203.ソランジュの実家
結局、コラードの実力を見る事も無いままに彼との面談は終わりを告げ、当初の予定通りにギルベルトがパーティーから離脱して本来の自分のポジションである、リーフォセリア王国騎士団長としての役割に戻るべくここでお別れとなった。
更に前にギルベルトが言っていた通り、ゴーシュとファラリアも一緒にリーフォセリアへと帰る事を決定。
まだこのグラディシラの何処かに、あのホルガーの部下の残党が残っていたりするかも知れないので、騎士団長のギルベルトが一緒に着いて行ってくれるのは非常にありがたい話である。
「それじゃあ、俺達はもう行く。お前等は明日の朝に出発するんだろ?」
「そうですね。でももうじき日が暮れますけど大丈夫ですか?」
「ああ、大丈夫だ。俺だって獣人だからな。人間のお前達よりは夜目が利く。それに転送装置だってあるし、何処かの町で一泊してでも帰れっからな」
その時、そのギルベルトのセリフを聞いていたソランジュがこんな提案をする。
「ふむ……それでしたらギルベルト団長、私の実家に泊まって行くのはどうです?」
「えっ、お前の実家?」
「ああ、そう言えば確かソランジュちゃんはこのイーディクト帝国の出身だったわね。でも……ご迷惑にならないかしら?」
「大丈夫ですよ。私の両親は忙しいから殆んど家に帰って来る事は無いし、お主達が全員泊まっても何も問題無い位の広さだってある。それにもうじき日が暮れる。だから今から出発した所で、その日が暮れる中を進むとなると魔物に襲われる確率も高くなるでしょうから、無理せずに王国に連絡を入れて、明日ゆっくり帰るとよろしいかと」
冷静に考えた上での提案をするソランジュに対して、ギルベルトとゴーシュとファラリアの三人は顔を見合わせた。
「本当に世話になって構わないのか?」
「構いませんよ。使用人しか居ませんからね。広い家ですし人が住まないと荒れますから、どうぞ泊まって行って下さい」
「ならお邪魔させて貰おうかなぁ。ここに居る俺達全員で行っても大丈夫なのかよ?」
「ええ。私の家なら全く問題ありませんよ。お風呂もありますからどうぞ」
と言う訳でソランジュに勧められるがままに、レウス達は勿論ギルベルトもゴーシュとファラリアも、そして成り行きで知り合ったサィードまでもが着いて来る事に決定した。
ソランジュ本人を含めて全部で九人の大人数だが、これだけの人数にも普通に対応出来るとソランジュは涼しい顔で答えたので、どんなに大きな屋敷なのかと内心でワクワクしながらレウス達は彼女の実家へと案内して貰う。
「……でかいな、こりゃあ……」
「えーと一、二、三、四階建てなの!?」
「しかも横にも広いんだな。それに外壁から玄関のドアまでに至る道だけで、私が騎士学院で与えられている最上級の個室位の広さと長さがあるぞ」
マウデル騎士学院の三人は、目の前にそびえ立つくすんだ白色の外壁と赤い屋根が特徴的な、大きな屋敷を見上げて呆気に取られていた。
その横ではサイカがこんなセリフを。
「最初にソランジュと知り合った時に、そこそこ名家の出身だってのは聞いていたけど……まさかこんな大きな屋敷を持っているなんて思ってもみなかったわ」
「あれ、お主には言ってなかったか?」
「ううん、聞いてないわよ。実家がこんなに大きな家だったなんて今初めて知ったからね」
「この屋敷の大きさからすると、どうやらかなりの年月を掛けてこの国の商家の中心となって来たみたいだけど……」
「ええ、そうですよ。色々と顔が利きますから……親はね」
「あら、ソランジュちゃんは違うの?」
「私は冒険者になる為に家を飛び出したから、知り合いらしい知り合いは余りこの国には居ないんですよね」
どうやら同じ商家と言えども、アーヴィン商会とグラン商会ではかなりの差があるらしい……。
それを痛感して胸がズキズキしているゴーシュを横目に、ギルベルトがソランジュを促す。
「招かれた立場でこんな事言うのもなんだけどよぉ〜、積もる話は中に入ってからにしねえか?」
「そうですね。それじゃどうぞこちらへ」
ソランジュに先導され、赤い両開きの入り口のドアに向かう一行。
そのドアについているドアノッカーをゴンゴンとソランジュが打ち付ければ、中からバタバタと誰かがやって来る足音が聞こえる。
「どなたですか?」
「私だ、ソランジュだ」
「ソランジュお嬢様ですね。お帰りなさい、どうぞ」
その声と共に内側から開かれたドアの向こう側では、メイド達がおよそ十人で迎えてくれた。
一斉にお辞儀をする彼女達の間を、ソランジュ先導でレウス達が歩いて通り抜ける。
家を飛び出した彼女を出迎える側からしてみれば、仕えている家の当主の娘とは言え、多少なりとも嫌悪感が出てもおかしくは無い筈なのにこの待遇の良さは何なのだろうか、とレウスは歩きながら首を傾げる。
(だって、家を出て行った奴が戻って来たんだよな。普通だったら家にすら入れてくれない筈なのに……こうして間を通り過ぎながらメイド達の表情を見てみても、嫌悪感や憎しみの感情は見られないんだが……)
もしかするとポーカーフェイスが上手い使用人ばかりを集めているだけなのかも知れないが、いずれにしてもその話はソランジュの口から語られるのだろうか?
そうして彼女が一行を案内したのは、この屋敷の中で一番大きな部屋であるリビングだった。