207.やるだけやってやる!!
騎士団の宿舎の正面玄関は両開きの木製のドアになっているので、コラードはその木製のドアに走って勢い良く片側のドアを開け、そして閉める。
ただし閉めるタイミングは、そのワシ獣人のナイフを握っている右手が丁度挟まる時だ。
彼をギリギリまで引き付けて、突き出されたワシ獣人の右手がドアに滑り込むタイミングでもう片側のドアとの間に勢い良く挟む。
「ふんぬ!!」
「ぎゃはあああっ!?」
二の腕の真ん中辺りを思いっ切り挟まれたワシ獣人は、余りの痛さにナイフを落としてしまう。
それを確認したコラードはドアの向こうに居るワシ獣人の身体目掛けて、ドアを思いっ切り押してぶつける。
「ぐえ!?」
顔面にクリーンヒットしたドアのせいで、翼をはためかせるのを止めざるを得なくなったワシ獣人は地面に落ちる。
一方でドアをそのまま押し開けたコラードは、そのワシ獣人の顔面に足の甲でキックを入れてノックアウトさせてからようやく宿舎の中へ。
(確かギルベルトの部屋は最上階の四階だったな……。だったらとにかく四階に直行だ!!)
四階までしか階層が無いだけまだマシであるが、その分この騎士団の宿舎は横になかなか広いので上に続く階段を探すのは良い。
としても、そこに至るまでにまだ沢山の敵を相手にしなければならないとなるとかなり骨が折れそうである。
もはやこれは潜入の実技試験と言うよりは、自分の戦闘能力を見て貰う為の実技試験になっているよな……と少し首を傾げつつ鼻の汗を指で拭い、力強い足取りでコラードは廊下を進む。
そんな廊下の両脇に備え付けられている木製のドアが一つ開き、そこから一人の敵がゆっくりとした足取りで出て来た。
「ふん!!」
「ぐほ!?」
目の前に立ち塞がろうとした人間の男の敵に、まずは前蹴りで先制攻撃。怯んだ男にもう一発前蹴りを腹にかまして再度怯ませ、飛び膝蹴りでノックアウトさせる。
その男をノックアウトさせた音が響いたらしく、廊下から続くドアから多数の敵が出て来たので、コラードは一旦踵を返して別の廊下へと走り出した。
◇
「……どうやら始まったみたいだな」
本格さを出す為に椅子にロープで縛り付けられているファラリア。
この状況はハッキリ言って、ホルガーの復讐で囚われてサィードに助けられた時のデジャヴなのだが、コラードが必ず助けに来てくれると信じて待っているしか無い。
それでも彼女は、ギルベルトがまるで挑発するかの様に言ったセリフが気になっていた。
「ねぇ、私が上手く逃げ出せそうなら逃げ出しても良いんでしょ?」
「ああ……そうだな。だが俺のこの部屋の周りにはレウスやコラード、それからゴーシュだって居るからそうそう負けはしないと思うがな」
まさかこんな、自分が人質役として起用される展開になるとは思ってもいなかった。
だがレウスやサィード、それから冒険者として活躍した自分の夫のゴーシュを側近として配置したとなると、コラード一人ではかなりきついだろう。
それに脱出の実地訓練として、自分もこのロープを解いて逃げられるのであれば逃げたい。
ホルガーに囚われた時は幸運にもサィードに助け出されたのだが、もしかしたらこの先でまたこう言うシチュエーションにならないとも限らない。
(でも……私は縄抜けなんてやった事無いのよね)
関節を外すとかしないとロープから抜けるのは不可能だろうと考えるが、今までファラリアはそんな荒業をした事が無いので無理だ。
(ええと……手首が椅子の背もたれの後ろで縛られてて、身体も腹と胸の部分がロープを背もたれに回される状態で縛り付けられてるでしょ? そして太ももが椅子の座面に縛り付けられてる上に、両足首も椅子の脚に縛られてて……うん、無理ね)
念には念を入れてガチガチに固定され、椅子と一体化しているこの状況だと脱出は見るからに不可能だ。
ロープを何とかギルベルトに気付かれずに解ければ良いのだが、暴れて無理に外そうとすれば間違い無くバレてしまう。
周りを見渡してもそうそう都合良くロープが切れそうな物が以前の奴隷船の様に落ちている訳でも無く、今は一旦諦めるしか無い。
(でも……チャンスが来たら必ず脱出してみせるわ!!)
ギルベルトはその手に油断無くハルバードを握って、何時コラードが来ても良い様に待ち構えている。
ゴーシュの影響で、ファラリアはギルベルトがハルバードを使う時のその戦い方に興味はあるのだが、今はそれよりもこの状況から自分が抜け出せる様に頭を回転させるのが先である。
考えてみれば、あのホルガー率いる集団からゴーシュと共に逃げ出して今こうして生きているからこそ、今回もきっと上手く行く筈だとポジティブ思考を捨てないファラリア。
(少しずつだけど……やれるかしら? いや……やらないとね!!)
ロープを解く為に、身体を最大限によじって擦り切れないかどうかをファラリアはチャレンジする。
色々頭を働かせて考えてもこれ位しか脱出の方法が思いつかなかったのだが、やらないよりはマシだろう。
首から上しか満足に動かせないこの状況で、自由を得る為にファラリアは行動し始めた。