208.戦うコラード
ロープを何とか解く為にファラリアが奮闘し始めた頃、コラードは一階から二階に続く階段の踊り場からエルザを階段の下に蹴り落としていた。
エルザは両手に小振りなバトルアックスを装備して襲い掛かって来ていた。
だが高低差のある場所ならある程度リーチの差を無くす事が出来るので、まずは彼女を階段まで誘い込む。
そこで階段の下から上に向かって突き出されたそのエルザのバトルアックスを避けてから、コラードは全力で階段の下に蹴り落とした。
(かなり本格的だ……だが少しやりすぎじゃないのか!?)
いよいよ、これが実技とは思えない程のレベルだと感じているコラード。
しかし最初のあのワシ獣人を始めとして、明らかに殺しに掛かって来ている者も結構な数が居るこの状況では、実技試験だからこそ相手も本気で来ているのだろうと解釈する。
こうなったら、あのギルベルトとか言うリーフォセリアの騎士団長に出会うまでくたばる訳には行かないコラードは、一階を何とか切り抜けて階段で二階へ。
今まで戦っていたその一階では、およそ十人位しか敵が出て来なかった。
廊下と言う横に狭いスペースで、最初のワシ獣人と同じ様に廊下のドアに敵の腕や足を挟み込んで撃退したり、花が生けられているインテリアの花瓶を武器代わりに投げつけてダメージを負わせたり、背負い投げで壁に向かって背中から投げつけてから顔を踏み潰して昏倒させたりと、壁やドアや家具を存分に活かした戦法で切り抜けていた。
階段で遭遇したエルザの様に、その階段の高低差を活かして蹴り落とすのも有効な戦い方である。
しかし、二階では途中からどうやらそうも行かないらしい場所があった。
ここで寝泊まりしている騎士団員や魔術師達専用の食堂があったのだ。
丸いテーブルが等間隔に並べられ、それぞれ二つの椅子がセットされている。
その食堂にはここでコラードを仕留めるべく、ソランジュとサイカ率いる多数の人員がそれぞれ武器を手に待ち構えていた。
さっきの階段からこの食堂までは一本道なので引き返せないし、引き返した所でこの食堂で待ち構えていた従業員が追いかけて来るのはコラードにも簡単にイメージ出来る。
しかも三階に続く階段はこの食堂の向こう側にあると言う、何とも不便な内部設計だ。
「ここは通さないわよ!!」
「全員かかれーっ!!」
サイカとソランジュの声が合図となり、コラードの姿を見つけた敵役の騎士団員と魔術師達が一斉に襲い掛かって来た。
それに対して、ロングバトルアックスを持っているコラードはこの食堂の構造を活かした戦い方に持ち込む。
テーブルが多いので大きく動こうとしてもなかなか動けないこの場所では、武器を持っている相手が存分に武器を振るえないと言う事でもある。
そしてそれは自分も同じなので、ここは愛用の武器であるロングバトルアックスを背中に封印し、素手の体術で迎撃する。
テーブルの上に飛び乗って飛び掛かって来る敵の一人を、そのまま受けて後ろのテーブルへと投げて叩き付ける。
更に椅子を投げつけて武器代わりにし、椅子でブロックして防具代わりにも出来る。
武器を振りかざして自分に向かって来る敵には、同じ様に椅子を蹴り飛ばして転ばせる。
また、後ろに椅子があればそれに座った勢いのまま後ろに転がって攻撃を回避したりする。
これ等の戦い方は全て我流戦法ではあるものの、伊達にベテランの冒険者として長くやっている訳では無い。
全ては実戦経験の長さで決まると考えているコラードは、騎士団長のあのトラよりは実戦経験は少ないと自分では思っている。
しかし、他の若者達には負けたくない。自分の腕だけで食べて来ている自負がある以上、この激しい実技試験も必ず突破出来ると信じた上で戦いを繰り広げる。
(私はその実績から潜入系統の仕事ばかりしていると思われがちだが、他にも色々やって来たんだ。それをこの実技試験の中で証明すれば良いだけの話だからな!)
最近はなかなか傭兵としての仕事にありつけていなかった事もあり、自分の食い扶持を稼ぐ為には何としても合格しなければならないので、その気持ちを表すかの様に一人、また一人と敵を確実に倒して進むコラード。
だが相手の攻撃も、ただ武器を振り回して来たり魔術を使うだけでは無い。
ゴミとして処分予定のワインの空き瓶を投げつけて来たり、鍋の中で沸騰している状態の熱湯をその鍋ごとコラードにぶちまけて来る者が居る。
更にテーブルをコラードに押し付けて壁とサンドさせようとする者も居るので、相手も相手で上手い具合に食堂の色々な物を使ってコラードを通すまいとする。
「くうっ!?」
空き瓶が自分の横の壁に当たり、飛び散った破片で少し頬を切ってしまったコラード。
だがそんな傷に構っていられない。
仕事の試験に合格する為にはこの状況を切り抜けていかなければならないので、素早くテーブルの下に潜り込んだコラードは目の前に見えた敵の足を引っ張って仰向けに引き倒し、上手く股間を蹴り飛ばして悶絶させるのだった。
確実に仕留めるのなら、こうして相手の急所を狙うのがセオリーなのだから。