16.まずは身近な所から
登場人物紹介にゴーシュ・アーヴィンを追加。
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「だったら、まずはここから一番近い心当たりを探ってみよう」
「何かアテがあるのか?」
セバクターの提案に一同が注目し、彼は軽く頷いてからエドガーの質問に答える。
「学院長が在籍していたと言う、このリーフォセリア王国騎士団の本部だ。俺も傭兵として関わりがあるから、最も早く情報を集めるならそこからだろう」
「ああ、そう言えば君は入団試験の実技部門で小隊長に勝ったんだったな……」
レウスとの手合わせの前にエルザとアレットが興奮気味に話していたのを思い出したゴーシュが、納得の表情を浮かべる。
これでまずはあの逃げた二人組の行方を追う為の手掛かりが掴めそうな場所が分かったが、どうやら自分も付き合わなければならないらしいと言うのが、次のアレットとエルザのセリフでレウスにも分かった。
「じゃあ、レウスが回復したら一緒に騎士団の本部に向かおう」
「えっ、どうして俺も?」
「だって自分で言っていたじゃない。貴方はその赤毛の男とそれなりの時間を掛けて戦っていたんでしょ?」
「そうそう、だから追跡に参加しただけの私達よりももっと詳しい情報を騎士団の人間に伝えられるんじゃないのか?」
「……どうやら、拒否権は無さそうだな」
「分かっているならよろしい。お前からは回復魔術の形跡が感じられるから、ベッドから起き上がれるまでに回復するのに余り時間は掛からなさそうだしな」
セバクターとの手合わせの前にも思ったが、何故アレットとエルザは普段反目しあっている筈なのに、自分に話を振るこんな時だけ息がピッタリなのだろうか……と思わず溜め息が出てしまった。
その女二人を筆頭に医務室を出て行く一同の最後尾で、ふと思い出したかの様に振り返ったゴーシュがこんな一言まで。
「役得だな、お前も」
「意味が分からないし。さっさと親父も寝ちまえ!」
意味不明のゴーシュのセリフを受けたレウスの体調は、翌日の昼前にはすっかり回復していた。
遅めの朝食を摂ってから騎士団本部へと向かう為に準備をし始めたレウスだったが、頭の中は「何だか自分の意思とは違う方向に話が進んでいる」と言う気持ちで一杯だった。
(あー、早く地元に帰りたいな……。俺の見立てでは今頃乗り合い馬車に揺られて地元に向かっている筈だったのに、何故かリーフォセリア王国騎士団の本部に向かうって話になっているんだもんなあ……)
これが自分一人で行くのであれば、途中でヒッソリとバックれて地元に向かっていただろうが、あいにく父のゴーシュまで一緒なので自分だけがバックレる訳にもいかないのだ。
その事を分かっているレウスは、気が付けばリーフォセリアの王都カルヴィスの町中を他のメンバーと一緒に歩いていた。
騎士団の本部に向かう事になったのはレウス、アレット、エルザ、ゴーシュ、セバクターの五人である。
本来であれば学院への侵入者が現れたと言う事でエドガーも来る予定だったのだが、学院長と言う立場の為に色々と執務や学院のセキュリティの見直し等をしなければならないらしく、彼抜きのこの五人が聞き込み調査のメンバーとして選ばれたのだ。
その道すがら、レウスはふと疑問に思った事をゴーシュに聞いてみる。
「そう言えば親父って、せっかく入団出来た王国騎士団を三ヶ月で辞めてしまったのってどうしてなんだ?」
「んー、人間関係につまずいたからだ」
家では、晩酌の時間に騎士団を三ヶ月で辞めてから冒険者として世界中を回る様になったと言う話を良く聞かされていたが、辞めたと言う事だけでその理由までは聞かされていなかった。
そして今、ゴーシュは簡潔にその理由を述べたのである。
だが、それを横で聞いていたエルザが話に入って来た。
「ふうん、人間関係か……。私もエドガー叔父さんから聞いていたけど、騎士団はクセのある人間も結構居るってのは間違いないみたいだな」
「そうなの?」
「ああ。王国騎士団は国民を守る為に模範とならなければならないのは授業で礼儀作法の座学があるから知っていると思うが、必ずしも全員がそんな模範的な人物では無いだろうし、エドガー叔父さんが言うなら間違い無いだろう」
思わず尋ねたアレットにそう説明するエルザを見て、レウスは自分の前世の事をふと思い出していた。
(その辺りは五百年前と変わっていないみたいだな。あの時代の騎士団の連中も、変わった奴が各国に絶対一人は居たもんだ。幾ら年月を重ねた所で、人間や獣人の本質はどうやら変わらないみたいだな)
そう思っているレウスの横で、今度はセバクターがリーフォセリア王国騎士団について知っている事を口走った。
「そう言えば……最近王国騎士団の前の団長が年齢を理由に引退して、今は確か虎の獣人が新しく騎士団長の座についたと言う話を聞いた事がある」
「ああ、それもエドガー叔父さんが言っていたな。かなり荒っぽい性格の虎獣人だけど、腕は確かで幾つもの戦場で数々の功績を挙げている、ハルバード使いの叩き上げの騎士団長だ。確か名前は……」
「おい、着いたぞ」
エルザが名前を思い出そうとしたその時には、既に一同の目の前に王国騎士団の本部の建物が鎮座していた。