188.見えて来た思惑
東西南北に散らばってウォレスの町を調べていたメンバー達が、一旦最初に落ちて来た中央の広場に集まってそれぞれが手に入れた情報を纏めて整理し始める。
中でもサイカとギルベルトが出会った、カシュラーゼから派遣された傭兵軍団達から直に情報を聞き出せたのはかなり有益だった。
更にエルザ達が見つけた南のトンネルとその情報を組み合わせて、どうやらこのウォレスの町が埋め立てられた様に見せ掛けられていたずっと昔から、秘かにカシュラーゼから続く地下道が掘り進められていたと言うのが分かった。
「確かに、このウォレスの町があるイーディクト帝国の南の隣国はカシュラーゼだけど……わざわざそこからこんなに長い距離のトンネルを掘ってまで研究に使うなんて、言っちゃ悪いけど明らかにどうかしてるわね」
「いや……長い距離があるからこそ、じゃねえのか?」
「えっ?」
呆れ顔でカシュラーゼのやり方を批判するサイカに対し、それを横で聞いていたギルベルトが自分なりの意見を軍人らしくしっかりと述べ始めた。
「だってよぉ、幾ら隣国っつったってカシュラーゼとイーディクトはそれなりの距離がある訳だろ? 俺の居るリーフォセリアと、南にある黄色い国のルリスウェンだって地図上で見たら隣国だけど、実際はかなりの距離があるからな。だが、隣国は隣国だ。ドゥドゥカス陛下だって東のソルイールの横暴な皇帝の動きを気にしているし、南のルリスウェンのおっさん大公の動きには注意を払っている。まして、このイーディクトの南の隣国は悪名高いカシュラーゼの連中だからな。町をこうやって丸ごと地中に埋めちまう様な国だから、その警戒心は半端じゃねえと思う」
「……もっと要点を纏めてくれないか? 何が言いたいのか良く分からん」
変に冗長になるギルベルトの説明に苛立ったソランジュが、ハッキリと言いたい事だけを述べて欲しいと言うと、ギルベルトは苦笑いを浮かべてその要点を述べる。
「わりぃわりぃ。つまり俺が言いたいのは、こうやってここまで長いトンネルを掘ってまで、どうしてもドラゴンの復活をしたいって言う目的がカシュラーゼの連中にあるんじゃねえかって話だろ」
「それはまあ、確かにそうですよね」
エルザもそのギルベルトの意見には賛同している。
ギルベルトが言うには、北の隣国のここイーディクトや南の隣国エスヴァリーク帝国に警戒されない様にトンネルをわざわざここまで掘ったんじゃないか、と言う予想だ。
ただでさえ先の戦争において、南の隣国エスヴァリーク帝国の更に隣国であるヴァーンイレス王国を壊滅させた元凶が自分達カシュラーゼだし、このエンヴィルーク・アンフェレイアと言う世界の魔術の中心地とも呼ばれている国だからこそ他国が自分達に目をつけるのは当たり前だ、と考えている。
「だからカシュラーゼの連中は警戒心がつえーんだよな。そいつ等がドラゴンの復活を企んでいて、研究を進めているってのが他の国にバレたりでもしたらそれこそ世界中から非難殺到だぜ。だから表向きには魔術の研究をしているって事で平穏を保ちつつ、この埋め立てた町まで長----いトンネル掘って、ここで研究すればバレにくいだろうからな」
「カシュラーゼってそんなに危なっかしい国なのね……」
思わず身震いするアレットだが、その横からレウスが口を出して来た。
「でもさ、あのドラゴンの復活を考えているとしてその後はどうするつもりなんだ?」
「その後って?」
「だから、ドラゴンの復活を果たしたとしてそのドラゴンをコントロール出来る力がカシュラーゼにあるのかどうかって話だよ。カシュラーゼが魔術の中心になっているってのは分かったけど、あのドラゴンと実際に戦った俺だから分かる。あれは人が支配下に置けるドラゴンじゃないんだ」
「それ、もっと詳しく説明してくれない?」
アレットが食いついて来たので、レウスはアークトゥルスとして実際に戦ったエヴィル・ワンの話をし始めた。
「詳しくって言われてもなあ……とりあえず、並の騎士団だったら十秒で一国分が壊滅してしまうだろうな」
「そんなにか?」
「そんなにだ。あれが何故生み出されたのかは俺にも分からない。一説によれば五百年前……いや、それよりも遥か昔にこの世界の神のエンヴィルークとアンフェレイアが産んだ子供だって説があった」
そのエンヴィルークとアンフェレイアが産んだとされるエヴィル・ワンと、アークトゥルスとして実際に戦った事のあるレウスだからこそ分かる、奴の強大さ。
「もし本当にその神の子供だとしたら、完全に育て方を間違えただろうな。一国を滅ぼす事なんて造作も無い。赤子の手を捻る様に簡単な事なんだよ、あのドラゴンにとっちゃあな。俺はカシュラーゼって国を実際に見た事が無いからどれ位の軍事力とか、魔術の技術を持っているのかは分からないけど……あいつは確実に世界を破滅に導く存在だ。だから俺はあのドラゴンの復活だけは阻止させるべきだって思ってる」
「ああ、それは俺も同意見だぜ」
このままあのドラゴンが蘇れば、カシュラーゼが考えているよりも確実に大きな被害が出る。
あいつはコントロール出来ない……それがレウスの、いやアークトゥルスとしての感想である。