのに殺さなきゃいけないのよ? そもそも殺す気でやるのってちょっとやり過ぎじゃないかと思うんだけど……」
サイカの言い分も確かに一理あると考えるサィードだが、これにもちゃんと彼なりの考えがあっての話らしい。
「まー、確かにお前達はあの男の事を知らねえから分からねえだろーな。けど俺には分かる。あいつをこのまま放っておいたら、あいつは何処かで敵としてまた俺達の目の前に現れるってな」
「君はそこまで危機感を覚えているのか?」
「そうですよ陛下。多分貴方に渡した情報の何割かは嘘かも知れませんね。傭兵仲間の間でも、あいつは腕はあるけど性格があんまり良くないって噂ですから。だから背後関係を徹底的に洗って下さいってお願いしてんですよ、こっちはね」
「そんなにか?」
「ええ。でなきゃこんな事は言いませんって」
そこまで言ったサィードは一度、城のエントランスから続く階段の上を見上げて、再びシャロットを見て口を開く。
「あの男はまだ城に居るんですか?」
「いや、もう帰ったが……」
「そうですか……それでしたら、俺達が出発してすぐに調査を始めて下さい。この一行の仲間に加わりたいってあれだけ懇願した理由、恐らく他にもある筈ですから」
「他にもって?」
「さぁ……そこまでは分かりませんね。けど俺は忠告しておきます。あいつは何かしらの意図があって、俺達に無理を言って実技試験をやらせた。でも結果は不合格。かと言ってこのままあいつが不合格のまま引き下がったとしても、絶対何かを企んでまた接近して来る様な気がします。傭兵としての仕事だったら他にも沢山ある筈なのに、あいつがあそこまで頼み込んで実技試験をやらせるってのは何か理由があっての事でしょうね」
そこまで言われると、シャロットもうーんと考え込んでしまう。
「そう言われてみれば確かに不自然だな。分かった。それではこちらで調査を進める」
「いや……イーディクトだけじゃなくてリーフォセリアにもお願いしたい」
「俺達にも?」
まさか自分達にまで調査を頼んで来るとは思っていなかったギルベルトは、いきなり話を振られて困惑する。
しかし、サィードの口からは更に困惑するセリフが出て来た。
「実は俺、傭兵仲間からちょっと前に聞いた事があるんだ。あの二枚舌野郎がカシュラーゼで何かをやろうとしているって」