201.新しい同行者候補
今度こそ本来の傭兵の情報だろうな……と考えながらドアを開ければ、そこには何と皇帝のシャロット自身が護衛達と、それから見知らぬ中年の男と一緒に立っていた。
「陛下……」
「失礼するよ。君達に同行させたいと思っているのはこの男だ」
「……どうも」
シャロットよりは若干高めではあるが、それでも年齢を重ねただけの事はある低い声色の声を出しながら会釈をする、くすんだ金髪の男。
この場に居るメンバー全員が初対面である。
とりあえず出入り口で立ち話は良くないので、やって来たシャロットと金髪の男と護衛達を中に招き入れてキチンと話を聞き始めるレウス達。
まず、シャロットの護衛達をがそれぞれにこの金髪の男の経歴と実績を記載した紙を配り始めた。
「今配ったそれがこの男の詳細だ。後でそれを見ながら色々と話をして貰うから、まずは君達に自己紹介をして貰おう。……それじゃ、頼むよコラード」
「はい。私はコラード・モラッティ。世界各国で傭兵として活動している。よろしく」
「コラードさんですか。俺はレウスです。それからこっちから順に俺の仲間のアレット、エルザ、ソランジュ、サイカ。それからこの黒髪の人が俺の父のゴーシュで、隣が母のファラリア。後……同じく傭兵のサィードと、このトラ獣人がリーフォセリア王国の騎士団長ギルベルトさん」
コラードと名乗った男に対し、レウスは自分の周りに居るメンバーを順番に紹介する。
そしてここから先はレウス達とコラードの話なので、一旦シャロットは退室して話し合いが終わったら再び彼の元に向かう算段となった。
この男の素性が何も分かっていない今の状態では、まだ信用出来ないのでこれからじっくりと話し合いをしなければならない。
(まあ、信用出来ないのはお互い様だろうがな)
シャロットと護衛が退室した後の応接室で、応接セットの机を挟んでレウスとゴーシュとギルベルトが三人揃った椅子のその向かい側の椅子に、ゆったりとした動きで座るコラード。
その凛々しい目つきは、彼が今までの傭兵家業の中で数々の修羅場を乗り越えて来ているのだと暗に語っている。
しかしながら、その彼の実力を知らないままでは到底一緒には行けないのである。
それが例え、皇帝シャロットが推薦した人物であろうとも。
なのでまず、コラード以外の一同はシャロットから貰ったコラードの資料に目を通し始めた。
すると早速、コラードについて意外な事実が明らかになる。
「年齢は二十九歳……?」
「ああ、やっぱりそうは見えないか?」
「そうだなー……ハッキリ言うけど見えねえなあ」
「ちょっと、ハッキリ言い過ぎですよ騎士団長」
「別に構わないですよ。私はそれを自覚してますし、何より言われるのも慣れていますから」
訝しげな視線を向けて問うレウスに続いて、彼の隣に座っているギルベルトがストレートにそう言ったのを咎めるファラリア。
しかし、言われているコラード本人は平然とした表情のままである。
今までも何度も言われ過ぎて、もう言いたい奴には言わせておこうと言うスタンスらしい。
その次にコラードの実績を確認するべく資料に目を通すレウス達だが、彼が得意としているのはどうやら戦う事よりも密偵としての役割らしい。
「ええと……ギルドの実績。某国の密偵として某国某所に潜入し、実態の調査に成功。それからこっちが某国内の麻薬の密売組織に潜入し壊滅に成功、そしてこっちが某国の騎士団と犯罪組織との癒着を暴く為に潜入し、壊滅に導く事に成功……お主の実績、殆んどが潜入系なんですね」
「そうだ。勿論それ以外に魔物の討伐もしたし、雑用関係だって色々こなして来たしな。一般人から王族関係者まで依頼を受けて来た実績があるのを見て、シャロット陛下が君達と一緒にカシュラーゼへと向かったらどうだって仰ってな」
「ふうむ、潜入か……」
ソランジュは考える。
この先はカシュラーゼに乗り込む事になっているのだが、そのカシュラーゼのセキュリティがどれ位のレベルなのかは正直言って見当が付かない。
冒険者として訪れた事はあっても、敵として訪れる事になるのは勿論初めてだし、向こうだってそんな敵をやすやすと国内に入れたくないだろう。
そう考えれば、潜入活動に優れているコラードをカシュラーゼに同行させるのはかなり良いかも知れない。
あのウェイスの町中でエルザ達のグループが見つけた、カシュラーゼに向かっているトンネルを使って潜入するなら尚更だ。
しかし、そう思っているソランジュとは対照的にサイカは渋い顔である。
「うーん……幾ら潜入スキルが高いと言っても問題は戦闘能力だと思うわよ」
「おや、お主は否定的だな?」
「だって、今回の相手はあのドラゴンの生物兵器を生み出したカシュラーゼなのよ。魔術で色々とセキュリティを強化しているに違いないから、強行突破も考えないと」
「それもそうか」
確かにサイカの言い分も一理ある。
向こうは赤毛の二人組もセバクターも絡んでいる訳だし、武力の腕も決して低くは無いだろうから、そう心配するのは当然と言えば当然だった。