200.卒業生サィード・ランバルディ
「卒業……生?」
「えっ、マウデル騎士学院の卒業生って……私達の先輩になるって事か?」
「おう、そーだよ。よろしくな後輩」
思いがけない事実。
本人は勿論、その事実を事前に知っているゴーシュとファラリア以外の全員が呆気に取られた顔をしている。
と言っても事実を初めて知ったレウス達の呆気に取られた理由と、その事実をギルベルトの呆気に取られた理由とでは若干の違いがある。
ギルベルトの場合は「何故この卒業生がここに居るのか?」と言う事で呆気に取られているからだ。
それをストレートに聞いてみると、サィードは以前ゴーシュとファラリアに食事を奢って貰った時に話した理由を繰り返した。
二十六歳の今から八年前に学院を卒業して、騎士団に入ったは良いものの二年で辞めて、それから今までずっと傭兵として世界中を転々としている、と……。
それを聞いたレウスは、もしかして……とサィードにこう聞いてみる。
「なぁ、あんたが俺達に着いて来るって言う名うての傭兵なのか?」
「はっ?」
唐突にレウスからそう聞かれて、今度はサィードが呆気に取られた表情をする。
そのリアクションを見たレウスの方は、直感で「あ、これは違う」と確信したが、一応彼の答えを最後まで聞いてみる。
「お、俺がお前達に着いて行くだって?」
「ああ、違うのか?」
「いや、ちょっと待ってくれよ。一体そりゃあ何の話なんだ? 俺は確かにお前達に協力していた時もあったけどさ、これからのお前達の旅に何で俺が着いて行かなきゃなんねえんだ?」
「うーん、やっぱり違うのか……」
「やっぱりって何だよ。最初から違うって分かってたのか?」
「いや、名うての傭兵云々って言う質問に対してのあんたのリアクションで分かったよ。この話に絡む傭兵じゃないなって……」
「ねえちょっとレウス、さっぱり話が見えて来ないんだけどどう言う事なの?」
「そうだ。俺達にも何が何だか分かる様に話してくれ」
謁見の間で話を聞いていたレウス達にしか分からない会話が繰り広げられているのを見たゴーシュとファラリアは、息子に対してもっと詳しく話を聞かせる様にお願いする。
そう言われるだろうなと思っていたレウス達は、自分達が謁見の間でシャロットに報告を終わらせた後に喜びの言葉を言われたのだが、更にその後シャロットから傭兵をつけるとの提案をされたのである。
「だからこのサィードが傭兵として活動しているって聞いた時、私もレウスと同じ様に、貴様がシャロット陛下からの提案にあった名うての傭兵かと思ったんだよ」
「でも、さっきのやり取りを見るとどうやら違うみたいよね?」
「あ、ああ……俺はシャロット陛下からは何も聞いていねえからな。その名うての傭兵ってのが一体誰なのかまだ分からねえのか?」
「ああ。そうなんだ。お主が違うってなると、また別の誰かって事になるよな」
「でも……まさかあのセバクターって話じゃないわよね? そうだとしたらもっとビックリするのは間違いないわよ」
エルザとアレットはサィードに対して事実確認をし、それを明確に否定した彼のセリフを聞いてソランジュとサイカが首を捻る。
しかし、その会話の流れを遮ったのはギルベルトだ。
「まあ待て。今のおめー達の話によれば、シャロット陛下が後でその傭兵の資料を渡してくれるっておっしゃってたんだろ? だったらその資料を見てみればすぐに分かる事じゃねえか」
「それもそうだな」
結局その資料を見て判断する事を決めた一同だったが、サィードの実力もかなり気になるのでギルベルトに聞いてみるゴーシュ。
「騎士団長、このサィードと言う傭兵がまだ騎士団員だった頃の活躍はいかがだったんです?」
「えっ? いや、活躍って言われてもな……俺も正直全ての団員を把握してた訳じゃねえからハッキリ言って分からねえよ」
「そ、そうですか……」
全く話が広がりそうに無い。
そう言えばこの男は自分達に対して、自分から「騎士団を二年で辞めた」と言っていたのだから、そこまで大した活躍もしていないのかも知れない。
だが、北に向かう途中の砂漠の区間で大量の魔物を討伐していた彼の活躍っぷりはレウス達が知っている。
「でも、今の活躍なら俺達が知っている。沢山居る北の魔物達をかなり倒してくれたんだ」
「そうなのか?」
「ああ。そのおかげで俺達は雑魚との戦いでエネルギーを使わずに済んだから、さほど苦労する事無しに砂漠地帯のヌシを倒す事に成功したんだ」
「そーだよ。ついでに色々と魔物の部位を換金してそれなりに稼がせて貰ったからお互いに得しただろーよ?」
「まあな。とにかくあの時は助かった。ありがとう」
レウスの証言に続ける形で、サィードから換金云々についての話が出たので大体の活躍をこれで知って貰う事が出来た。
自慢のハルバードを武器にしている大柄な体躯の持ち主と言う事で、ギルベルトの代わりとしてはピッタリの人物かと思いきや、実はそうでは無かったのが惜しい所ではあるが、それでも助けてくれたのに変わりは無いのでお礼を言うレウスの耳に、またコンコンとドアをノックする音が聞こえて来たのはその時だった。