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206.風呂上がりのバトル

「全く……お風呂に入ったばっかりなのに何で私達まで……」

「本当だな」


 イライラを隠し切れないアレットやエルザ達を引き連れて、レウスはセンレイブ城までやって来た。

 流石にシャロットにあそこまで言われたら断り切れないのが、過去の勇者と言えども今の皇帝相手の悲しいさがである。

 そのイライラを背負ったままのメンバーが再びセンレイブ城に集まったのだが、何やら様子がおかしい。

 至る所で武装した騎士団員や魔術師達を見かけるので、これは何かただ事では無いと判断して気を引き締めるレウス達一行の元に、シャロットの方から申し訳無さそうな態度でやって来た。


「本当に申し訳無い。かなり腹も立つだろうが、これが終われば君達は本当に自由だ」

「自由って……ちょっと言葉が違う様な気もしますがね。それで私達を呼び出した理由は確か実技試験がどうのとレウス達から聞いていますが、この状況は何なのです?」


 サイカがそう言いながら、周りでバタバタしている武装した騎士団員や魔術師達を見てそう聞くと、シャロットはとんでもない事を言い出した。


「これは実技試験の準備だ」

「準備?」

「ああ。せっかく君達に同行するかも知れない男の実技試験だから、どうせなら本格的にやろうと思ってな。シチュエーションとルールはこちらで決めさせて貰った。それから君達の配役もな」

「配役って……舞台の練習か何かですか?」

「いいや、違うよ。詳しくは儂の執務室で説明するから着いて来てくれ」



 ◇



 レウス達がシャロットから説明された潜入実技試験の舞台は、センレイブ城の隣にある騎士団の総本部の宿舎。

 ルールとしてはまずコラードだけが一旦建物の外に出て貰い、ファラリアが人質として敵役のレウス達に囚われの身となっている設定である。

 コラードは一階の正面玄関から入り、そのまま四階のギルベルトが居る部屋を目指す。

 ファラリアはギルベルトの部屋で囚われの身となっているが、余裕があれば脱出して自分からコラードに会いに行っても良い。

 とにかく、二人が「合流した上で」無事に宿舎から脱出出来たら二人の勝ち。

 脱出出来ずに途中で捕まってしまったり力尽きてしまったらレウスチームの勝ちである。

 何時の間にバトル形式になったのかは分からないが、とにかく勝利条件としては二人が建物の中で合流して無事に脱出する事なので、無理に全部の敵を相手にする必要は無いのだ。


 そのルールを聞いて待機していたコラードは、正面玄関前で同じく待機している従業員の男から開始の合図があるまで軽くストレッチをする。

 思えば自分のワガママでこんな唐突に始まったトレーニングに付き合わされるなんて、勇者レウス達に対して何だか申し訳無い気持ちになるコラード。


「付き合ってくれてどうもありがとうございます」

「んあ、俺か? 俺は別に気にしてないよ。こう言うのもたまには良いんじゃないかって思ってるし。冷静に依頼をこなすと評判のあんたがどう言う戦い方をするのかが楽しみだ。……良し、中の準備はもう終わったみたいだな。それじゃあ健闘を祈る」

「ああ、それじゃ……うおっ!?」


 出入り口で案内役として待機している騎士団員のワシ獣人にそう言って駆け出したコラードだが、その途端何かにつまずいて危うく転びそうになる。

 何につまずいたのかと振り返ってみれば、そこには何と自分の足をコラードの足に引っ掛けているワシ獣人の男の姿があった。


「な、何するんだよ!?」


 抗議の声を上げるコラードに、ワシ獣人の男はニヤリと嫌らしく笑った。


「そう言えば……もう一つ言いたい事があった。戦場では誰が敵で味方なのか分からないんだぜ!!」


 そう、このワシ獣人の男も敵の一人だったのだ。

 この宿舎に寝泊まりしている全員と、試験の為に呼び出されたレウス達一行がコラードとファラリアの敵と言う設定なのだから。

 本性を露わにしたワシ獣人の男は、着込んでいる皮のジャケットの下から取り出したナイフをその右手に握って襲い掛かって来た。

 当然そのナイフを回避し、彼の足にローキックをお見舞いするコラードだが男はビクともしない。


「はん、弱い弱いっ!」

「くっ!」


 攻撃をかわしたコラードのすぐそばを、ブオンと風を切って目の前をナイフの刃が掠めて行く。

 それにもめげずに再び向かって来たワシ獣人が突き出して来るナイフを再び避け、その向かって来る勢いを利用した背負い投げで彼を投げ飛ばした……のだが。


「はっ!?」


 そのまま弧を描いて地面に背中から叩き付けられる筈が、突如ワシ獣人の背中から翼が生えてそのまま空中へと飛び上がる。


(げぇ、何だそれ……!?)


 ワシ獣人だからこそ、人間の身体から鳥の翼が生えていたって何も不思議では無い。

 むしろそれが当たり前の鳥人にとって、空に舞い上がって体勢を立て直すのは息を吸うのと同じ位に簡単なのだ。


(くっそ……どうすれば良い、どうすれば!!)

「どうした、ここでもう終わりか!?」


 とにかくコラードはこの案内役のワシ獣人を倒して宿舎の中に入らなければならないので、バサバサと翼をはためかせて空中から飛来して来るワシ獣人を見据えて、一か八かの作戦に出た。

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