192.移動した先は?
レウスが若干面倒臭そうに返答し、魔法陣に向かって歩き出す。
ここは小部屋になっており、魔法陣以外何も無い。
それは、ここが魔法陣によるワープ地点として造られた場所だと言う無言のメッセージでもあるのだろう。
しかしその後ろではアレットが魔法陣に対しての更なる分析結果を口にし始めたので、一旦三人は足を止めた。
「うん……魔力は確かにここから遠くに向かって流れているわね。それなりに大きな魔法陣だから、遠い場所まで転移する為には十分な魔力と紋様があるわ」
アレットや魔術師達曰く、こうしたワープの為の魔法陣と言うのは陣の端に描かれている紋様の多さと複雑さ、それから注がれている魔力を全てドッキングして作り出されるのだとか。
しかし、ここまで大きくて精度も高いものはアレットはともかく魔術師達も見た事が無いと言う。
「確かに、これだと色々と何かをするには十分みたいだな」
「やっぱりあのセバクターって人、カシュラーゼと繋がりがあるんじゃないのかしら?」
「さぁな。でも俺達の敵って言うのは間違い無いだろう」
彼の事をそこそこ知っているらしいギルベルトは「あいつは自分の利益にならない事はしないタイプだ」と付け加える。
だが彼はそう言っているものの、あの風呂場事件で出会うまでセバクターと面識が無かったレウスにとっては実際の所はどうだか分からない。
「行くんだろ?」
「ああ。ここで突っ立っていても物事は始まらない。この先にあのセバクターが向かったかも知れない」
「分かった。でも……ここで魔法陣に乗ったら行ったっきりになるかも知れないぞ?」
エルザの忠告に、レウスは力強い目で頷いた。
「それでも行くしか無い。あの男が何か重要なヒントを握っている気がするし、俺だってまだ色々と聞かなきゃならない事があるんだからな。その為に俺達はここまで敵を倒して来たんじゃないのか?」
「……ああ」
逆にそう問われると、質問した側のエルザも言葉に詰まってしまった様だ。
「それじゃ行くぞ。皆、準備は良いか?」
エルザの確認に他の二人も頷く。
それを見たエルザがまず最初にその魔法陣の上に乗ってみると、青白い光が徐々に彼女の身体を包み込んで行き、一瞬強く弾けたかと思った瞬間に部屋の中から彼女の姿が消え去っていた。
「……行ってしまったな」
「じゃあ次は俺達だな」
ポツリと呟くレウスの傍らで今度はギルベルト、それからレウスもその魔法陣の上……エルザが姿を消した場所に足を進めてみる。
その瞬間、身体中が徐々に痺れる様な感覚がして来て、足元からジワリジワリと熱さが頭に向かって上がって来る。
不安半分、期待半分で何が起こるのかを待ちながらその熱さが頭のてっぺんにまで達した時、レウスは強いめまいを覚えた。
「ぐっ……!?」
目をギュッと閉じて思わずその場に片膝をついてしまう程のショックだったが、五~六秒ですぐにめまいも治まったので目を開けてみる。
すると今まで居た筈の小部屋と雰囲気が違う、何処かの石造りの大きな部屋に周囲の景色が変わっているではないか。
「あ、あれ……ここは……?」
「貴様も無事に転移が出来たみたいだな」
キョロキョロと周囲を見渡すレウスに、死角から降って来たのはエルザの声だった。
「転移の魔法陣は魔力を有していない荷物とかでも送り届けられる様になっているんだけど、それは五百年前の勇者の貴様にも通用するってのが分かって良かったよ」
「俺は魔力が逆にあり過ぎる位だ。それよりもここは何処だ?」
「さぁな。この部屋の様子だけじゃまだ確証は無いけど、アレットやイーディクトの魔術師達がああ言ってたんだったら、イーディクトじゃない別の何処かで間違い無いと思う」
「そうか。それじゃとりあえずあそこから外に出てみよう」
見知らぬ場所で再び全員が揃った所で今度はレウスが先頭になり、まずは自分達の視界に飛び込んで来た大きな両開きの金属製の扉に手を掛けた……その瞬間!!
「何だね、君達は?」
「っ!?」
聞き覚えの無い不機嫌そうな声がこの広い部屋の何処からか聞こえて来たので、三人は扉の外に出るのを止めて、その声のする方を一斉に振り向いた。
するとそこには長い黒髪に赤い目をしている、いかにも魔術師ですと言わんばかりの風貌の若い男が、その不機嫌さを隠そうとしないままそこに立っているでは無いか。
気配を消すのがやたらと上手いのか、それとも薄暗いこの部屋の中で暗い色合いの服と髪だから気づかなかっただけなのか。
どちらにしても、パーティメンバー全員が同じ部屋に居る彼の存在に気が付くのが遅れたのは、場合によっては非常に危険である。
「貴様、何者だ!!」
「何者だとはご挨拶だな。と言うかそれは僕のセリフだよ。君達こそ一体何者だ? どうやってここに入って来た?」
バトルアックスを構えながらそう問うエルザに対し、不機嫌そうな態度は崩さないままに黒髪の魔術師らしき男は質問に質問で返答する。
その彼の手には怪しい光を放つ杖が握られており、どうやら臨戦態勢なのはお互い様の様だ。