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195.早々の帰還

「そうなの……でも、そんなに実力のある魔術師だったら私達の耳にも入っていると思うんだけど……」

「そうよねえ……だって無詠唱で魔術を繰り出したり、一瞬で魔物を生み出す魔法陣を作り出したりなんて、今まで見た事も聞いた事も無いわよ」

「それ程までの男だったら冒険をする中で何かしらの噂は聞くと思うが、余程人が嫌いなのかそれとも最近になって出て来たばかりの魔術師なのか……?」


 ウェイスの町に戻って来た三人から、魔法陣の先で何があったのかを話して貰った一行の間では、あの黒髪の魔術師の話で持ちきりだった。

 特に同じ魔術師であるアレットは、その魔術師がレウスに対して指一本触れさせる事を許さずに、余裕の戦いを繰り広げていたのが気になっている。

 勿論彼女のみならず、他の魔術師達もその考えは同じだった。


 その一方で、ソランジュとサイカの冒険者コンビはその魔術師の噂が今までずっと無かったのが不思議だと述べる。

 元々魔術師はずっと魔術の研究をするのが当たり前になっているからか、コミュニケーション能力が乏しい者が多いとされている。

 単に人見知りだったり人が嫌いだったりとその理由は様々だが、いずれにしても魔術師達の陰気な性格を馬鹿にする騎士団と、騎士団の粗野な言動を疎ましく思っている魔術師の対立……と言う構図は、リーフォセリア王国騎士団でもそれからここイーディクト帝国騎士団でも少なからずあるらしい。


 しかし、その魔術師が口走っていたセリフの数々からすると、どうやら彼はカシュラーゼと何らかの関係があるらしい。

 確かにカシュラーゼはこの世界の魔術の中心地として知られている国なので、あそこが色々と研究を進めるに当たってあの黒髪の魔術師の様な実力者を擁していても何ら不思議では無いだろう。

 事実、このウェイスの町だってあのカシュラーゼが埋め立てた様に見せ掛けてこんな事をしていたのだから。

 なので、これから自分達が向かう先はもう決まっている様なものである。


「これから……どうするんだ?」

「決まっているだろう。カシュラーゼに向かうんだ。あの赤毛の二人の話にしても、それからセバクターの話にしてもあの魔術師の男にしてもこの町にしても、何かしらの形でカシュラーゼが絡んでいるからな」

「まあやっぱりそりゃーそうなるわな。けど……悪りーけど俺はカシュラーゼには行けねえんだよ」

「え?」


 唐突にそう言い出したギルベルトに対して、これからの事を聞いたソランジュもそれに答えていたエルザも呆気に取られた表情になる。

 しかし、その中で唯一レウスだけは違っていた。


「まあ……そりゃそうだろうな。リーフォセリア王国騎士団の騎士団長って言う地位についているんだったら、その任務を放っぽり出して勝手にカシュラーゼに向かう訳にもいかないだろう」

「そーなんだよ。俺……陛下にはイーディクトの現状調査って事で騎士団を離れる許可を貰って来たからさ、カシュラーゼには行けねえよ。悪りーがこの先はお前等だけで何とかやってくれや」

「ええー……」


 これからの事を決めた途端にギルベルトにそう言われ、彼の言い分に納得したレウス以外のメンバーは明らかにテンションが下がる。

 しかし、今回もまた魔法陣に乗る前の時と同じ様にギルベルトが説得し始めた。


「俺が居なくたって大丈夫だろ。お前等の活躍は割と聞かせて貰ったけどよぉ、あのソルイールの騎士団長とか皇帝に勝ったんだろーが。それからギルドの生意気な若い奴にも勝ったってお前等自身から聞いたから、俺抜きでもきっとやってけるって思ってんよ」

「そ、そう……ですかね?」

「そうだぜアレット。それにお前等は自分達の実力であの四属性のドラゴンを倒したんだからもっと胸を張れや。そーでも無けりゃ、リーフォセリア王国騎士団の団長として未来の騎士団員を迎える事に不安を覚えちまうぜ」


 大きな手でポンポンと肩を叩かれ、ギルベルトに勇気付けられるアレット。

 未来の騎士団員の活躍を願ってそう言葉を掛けられたものの、厳密にはここでお別れでは無い。

 まだこの件を皇帝のシャロットに報告していないので、顔見せも兼ねて一緒に帝都のグラディシラに向かって、そこでようやくお別れである。

 幸いと言うべきか、新しい方のウェイスの町には帝都に繋がる転送装置があるので、帰り道はそれで一気にグラディシラまで向かえる。

 本来であれば行きもその転送装置を使って来ればかなり楽だったのだが、魔物の駆除と言う任務を引き受けた以上は徒歩と馬を使って魔物を倒しながらここまで来るしか無かったのだ。


「そーいやーさ、確かグラディシラにはレウスの父さんと母さんも来てるんだったか?」

「ああ、そうだよ」

「そっか。だったらもしあの二人が良ければ一緒に帰るぜ。三人揃ってリーフォセリアまで向かった方が何かと安全だろうし、魔物とかに襲われないとも限らねーからな」

「そうか、それは助かるよ」


 ギルベルトからの嬉しい申し出もあり、こうしてウェイスの町の調査を終えて一旦グラディシラに戻る事になった一行。

 しかし、そこから先は自分達だけでどうにかしてカシュラーゼへと乗り込まなければならないのだ……。

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