198.シャロットからの提案
「ところで君達、この国に調査に来ていたリーフォセリアの騎士団長が帰ってしまうのだろう?」
「え……はい、そうですが」
「それだったら、君達に名うての傭兵を一人つけようと思っているんだがどうかな?」
「傭兵……ですか?」
突然、シャロットは妙な事を言い出した。
自分達に対して名うての傭兵をつけると言うのは、何か考えがあっての事なのだろうが、正直に言えばレウス達にとっては何とも言えない申し出である。
「ええと……それはどの様なお考えでしょう?」
「考えも何も言葉通りの意味だよ。リーフォセリアの騎士団長が抜けてしまうと戦力的にも低下は避けられないと思う。勿論、君達の腕が悪いと言う訳では無いのだが……やはりカシュラーゼに乗り込むのであればそれなりの人員が要るだろうと思ってな」
「は、はあ……申し出は嬉しいのですが、仲間として同行させるかどうかはこちらで決めさせて貰っても良いですか?」
レウスがそう言った瞬間、謁見の間が凍り付くのが分かった。
それでもレウスにとってはあの水晶で映し出された光景の話もあり、信頼出来ないパーティーメンバーは敵よりもタチが悪いと現在進行形で考えている。
しかしそこはシャロットも分かってくれている様で、白い髪の毛と髭を蓄えた顔ではっはっはっと笑いながら話を続ける。
「君ならそう言うと思ったよ、アークトゥルス。水晶の話は儂も実際に見せて貰ったから分かるよ。だから後で、君達にその傭兵の経歴を記した書類を配らせて貰う。希望するならば腕前を試す為の手合わせも可能だから、遠慮無く言ってくれ。それでもし、君達がその傭兵を一緒に連れて行きたいと言うのであれば、改めてその時に仲間に加えてやってくれ」
「分かりました……」
戦力の補充と言う面では嬉しいのだが、一緒に魔物の討伐に向かったイーディクト帝国騎士団の騎士団員達や魔術師部隊の隊員達とは違い、金次第で雇い主が変わる傭兵をむやみに仲間に加えるのは正直に言ってリスクが大きい。
なので資料で経歴や実績を知って貰い、それでも納得出来なければ手合わせをして実力を測っても良いとの話だが……問題はそこでは無い。
その心で思っている事を、謁見の間を後にしたメンバーの中で最初に口にしたのはソランジュだった。
「傭兵って言うのは、特定の雇い主には長くつかないのが当たり前だからな……金次第でどんな相手にもついてしまう生き物だ。個人でもかなりの金持ちがたんまりと報酬をくれるならついて行くし、一国の国王からの要請であっても自分のメリットにならない仕事はしないのも居るからな」
「そうよねー。勿論全ての傭兵がそうって訳じゃ無いけど、国に仕えている騎士団員と違って定期的な収入が得られるとは限らないし、自分の腕一本で食べて行かなければならないからねえ。そう考えると拝金主義の傭兵が大多数なのは納得よね」
ソランジュもサイカも冒険者として活動する中で、なかなか仕事に恵まれない時期はかなり苦労していた経験があった。
安定した暮らしを望むのであれば、ソランジュの様に使用人になったりサイカの様に従業員として働いたりと言う様に、定職につくのがよっぽど良いのである。
しかし、その傭兵達も腕があれば勿論大きな仕事が入って来るし、成功すればたんまりと稼ぐ事も夢では無い。
その一方で、アレットとエルザはその傭兵に対して別の事を考えていた。
それは前に出会った、あの銀髪の男の話である。
「そう言えばさ、あの……何だったっけあの男……ほら、名前覚えてないけど闘技場で出会った銀髪の人……」
「サィードか?」
「うん、そう……そんな名前だった気がする。まさか名うての傭兵ってあの男の事じゃないの?」
「それはかなりあり得る話だな。私も貴様と同じ事を思っていたんだ」
セバクターはあのウェイスの町中で夜中に出会ったばかりだったし、その話もシャロットに伝えてあるので彼では無いだろう。
となると残っている心当たりは、掴み所の無いちゃらんぽらんな性格のあのサィードしか思い浮かばない。
しかし、あの男はイマイチ信用出来ない。見た目が胡散臭いと言うのもあるが、それ以上に中身が胡散臭いのだ。
だからもしあの男が傭兵として仲間に加わると言うのであれば、メンバー全員の総意として断固反対する気持ちが固まった。
ひとまず、その傭兵の資料を渡して貰う為に与えられた城の応接室で待っている五人だったが、そんなパーティーの居る部屋のドアがコンコンとノックされた。
「あれっ、もうその傭兵の資料が来たのか?」
「やけに早いな……」
だけど資料を用意するだけなので、別にそこまでの時間は掛からないかな……と考えを改めつつ、ドアの外に向かって声を掛けるレウス。
するとドアの向こう側からは聞き覚えのある声が返って来た。
「誰ですか?」
「俺だよ、ギルベルトだよー。開けてくれや」
「ああ、ギルベルト騎士団長ですね。今開けますから待ってて下さい」
レウスに続いてそう返答したアレットがドアを開けて、その声の主を出迎える。
しかし、ドアの外に待っていたのは彼だけでは無かったのだ。