187.何とか、何とか何とか!
役割分担も決定し、まるでこちらの様子を窺うかの様に突進を止めていた金属の塊に二人は歩き出す。
その動きに反応したのか、金属の塊も再び背中の突起を起動させ始めた。
「私とお主の一対一だ。さぁ、始めよう!!」
得体の知れない金属の塊を前にしたソランジュはテンションが上がり、威勢の良い声と共に自分の愛用のロングソードを構える。
火属性の強化を施したそのロングソードの中に魔力を込めて更にパワーをアップさせれば、もしかしたらこの金属の塊を切断して倒す事も出来るかも知れないからだ。
一方でソランジュの援護をする事にしたレウスは、小型のサポート金属の塊達にそれぞれ攻撃を始める。
(こいつ等を倒したら俺もソランジュに加勢したいが、なかなか数が多いな……)
まずは一発ずつ攻撃を当て、その攻撃で自分にターゲットが向いたのを確認してからレウスは一旦この場から退却。
元来た通路を逆に走り始めて、敵をなるべく一か所に集めて纏めて魔術で殲滅出来ないか試す事にした。
そのレウスの背中を視界に捉えつつ、ソランジュは突進して来た金属の塊の巨体を、エレベーターの目の前の空間を目一杯使って転がって回避する。
(まぁまぁのスピードだけど、私の動きの方が速いぞ!!)
心の中で評価が出来る位の余裕があるが、次の瞬間その余裕が油断だった事をソランジュは思い知る。
背中の突起の横に設置されている砲身の様な場所がパカッと開いたかと思うと、その中から何と円筒状の弾――ミサイル――が発射された。
「なっ!?」
空気を切り裂いて迫って来るミサイルを見たソランジュは危機感を覚えて、咄嗟の判断で横の壁を蹴って宙返り。
間一髪でミサイルの直撃から逃れたものの、心臓がバクバクと暴れて呆然とするしか無い。
(はぁ、はぁ……あんなのってありか!?)
相手がそんな武器を持っているのだから仕方が無いとは言え、ソランジュは心の中で思わず悪態をつく。
しかし、ミサイルを魔術でブロック出来る自信があるかと聞かれれば答えは「NO」だ。
(なら、やられる前にやるだけだ!!)
自分のアクロバティックな動きで相手を翻弄し、その翻弄によって相手に隙が出来た所で一気に仕留めるのが特徴の剣術を使って、この金属の塊を一気に畳み掛ける戦法を取った。
まずは金属の塊の突進を避けて、まずは相手の脚目掛けて右手のロングソードを振るう。
だが、これはカーンと高い音を立てて弾かれてしまった。
(ちっ、普通の斬り付けじゃ無理か! それならこれはどうかな!?)
舌打ちしたソランジュはバックステップで距離を取り、再度撃ち出されたミサイルを床を転がって回避しつつ、ロングソードに更に魔力を込める。
これでダメだったらその時はまた別の方法を考えなければいけないと思いながら、ミサイルを回避したその低い体勢そのままに、ソランジュは先程の斬り付けよりも更にパワーが出る回転斬りのモーションに入る。
つまり、その回転する動きで魔術のパワーにプラスした、全力の斬り付けを金属の塊の脚に繰り出した。
するとその瞬間、彼女に取っては心地良い手応えと共に見事に金属の塊の脚が切断された。
「良しっ!!」
思わずそんな声が出てしまった程に、気持ちの良い手応えを感じたソランジュの斬り付けにより、バランスを崩した金属の塊は後ろの噴射口からを炎を噴射して体勢を維持しようとする。
だが、そんな状態で噴射口を使おうものなら……。
「くっ!!」
不安定な挙動を示した金属の塊の突進を避けたソランジュが見たもの。
それは、脚を使って噴射の勢いを壁にぶつかる寸前でコントロールしようとした金属の塊が、止まりきれず壁に大クラッシュして自滅した場面だった。
脚を一つ失えばバランスを大きく崩すのも当たり前である。
「や、やった……」
こうしていざ戦ってみると結構手強い相手だった……とソランジュは安堵の息を吐きながら、やや小ぶりのロングソードを握っている右手をダラリと下ろした。
しかしその瞬間、今まで忘れていたある事に気が付く。
(あっ、そう言えばレウスは!?)
小型の金属の塊を引き付けて走り去って行った五百年前の勇者の事をソランジュは思い出し、彼を探しに行こうと足を動かし始める。
幾らレウスが強いと言っても、あの見慣れぬ金属の塊の子分達が相手ではやられてしまうかも知れない。
だが、その心配は杞憂に終わった様だ。
何故なら走り出した彼女の目の前に、息を切らしてレウスが走って戻って来たので、ソランジュはこれで探しに行く手間が省けた。
「はぁ、はぁ、はぁ……あっ、ソランジュ! 無事だったみたいだな!」
「レウス! お主こそ無事で良かった! あいつ等の相手は大丈夫だったか?」
「ああ、結構な数が居て全部相手はちょっときつかったけど、魔術で全部ぶっ飛ばしたから何とかなったよ。ソランジュもソランジュでやるじゃないか!」
しかしこんな危険な物をこの研究所の中に配備していたなんて、レウスが考えているよりも更にカシュラーゼの連中は何か危ない事をしようとしていたのかも知れない。
更なる調査をする事を決めたレウスは、ひとまず研究所の調査を一旦止めて他のチームと合流するべく外に向かって歩き出した。