193.謎の魔術師
登場人物紹介にウォレス・フレーデガル・リヒトホーフェンを追加。
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とは言え、いきなり「何者だ」と問われても見ず知らずのこの男には答えづらいので、ここは三人を代表してレウスが不機嫌丸出しの声で尋ねる。
「俺達はイーディクト帝国の中にある魔法陣を使ってここまで来た冒険者だ。そっちは?」
「冒険者だと? それに魔法陣って……まさかあのウェイスの町の魔法陣を起動したのか?」
「ああ。何か変か?」
彼のその言い方に疑問を覚えるレウスに対し、黒髪の魔術師はさも当たり前と言うトーンで続ける。
「変も何も……あの埋め立てられた町にどうやって入ったのかは分からないし、あの魔法陣を起動出来るだけの魔力をどうやって集めて来られたのかも分からないが、何にせよここに来てしまった以上君達を黙って帰す訳にはいかないんだよ」
薄ら笑いを浮かべる黒髪の魔術師を見て、ふとピンと来たのはギルベルトだった。
「もしかしてあの町の中に居た、カシュラーゼから命令を受けた傭兵集団はてめえの仲間か?」
「そうさ。僕が都合の良い様に動かしていた人足みたいな奴等だよ。さっきも大きな魚を土産にくれてやったらそれだけで喜んでいたからね。その日暮らしで食うのにも困っていた様な奴等をここまで使ってあげたんだから、感謝して欲しいもんだよ」
「何だと? てめえは一体何もんだぁ?」
まさかあの傭兵集団を率いている存在がこの男だったなんて……と憤るギルベルトに対し、黒髪の魔術師は面倒臭そうに返答する。
「ふん、僕の研究の邪魔をしておいて僕の素性を明かせだなんて、勘違いも程々にして貰いたいね」
「んだとぉ!? そもそも研究って何を研究してんだよ?」
「研究はこれだよ」
怒りに血管を浮き上がらせながらギルベルトがそう聞けば、黒髪の魔術師はニヤリと嫌らしい笑みを浮かべてそう言いながら、壁の一部分をドンっと拳で叩く。
するとその瞬間、彼が拳を叩き付けたすぐ横の部分の壁が隠し扉の如く横にグルリと半回転した。
その壁の裏にあったのは……。
「……壁画……?」
古びてボロボロになり、所々が剥がれ落ちているがそれは間違い無く壁画だ。
「僕が三か月前に色々と探検していた時にここで見つけた壁画だ。この滅亡した国にこんな物があるなんて興味深かったから色々調べて研究していたんだけど……君達にこうやって邪魔されたんだよね」
そう言い終えると、黒髪の魔術師は地面に向かって杖の先端をかざす。
するとその瞬間、先程ワープに使ったものよりも更に一回り位は大きな水色の魔法陣が出現した。
「だから、その邪魔をする奴はここで死んで貰うよ!!」
「うおおっ!?」
「しばらくこの魔物達と遊んでなよ。それじゃあね」
何と、その魔法陣の中心から魔物が次々に現われた。
その魔物達に対抗し始める三人を尻目に、黒髪の魔術師が扉から外に出ていこうとするのをレウスは見逃さなかった。
「おいお前、自分の素性も明かさずに俺達にこんな事をしておいて、そのまま逃げるなんてのは卑怯だろう!!」
「やだなぁ、これだから冒険者の大半は話が通じなくて困るよ」
こうなったらもうやけくそ状態でやってやるぜ、とばかりにレウスは雄叫びを上げながらダッシュで黒髪の魔術師に接近し、全力ダッシュからのドロップキックを繰り出す。
魔物を生み出す元凶のこの黒髪の魔術師は放っておくと厄介なので、これは短期決着で一気に勝負を決めるべきだとレウスは判断。
しかし次の瞬間、魔術師の男は一瞬で強力な魔術防壁を自分の周りに展開した。
その魔術防壁によってドロップキックをブロックされたレウスは、彼に攻撃を与えられずに壁に当たって跳ね返っただけに終わってしまう。
「ちっ!」
「僕が防御魔術だけの男だと思ったら大間違いだよ?」
「何だと……うわっ!?」
男が魔術防壁を展開しているその内側で、持っている杖を地面に突き刺す。
するとその瞬間、杖が突き刺さった所からビシビシと地面に亀裂が入り始めた。
まさかこの部屋が崩れる様な事になるんじゃ……と考えるレウスだったが、実際はその亀裂に沿って炎が噴き出て来たのである。
「くっ!」
「じゃあね。僕は研究で忙しいんだから君達に付き合っている暇なんか無いんだよ」
その炎を魔術防壁で咄嗟にブロックしたレウスだったが、その隙に男は金属製の扉の向こう側に姿を消した。
当然レウスも追い掛けようと扉に手をかけるものの、その瞬間に何と身体中に効力な痺れが走ったのである。
「ぐおああああああああああっ!?」
「レウスっ!?」
「おいレウス、大丈夫かっ!?」
そのレウスの絶叫を聞きつけたエルザとギルベルトが、魔法陣から出て来た魔物を全て片付けて彼に駆け寄る。
腕を抑えてドアの前に転がるレウスは、何が起こったのか初めは理解が追い付かなかった。
しかし、そのドアの取っ手の部分に小さく浮かび上がる魔法陣を発見して納得した。
「あの男……このドアを開けようとすると痺れる様に罠を仕掛けて行きやがったんだ!!」
「えっ、そうなの?」
「ああ。しかもあいつはここから出る一瞬の間にその罠を張れるだけの技術を持っている魔術師らしい……くそっ!」
レウスの悔しそうな声が、石造りの部屋に反響した。