199.入って来た人物達
「ああ……みんなが無事に戻って来られたって聞いた時は本当に安心したよ」
「レウス……無事で良かったわ……」
「と、父さんに母さん……帰ったんじゃなかったのか?」
「おいおい、お前それは無いだろう」
苦笑いを浮かべるゴーシュとファラリアに対する、その二人の息子レウスは完全に予想外のリアクションである。
帰りはウェイスの町から転送装置を使って一気にグラディシラに戻って来たとは言え、流石に何日も日を置いていたので流石に帰ってしまったと思っていたからだ。
なので、ギルベルトがゴーシュとファラリアと一緒に帰ろうか……と言い出した時も、グラディシラに戻って来たらどうせもうこの二人はリーフォセリアに帰っているだろうと思って、レウスはそれなりに話を合わせていただけだった。
……のだが、どうやらその申し出は現実になりそうである。
レウス率いるパーティーメンバーの五人がシャロットに謁見している間に、ギルベルトを通じて色々と話を聞いていたゴーシュとファラリアだったが、実はこの二人以外にもまだ一人一緒にここに来た人間が居た。
「へーえ、お前の両親って話は本当だったのかよ」
「え?」
「あ、ああああっ!?」
「な、何で……!?」
それぞれリアクションの大きさは違えど、レウスもアレットもエルザも一様に驚くのは無理も無い。
ゴーシュとファラリアの後ろから、鍛え上げられた筋肉質の体躯を持っているその身体をヌッと現わしたのは、ギルベルト以外のパーティーメンバー達が忘れたくても忘れられないまさかの……。
「サィード……何でお主がここに?」
「何でって、俺あの砂漠の手前でお前等に言ったじゃねえかよ。グラディシラに戻るってさ。だからこうしてここに居るんだろーが」
「いや、そうでは無くてだな。お主がここに戻って来た理由は分かるが、どうしてお主と一緒にレウスの両親が居るのかって話だ」
実際の所、レウスの両親であるゴーシュとファラリアに出会ったのは余り回数も多くないソランジュ。
しかし、あのアークトゥルスの生まれ変わりだと言う彼を育て上げて来た両親だけあって、そのインパクトはなかなかのものであった。
そんなゴーシュとファラリアとこのサィードと言う男は顔見知りなのか? と心底不思議に思っているソランジュに対して、サィードの代わりにファラリアが事情を説明する。
「ああ、この人は私達の命の恩人なのよ」
「えっ?」
「ガラの悪い連中に絡まれた時に、巡回中の騎士団員を呼んで来て貰ったんだ。それからお礼に一緒に飯を食べに行って、グラディシラの色々な所を案内して貰ってすっかり仲良くなったんだよ」
「…………その話、もっと詳しく聞かせてくれないか?」
自分の両親がまだこのグラディシラに残っていただけでもビックリだと言うのに、あろう事かその両親がガラの悪い連中に絡まれた?
そしてサィードが命の恩人になった?
と言う事はこのグラディシラでゴーシュとファラリアが危機的状況に陥っていた事になるよな、と察したレウスは低いトーンの声で、もう少し詳しい説明を三人に求めた。
その息子の様子を見たゴーシュとファラリアは、応接室の中に入れて貰ってからサィードと共にあのホルガーとその愉快な仲間達絡みのエピソードを説明する。
「ってな訳で、そのホルガーとやらは捕まったんだよ。そっちもそのホルガーってのに絡まれてトラブルになったってのは俺もファラリアもサィードやここの騎士団から聞いたから知っているしな」
「何処にでも犯罪を何回も犯す人は居るものねえ」
「いや、そんなのんきな口調で言う事じゃないだろ母さん。もうちょっと危機感持ってくれよ」
「それは貴方も同じよ、レウス」
まさか、親子揃ってあの便利屋に絡まれてトラブルになるなんて思いもしなかった。
あのホルガーの仲間達が、自分と両親を見て親子関係だと言うのに気が付いたのだろうとレウスはすぐに察しがついたのだが、まさか親を狙われるとは思っていなかった。
(仕返しに狙われるのは必ずしも自分じゃなくて、その身内だと言うのも十分に考えられるって事か……)
考えてみれば、五百年前のドラゴン討伐のパーティーメンバー絡みで起こった幾つもの事件の中においても、当初トラブルを起こしたメンバーが仕返しされるのではなく、仲間がターゲットにされる事が何回かあったのも今になって思い出した。
時代が変わっても、場所が変わっても、仕返しするターゲットの構成が変わっても考える事が同じ人間や獣人は何処にでも居るのだと改めてレウスは痛感させられる。
しかし、今回の件に関しては全ての元凶があのホルガーと言う便利屋だったのは間違い無いので、これから先の旅路で気を付ける事にしてこの話は終わりになった。
しかし、そのやり取りを見ていたリーフォセリア王国騎士団長のギルベルトがハッとした表情になる。
今まで何かが引っ掛かっている様な表情をしながら、ずーっとこの部屋に新たに入って来た三人の方を見ていて、やっと今その引っ掛かりが無くなったので口を開いた。
「サィード……」
「ん? 呼んだか?」
「お前、もしかしてマウデル騎士学院の卒業生のサィード・ランバルディか!!」