210.実技試験最後のバトル
「はぁ、はぁ、はぁ……くっ!!」
最後に倒したあのサイカとソランジュの二人から次の階段への場所を聞き出したコラードは、その階段を上って三階に向かう。
しかし結構ボディや顔に傷を負ってしまった為、まだ三階だと言うのに早くも身体が悲鳴を上げている。
(くっ……流石にあの人数相手じゃ結構入れられたか。それにまだ上には敵が居る筈だが……ちょ、ちょっと一休み……)
敵が来ない事を願いつつ、階段の踊り場で座り込んで身体を休めるコラード。
体力回復と共に頭も休める事で冷静さを取り戻して来たコラードは、この実技試験の違和感を考えてみる。
(やっぱり試験のレベルじゃない。なりふり構わず殺しに来ている向こうの連中も……明らかに手練れ揃いだ)
ボスクラスの強さは無いにしろ、やはりイーディクト帝国騎士団員達や近頃名前を上げている冒険者達が敵として立ちはだかる事実。
そのレベルの敵が大勢集まって脅威となり、こうしてコラードを迎え撃っているのだ。
それに敵として配備されている者の中には一般人も居ると事前にシャロットから聞いていたが、コラードにはとてもそうは思えない。
(どう考えてもただの実技試験じゃないだろう。もしかしたら本当は試験に見せかけて私を殺そうとしている風にしか……)
これは完全なる誤解なのだが、その心の声を知る者は居ない。
そこまでコラードが考えた時、上の階からバタバタと誰かが走って来る音が聞こえて来る。
それも一人では無く、恐らく三~四人は居ると思われる複数の足音だ。
更にその足音に混じって叫び声が聞こえて来る。
「ちょ、ちょっとお!! 離してよお!!」
(この声……!?)
事前の試験の内容説明の時に、その声に凄く聞き覚えがあるコラードは、休めていた身体を弾かせる勢いで立ち上がって一目散に階段の上へと向かう。
その先にある廊下に出てみれば、そこでは何と数人の男に囲まれているファラリアの姿が。
身体中にロープを巻きつけられた痕跡がある事から、見るからに監禁されていたのが分かる。
「おい、そこまでだ……その人質を解放しろ!!」
「あっ、助けてえ!!」
ファラリアの叫び声を聞き、彼女を取り囲んでいた黒髪の中年の男ゴーシュ、金髪の若い男レウス、そして銀髪の体格の良い男サィードが一斉にコラードの方を見る。
コラードはこれも実技試験の一環だと思い、実戦を想定して敵に大声でそう命じた。
だが恐ろしい形相のコラードを見ても全く動じない上に鼻であざ笑う、サィードとか言う名前の人間。
「へっ……ここまで辿り着くとはなかなかやるじゃねえかよ。危なかったぜ……この女は、自分を縛っていたロープを上手く解いて俺の居る部屋から逃げ出したけど、俺達が三階でお前を待ち伏せていて良かったぜ。上からこの三階に下りて来たこの女を、逃げられる前にこうして捕まえられたんだからよぉ?」
するとその時、ニヤニヤといやらしい笑みを浮かべるサィードの後ろの階段から、ゆったりとした足取りでボスのギルベルトが姿を現わす。
「ロープを解かれた時は焦っちまったが、これだけの人数差にはやはり敵わなかったみてーだな。ここに居る俺の部下は優秀なんだよ。……さってと、これからこの女の様にお前も捕まえてやるぜ」
ハルバードを軽快にグルグルと回しつつ、コラードの出方を窺うギルベルト。
しかしコラードもやっとボスの所まで来て、背中を向けて逃げ出す事なんて出来ない。
「もう一度言うぞ。さっさとその人質を放せ」
「断る。じゃあおめー等、女は俺に任せてこの男の相手を頼むぞ」
再度ロープでグルグル巻きに縛られたファラリアがギルベルトに引き渡され、コラードは自分に向かって来る三人の部下とバトルスタート。
最初に槍を構えたあのゴーシュが斬り掛かって来たが、コラードはその斬撃を転がって回避。
それを見た他の二人もコラードに向かって来た。
(くそ、なかなか多いな!!)
レウスが蹴り掛かって来たので、コラードは彼のキックを自分の左足の裏で蹴ってブロック。そのままの流れで続けて左足を使って、レウスの胃袋を確実にキック。
レウスが倒れた所で、次に踊り掛かって来たサィードの腕を取って、突っ込んで来た勢いをそのまま後ろに逃がして投げ飛ばすコラード。
だがコラードがサィードを投げ飛ばした隙を狙って、ゴーシュがコラードの後頭部に良いハイキックを放つ。
「ぐぅ!?」
急所の塊である頭に不意打ちを食らい、そこに今度はさっきキックをブロックしたレウスの左ストレートがコラードの顔面へ。
続いて投げ飛ばしたサィードが立ち上がって来て、今度は助走をつけた勢いのある飛び膝蹴りをコラードの胸へ。
最後に、最初のあの斬撃をコラードに避けられたゴーシュが一旦槍から片手を離す。
その空いた手を握り、サィードの膝蹴りでよろけたコラードの頭に重いパンチを思いっ切り食らわせれば、そのショックでコラードは無様に地面に倒れてしまった。。
「ぐへぇ!」
「あっ、ちょっと!?」
コラードの様子を見たファラリアの叫び声が三階の廊下に響くものの、彼女を再び捕らえたギルベルトはそれを気にせずに、倒れているコラードのそばにゆったりと歩み寄る。
「おめーもこれだけの人数差にはやはり敵わねーだろう。幾らおめーが強いと言っても限度があるんだ。わざわざこうして付き合ってやったのに……惜しかったな、不合格だぜ!!」
そう言いながら繰り出されたギルベルトのブーツの足の裏が、コラードが意識を失う前に目の前に見た最後の光景だった。
五章 完